シロエの回想
あの時僕……僕は
シュミットさんが誰かと話しているのを聞いた
内容はとてもショッキングだった
この村はそんな村だったのか……
この村の子供たちはどこかから連れ去られた
子供で、voiceに“納品”されていた
僕とフィアが特になにも詮索されることなく
受け入れてもらえた理由が分かった
仕事として栽培していたもの、それは
恐ろしい草だった
それを栽培し、子供を納品することで
色々許された村だった
この村からフィアと逃げることもできた
ここで出会ったエマやミアを置き去りにして……
そっと戻った自室でぐるぐると考えを巡らせている時だ
ガチャリとドアが開いた
「シロエ」
シュミットさんだった
僕は背筋にじわりと汗が滲んだのが分かった
だけど、身体は冷えていた
「さっき、いたな?」
僕の知っているシュミットさんとは
思えないような、気味の悪い笑いを浮かべた
僕はシュミットさんを突き飛ばし
外へ逃げ出した
どこまで走ったんだろう
村の真ん中あたりの例の草の畑に出た
この先はもう先にはいけない
風が横に走り抜けてゆく
ビュウビュウと耳元で音を立てて
僕の偽物の金髪が風になびいた
「シュミットさん、あなたは何者なんですか」
僕はシュミットさんに向き合った
距離は15メートルくらいあっただろうか
ご老人のシュミットさんは
肩で息をしていた
「俺か?俺はこの国のただの退役軍人だが?」
「退役軍人が何故こんな非人道的な事を」
「さぁねぇ、ある日突然仰せつかった役職さ!まぁ退役後は仕事もなく飲んだくれてた俺には面白い話だったよ!他の村人だって似たようなものだろ、子供を廃人にしてvoiceとやらに渡しておきゃ、なんにも咎められることもない!オブライエンとやらも大目に見てくれそうだったしな!この先誰がオブライエンのターゲットになるかも誰にも分からん世の中だからな!恩を打っておいて損はねぇ」
「あなたはvoiceの手先なのか?」
「voiceもオブライエンも知らねぇよ、言われたことをやってるだけだ、でもなクソガキ!この世界は俺ら大人やお前たちガキには分からんもんで溢れてるんだ!」
確かに、そうなのかもしれない……
こんなのほんの一面に過ぎないのかもしれない
「誰も……逆らおうとしないから……」
かろうじて僕がそう言うと
シュミットさんは大きな笑い声をあげた
「バカが!!これだからガキはよぉ!!逆らうもなにもある日突然voiceができて、オブライエンとかいう訳の分からん名前が出てきて、まるで見せしめみたいに1つの国や人種を滅ぼしてみろよ!それを目の当たりにして逆らうやつがどこにいるんだよぉお!!」
「自分たちじゃなくてよかった、そう思うだけだろうが!そういうシステムに変わったのならその中でうまく生きてかなきゃ殺されるからな!実際、あの国はあっという間に亡きものにされ執拗にニホンジンが浄化されたのを見てなにができるよバカガキがよ!」
「エマ……ミア……」
「ここにいるガキどもはもう廃人だ!お前たちもすぐ仲間入りできるさ!知ってしまったからには特別早く仕上げてやるからよ!ほら!こっちにこいシロエ!ハハハハハハ!」
僕はこの時
明確な殺意をシュミットさんに持ったんだ
殺そう……って。
こんな村がある限り、エマやミアや僕らのような
子供たちが増えるだけだ
この感情は別に正義じゃなかったと思う
ただ、憎しみだったと思う
そんな時、気づいたら
シュミットさんは火の輪の中にいた
「え……?」
僕は目を疑った
僕から離れたシュミットさんのさらに後ろに
笑うミアが見えたんだ
火のついた松明を持って
ボサボサの髪の毛に、まるで引き裂かれたような
ワンピースを着て
強い風に揺らめきながら
一点を見つめながら
大笑いするミアが。
「ミア!松明を捨てて!!ミアにも飛び火する!」
「うわああああああああ!」
シュミットさんの叫び声など耳にも入らない
シュミットさんはもう火だるまだった
助からない
どうでもいい
「ミアぁぁあ!!」
まもなくしてミアにもその手元の火は飛び火した
ミアもまたシュミットさんと同じ姿となった
火はまたたく間に燃え広がる
僕は黙っていた
火事だ!!逃げろ!!と村を走ることもなく
「ミア、これでいいんだね?これがキミの望みなのでしょう?」
そう呟いた
あの時火事だと走れば誰かは助かったかもしれない
しかし、この村が助かったとして、子供たちが
助かったとして?
なにが待ってる?
こんな村なら消えた方がいい……
もう子供たちも苦しまなくていい
それが僕の選択だった
僕が滅ぼしたみたいなものか
シロエがきた時の私は
私の中のモヤが少し晴れた気がしていた
これが私の選択なのだと
まるでこの為に導かれてここに来たような
気すらしながら……。