オブライエンの視察
今日はオブライエンの視察の日という噂がある
オブライエンの視察は、ニホンジンを探すためのもの
ほとんど残ってなどいないニホンジンを、一人残さず
淘汰する為に
抜き打ちで無人のドローンが徘徊する
そこまでして、ニホンジンが憎いのだろうか
オブライエンは。
「シロエ帰ろう」
「うん」
「ドローンに見つかったらめんどうだ」
「門の前で待っててくれフィア」
「わかった」
……
………
「先生これ」
「ああシロエ日直お疲れ様、気をつけて帰れよ」
「はい」
今日はどこかでオブライエンの視察があるからな
すぐに家に帰らなければ
とはいえ、オブライエンの視察の噂は
何度も聞いたことがあるけれど実際僕は
見たことがない
もしかしたらただの噂では?と思うことも
なくはない
そこまでしてvoiceがニホンジンを淘汰したいのか
と思う
「お待たせフィア!」
「シロエ!」
フィア?
「シロエ、急ごう!たぶん近くにいる!」
「なにが……」
フィアは血相変えて僕の腕を掴んで走り出した
たぶん近くに……?
オブライエンの視察……ドローンが??
「わぁぁぁぁあ!!」
少し離れた所から悲鳴が聞こえる
なんだ?
曲がり角の先を見るフィアの顔は青い
「フィア……?」
「シロ……シロエは見るな……」
僕の手首を掴むフィアの手は震えている?
僕は、フィアの言葉に逆らって
一歩先に踏み出した
角に追い詰められた男性は、綺麗な黒髪と
黒い瞳をしていた
「た、助けてくれ……」
僕は……やはりこの言語を知っていた
「助けてくれ、何故だ、何故オブライエンはオレたちを殺そうとする……なにをした?やめてくれ、やっとここまで逃げてきたのに……生き延びてきたのに……」
ジョウカタイショウ……
ニホンジンノオソレアリ
スキャンシマス
ピッ
ソウカ……オマエハニホンジンカ
マダノコッテイタノダナ
「待ってくれ!やめてくれ!殺すな!頼むよぉ!」
そう男性は泣き叫んだ
男性に話しかけるドローンの言葉は
冷たい
ほんの一瞬、男性の胸元に光が照射された
それは、直径1センチくらいのほんの小さな
光……
その後は、その光の場所から
男性の内側がまるでめくれ上がるかのように
飛び出した
肉……?
一瞬して人の形を失った
その山をさらにドローンは照射を続ける
ピッ、ピッ……と
まるでレジに通す商品のように
そしてその山はまるでこの世界から
デジタル上のdeleteのように
削除されていく
飛び散った血は綺麗さっぱり洗浄された
吐きそうになった……
フィアはそっと僕腕を取ったまま
元きた方へと翻った
僕は我に返った
少し忍び足ですすんだあと
全力で走り出した、ウソみたいに物音すら立てずに
呼吸すらしてなかったかも、しれない
「あと少しで家だから!頑張ってシロエ!」
バタン!と大きな音を立てて家に入った
「シロエ?」
僕はその場にへたりこんだ
手も足もすべてガタガタと震えていた
これが、オブライエンの視察
これが、オブライエンの意思
何故
何故ここまでひどい殺し方ができるだろう
僕も見つかればあんなふうに内側から
噴き出して死ぬのか
いやだ……そんな死に方はイヤだ
こわい
見つかりたくない
いやだ、こわい、いやだ
「シロエ、落ち着いて!」
ガタガタが止まらない
何度も脳裏に焼き付いたあの男性の死に方が
繰り返される
匂いまで鮮明に思い出されて……
「うぐ……」
「シロエ!待ってて今お水を持ってくるから」
食べたものもなにもかも
吐き出してしまった
耐えられない
あんな殺され方
……
…………
「お母さんシロエは?」
「大丈夫よ、今は寝てるわ、お父さんの薬が効いたみたい」
「そう、よかった……」
「ショッキングだったのね、オブライエンの視察、にわかに噂にはあったけれど私も見たことは……フィア、あなたは大丈夫?」
「僕もショッキングだった……だけど大丈夫だよ」
「そう、でも後から出ることもあるからその時はムリせずにちゃんと言いなさいね」
「分かった、お母さん」
シロエ……あんなに吐いて……
手も身体もガクガク震えて……
焦点すら合っていなかった
それはそうだ、自分もあんなふうに殺されるかも
しれないんだ、それを目の前で見て
平気なはずはない
シロエと出会って6年近く経つけれど
僕はシロエの笑顔を見たことはまだない
いつか、見れるのだろうか
キミの笑顔を