マガジン

  • お返事

    サイトやいただいたお言葉へのお返事になります。

最近の記事

「みにくい小鳥の婚約」謝辞

「みにくい小鳥の婚約」が9/13に発売されました! 富士見L文庫さんからまたお話を出せたこと、しあわせに思います。 本作をはじめに担当さんに相談したのは、確か「お嬢さまと犬」受賞後すぐのことだったと記憶しています。もう1年以上前ですね。「旧家の男の子がヒロインと契約結婚して、死んだ姉の真相を追う話」みたいな内容だったと思います。そこから設定はいろいろ詰めましたが、大筋はわりと変わっていませんね。 一族ものがすきです。web作品なら「蒼穹、その果て」、商業なら「モノノケ踊りて、

    • 病的な恋のロンド〈22話・最終話〉

      #創作大賞2024 #恋愛小説部門  22 爽、愛を捧ぐ。  結局、菫は勝ち逃げできなかった。  つまり、なんと蘇生した。あの状態からひとが蘇生するように見えなかったので、心電図が通常の波形を描き始めたときは、逆に何かのまちがいかと思った。ぽかんとする爽の横で、おなじようにぽかんとした日魚子が床にしゃがみこんで泣きだした。  ――あれからひと月。  菫が入院する病院にひとり向かっていると、澄んだ花の香りが鼻をくすぐった。白梅だ。外気はまだつめたかったが、もう少しすれば立春

      • 病的な恋のロンド〈21話〉

        #創作大賞2024 #恋愛小説部門  21 日魚子、愛を乞う。    トンネルを抜けると、一段空の色が重く変わった。  冬の新潟の空の色はいつもこうだ。灰色がかっていて、きづけば、ちらほらと雪が降ったりやんだりする。日魚子が生まれ育った街は海沿いにある。潮のにおいと雪のにおい。灰色の空とおなじ色の海と、まっしろな雪。子どもの頃を思い出すと、いつもその景色が脳裏にひろがる。  日魚子は新潟行の夜行バスに乗っていた。  時期柄、周囲には帰省客が多い。カラフルな大小のキャリーケ

        • 病的な恋のロンド〈20話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  20 爽、ダメ出しされる。  その街を選んだのは、できるだけ旧居から離れていて、かつ会社まで電車で三十分圏内の街のなかで、商店街にいちばん活気があったからだ。爽は可能なら八百屋で野菜を買いたいし、肉屋で肉を買いたい派である。安くておいしいからだ。  クリスマスを過ぎて年の瀬が近くなった最後の土曜日。  雑煮用の食材を買い終え、爽は近くの駅に向かう。  去年までは雑煮に加え、おせちも作って日魚子と食べていたが、さすがにひとりだと消費しき

        「みにくい小鳥の婚約」謝辞

        マガジン

        • お返事
          3本

        記事

          病的な恋のロンド〈19話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 19 日魚子、鍵を返す。  爽がマンションの部屋を解約したことを知ったのは、東京で初雪が舞った十二月のはじめだった。  その日、日魚子が朝から部屋の掃除をしていると、隣室がなにやら騒がしくなった。誰かが土足で出入りする気配に、物が運び出される音が続く。いぶかしんで、ドアを細くあけると、ちょうど目の前を見覚えのあるテレビラックが通過していった。  はい階段気をつけてー、オッケー、声をかけあいながら、ナマケモノマークの引っ越し業者の作業員が

          病的な恋のロンド〈19話〉

          病的な恋のロンド〈18話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  18 爽、弁明する。  奥飛騨温泉郷から帰ったあと、日魚子が爽の部屋に訪ねてきて言った。  ――はじめさんにぜんぶ知られてしまった。 「ぜんぶって、どこまでだよ」  眉をひそめ、爽は訊き返す。  日魚子はいつものように靴を脱いで爽の部屋に上がらない。ドアをひらいた爽のまえで、「ぜんぶだよ」と低い声で言った。 「そうちゃんとわたしが同じ街で生まれた幼馴染だってこと。夏に一緒に帰省していたこと。そうちゃんがこのマンションに……わたしの部屋

          病的な恋のロンド〈18話〉

          病的な恋のロンド〈17話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 17 日魚子、再び嘘をつく。 「日魚子」  爽に呼ばれたとたん、とっちらかっていた思考が急にクリアになるのがわかった。  あ、爽に触れたい、と思った。  あんなにも厳重にくびきにかけていた理性がほどけて、大地に見られたらとか、今この瞬間に従業員がドアを開けたらとか、うずまいていた雑念がぜんぶどこかにいってしまう。クリアになった思考の隅で、べつの日魚子が言う。――でも、そうなったら爽は日魚子を捨てるよ? この一度きりで捨てられるよ? ほか

          病的な恋のロンド〈17話〉

          病的な恋のロンド〈16話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  16 爽、天秤にかける。 「そうちゃん」  ニットに大きく白と紺のストライプが入ったフレアスカートをあわせた日魚子は、いつも使っているキャリーケースを前に置いて、ぽかんとした顔で爽を見ている。爽も爽で、予想外の場所で日魚子に鉢合わせたので、とっさに反応が遅れた。日魚子は旅行に出かけるなんて言っていたか? べつに日魚子の予定すべてを把握しているわけではないけれど、知らなかった。 「あれ、深木?」  チェックインの手続きを終えてきたらしい

