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現代に「よみがえった」ニグロリーグ:日本未公開野球映画を観る(41)

Finding Buck McHenry(2000)

※「日本未公開野球映画を観る」カテゴリーの作品については、基本的に結末まで紹介しています。ご了解のうえお読み下さい。

名前を変えた大投手

 少年野球と往年のニグロリーグを絡めた、児童書が原作のテレビ映画。
 11歳のジェイソンは野球カードのコレクターでマーク・マグワイアに心酔しているが、プレーは下手で、リトルリーグのチームを辞めさせられてしまう。親しいカードショップの店主にコーチが見つかれば新チームのスポンサーになってやると言われ、学校の用務員マック・ヘンリーが野球に詳しいことを知ってコーチを依頼。マックは躊躇するが、両親を交通事故で亡くした孫のアーロンがやる気になったため引き受け、町に引っ越して来たスポーツキャスターの娘キムも加わる。
 マックに昔のニグロリーグのことを聞いたジェイソンは、彼に似た「バック・マクヘンリー」という投手のカードを見つけ、これはマックだと確信するが、本人は否定する。3年間で90勝したマクヘンリーは、法に触れる行いをして球界を去ったとされている。諦めきれないジェイソンは、カンザスシティのニグロリーグ博物館に調べに行くが、マクヘンリーの親友でチームのオーナーだったジョンストンから彼は死んだと聞かされ、墓も見せられる。
 戻ったジェイソンはマックに誤解を詫びるが、試合でスパイクされたときにできたはずの足の傷を目にしてあらためて問うと、マックはマクヘンリー「だった」ことを認める。
 キムの父の番組に招かれて語った真相はこうだ。40年前、南部を巡業中に白人のセミプロ・チームと対戦したとき、黒人のプロが負けるのを期待する観客の差別的なヤジがひどかったため、本気を出して満塁ホームランを打ったところ、次の回の守備で走者にひどくスパイクされ、思わず殴ってしまった。観客が怒って暴動のようになり、命の危険を感じて逃げたが、逮捕状が出たので自分は死んだことにして、以後野球には一切関わらずマック・ヘンリーとして生きてきたのだ。
 番組を見た多くの子どもが集まり、チームは急成長。シーズン後のパーティーでジョンストンと40年ぶりの再会を祝うのがラストシーン。

数少ない「ニグロリーグ映画」

 ニグロリーグに関わる映画は、何度も作られたジャッキー・ロビンソンの伝記を除くと意外に少なく、The Bingo Long Traveling All-Stars & Motor Kings(1976)と『栄光のスタジアム』(原題Soul of the Game:1996)ぐらいしか思いつかない。いずれも舞台はニグロリーグのあった当時で現代と絡めた作品はほとんどなく、その意味でも貴重だ。
 児童書が原作なのでストーリーはシンプルだが、ヘンリーのもとに集まった3人がそれぞれ疎外された存在であるのが重要だ。ジェイソンは技量が足りずチームを追われ、キムはうまいのに女の子というだけで門前払いされ、アーロンは黒人で両親を亡くしている。この「はみ出し者」たちが作った新チームが思わぬ形で注目され強くなるというストーリーはニグロリーグそのものと重なっているし、そのチームが白人、黒人、女子により統合されている(integrated)のは現代的だ。また、両親のいるジェイソンのみならず、両親のいないアーロン、母親がいないらしいキムのいずれも、今の保護者はきちんと愛情を注いでいるので、ストーリー展開にかかわらず3人はしっかりと基盤を持っていて安心できる。
 とはいえ疑問もある。まず、野球オタクのジェイソンがニグロリーグのことを全く聞いたこともなかったのは不自然だろう。確かにニグロリーグがほとんど忘れられていた時代もあったが、2000年時点では再評価が十分進んでおり、主人公が知らなかったというのは本作の基調であるニグロリーグへのリスペクトとそぐわない。
 もうひとつ、マック・ヘンリーがバック・マクヘンリーであることを長年連れ添った妻も知らなかったという理不尽。彼女は夫の思いを理解してこの衝撃的な事実を受け入れるが、本作で唯一排除されているのが彼女だと言えば言い過ぎだろうか。ちなみにこの夫婦は、スパイク・リー作品の「常連」で公民権運動の活動家としても知られるオシー・デービスとルビー・ディーという、実生活でも夫婦だった「大物」二人が演じている(ともに故人)。また、ディーが注目されたのは『ジャッキー・ロビンソン物語』(1950)のロビンソン夫人役だった。
 ファミリー向けの小品ではあるが、このようにブラック・ムービーとしても見どころが多く、忘れられるべきでない作品だろう。

 マクヘンリーの墓を作って唯一真相を知っていたジョンストンは、カブス初の黒人選手でスーパースターになったアーニー・バンクスが演じているが、彼は本作や『ワン・カップ・オブ・コーヒー』(1991)など10本以上の映画やテレビドラマに出演している。
 また、本作の舞台は明示されていない。ジェイソンはカージナルスのキャップやジャージを身につけているが、2000年にマグワイアのファンだったからだろうし、キムは登場したときマリナーズのキャップをかぶっているが、引っ越してきた設定なのでここがシアトル近辺とは限らない。またアーロンは両親を亡くしてメンフィスから祖父母のところに来たが、それがどのくらい遠いかはやはり示されない。そんなわけで、はっきりしているのはカンザスシティに飛行機で行くのでカンザスシティ周辺ではないことだけである。撮影地はトロントだが、番組でキャスターはマクヘンリーの人生を「アメリカだからこそ起こった実話」と紹介しており、もちろんカナダでもない。アメリカの(KC以外の)とある町、ということだろう。

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