彼岸旅館のとある一室での出来事 水織様
水織は彼岸旅館で小物を作っていた。それは、彼岸花があしらわれており蛍も飛んでいる素敵な装飾品であった。
特に竹の装飾に気を付けており、竹をかき分けた先に彼岸旅館があるように表現したく創意工夫を行った。
「出来た~」
渾身の出来の小物を手にする。
なにも形がなっていない物が自分の手で形作られていったり、キラキラしたものを作ったりするのが水織は好きだ。
邪竜だった魂は光り輝く物が好きだった。村の少女は小物作りが好きだった。このふたつの魂が融合した水織は光り輝く小物を作るのが本当に好きだった。
出来上がった小物を上に掲げて月明かりに照らそうとする。その時、かたわらに置いていた工具に手が当たってしまった。
「あっ!」
そう思った時にはもうすでに遅し。装飾に使われていた工具は床に散らばってしまった。
「あ~またやっちゃった~!」
うっかりしてしまう水織はこうして作品を作る時に工具を散らばらせてしまうことがたまにあった。
「急いで片付けて女将に見てもらおう!」
散らばった工具をかき集めてきちんと元の場所に戻す。そして、女将に小物を見せるべく部屋を飛び出した。
「あいた!」
段差につまづきながらも廊下を歩いていく。その道中でほかの誘魅たちが口々に声をかけてきた。
「あれ、水織さん。また小物出来たの?」
「はい!」
「あの彼岸花の細工可愛らしかったねぇ」
「ありがとうございます!」
「また楽しみにしているよ! 私にもひとつ作ってくださいな」
「まかせてください!」
さっそく新しい小物の案が頭に浮かぶ。かつての山奥に封印された孤独な邪竜や虐げられて力尽きた少女の面影はなく、そこには様々なものと交流し物作りを楽しむ誘魅の姿があった。
これからも水織は様々な小物を作り、誘魅の方々とお話をしていくことだろう。
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