          病的な恋のロンド〈16話〉

          病的な恋のロンド〈15話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 15 日魚子、ぎくしゃくとする。 「日魚子?」  きづかわしげな大地の声で、日魚子は我に返った。  遠かった喧騒が急に戻ってくる。日魚子のまえには、カフェの店員が運んできたランチプレートが置かれていた。流行りの薬膳カレーのお店だ。日魚子がスプーンも持たずにぼんやりしているので、心配した大地が声をかけたのだろう。  今日は朝から大地と美術展に行き、そのあと美術館近くのカフェに入った。 「あっ、ごめん。ええと、なんだっけ?」 「キャラメルが

          病的な恋のロンド〈15話〉

          病的な恋のロンド〈14話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  14 爽、かくれんぼする。  なにがどうしてこうなった、と爽は言いたい。  いったいなにがどうしてこうなった? 「――はあい! 今、鍵あけるね」  玄関に向かった日魚子が部屋のドアを開ける音がした。明るく詫びる大地の声。ごめん、夜中に急にびっくりしたよな。ううん、いいよー、あがって。応える日魚子の砂糖菓子みたいな声。――を爽は吹きすさぶ雨風のなか、不倫男こと森也と身を寄せ合ってベランダで聞いている。  森也を引きずって爽の部屋に避難す

          病的な恋のロンド〈14話〉

          病的な恋のロンド〈13話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 13 日魚子、窮地に陥る。 「追い出せ」  アパートのエントランスから外に視線を投げやり、爽が言った。  台風が近づいているため、強くなった風が道端の空き缶を転がしている。少し前まで小降りだった雨は、時折車軸を流すように強くなった。 「でも」とためらった日魚子に舌打ちして、爽は森也の肩をつかんで外に押し出す。今日の爽はいつも以上に怒りの沸点が低い。もともと爽は会社で余裕ぶって見せているほど寛容じゃないし、すぐに手が出る。でも今日は放って

          病的な恋のロンド〈13話〉

          病的な恋のロンド〈12話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 12 爽、逃避する。  いつもより早く部屋を出ると、同じタイミングでとなりの扉がひらいた。  こちらにきづいた日魚子が、思わずといったようすで「あっ」と声を上げる。 「……おはよう。もう出勤して平気なの?」 「おかげさまで」  高熱で朦朧としていた爽を日魚子が病院に連れて行ったのが数日前。  処方された薬をのんで眠り、翌朝になる頃には熱はだいぶ下がっていた。その頃には日魚子はそばにいなかったが、冷蔵庫のなかには湯せんのお粥やスポーツ飲料

          病的な恋のロンド〈12話〉

          病的な恋のロンド〈11話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  11 日魚子、嘘をつく。 「はい、これ新潟土産」  久しぶりに会った大地に、日本酒入りのフィナンシェを渡す。それと洋梨のホワイトチョコレート、お試し日本酒セット。ひとりぶんの土産量としては多いが、これでもかなり絞ったほうだ。  お盆休みは互いの帰省ですれちがってしまい、会うことができなかった。今日は休み明けの週の金曜で、日魚子と大地はいきつけになったダイニングで飲んでいた。 「いっぱいだな」とわらった大地が、リュックの横に置いていた紙

          病的な恋のロンド〈11話〉

          病的な恋のロンド〈10話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門 10 爽、打ち明ける。  朝起きるなり、玄関灯の電球を取り換えてくれ、と透子に言いつけられた。  高い位置にあるため、透子も翔太も届かないらしい。寝ぼけた頭で、しかたなく物置から脚立を引っ張ってくる。立て続けにくしゃみをした。昨晩、冷房をかけすぎたらしい。マンションの空調機と効き具合が微妙にちがうので、帰省するといつもこうなる。 「やだー、風邪?」  爽に電球の取り換えをさせるあいだ、姉はうちわを片手に梅ジュースを飲んでいる。いいご身分

          病的な恋のロンド〈10話〉

          病的な恋のロンド〈9話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  09 日魚子、墓参りにいく。  新潟の夏は涼しい、というのは嘘八百だ。  確かに新潟の冬は厳しい。毎日雪曇りが続いて、日本海に面した故郷の街では、朝夕となくどさどさ雪が降る。けれど、夏も同じくらい厳しい。ひとが生きるのに適していない場所だと思う。  蝉がわんわん鳴きたてる坂道を、日魚子は花を腕に抱えてのぼっていく。となりでは爽が水の張った手桶を持っている。霊園は高台にあるので、この時期の墓参りはしんどい。辟易としているのか、お互い無言

          病的な恋のロンド〈9話〉

          病的な恋のロンド〈8話〉

          #創作大賞2024 #恋愛小説部門  08 爽、帰省する。  じりじりした日射しがハンドルを握る手の甲を焼く。  見渡すかぎり連なった車の列に目を向け、爽は口に放り込んだタブレットを噛み砕いた。口内に強烈なミント臭が突き抜ける。緩慢な睡魔は消えない。 「運転代わろうか、そうちゃん」  助手席に座った日魚子がスマホで渋滞情報を調べつつ声をかける。高崎ジャンクションから二キロの渋滞が続いている。ここから北陸自動車道を経由して新潟まで、まだまだ道のりは遠い。 「つうか、腹減った

          病的な恋のロンド〈8話〉