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夢を見るなら先の未来がいい

幼い頃から美容院が嫌いだった。
人に髪の毛を触られることが嫌い。美容師さんと話すのは苦手。
そして癖っ毛であることを指摘され、相槌を打つのが何よりも嫌いだった。私だってこんなに癖つよな前髪は嫌なのに、「前髪浮きがちですね〜」なんて、言われなくたってわかってる。美容院と歯医者どっちが好きかという問いには、間髪入れず歯医者と答えるだろう。

10代の頃からずっと通っている美容院があって、近所だし予約不要で価格帯もちょうどいいので、家を引っ越してもなお通い続けている。働いている方もほとんど私の髪を切ったことのある人だし、気兼ねなく会話できるので美容師さんとのコミュニケーションが苦手という問題は解決していた。

しかし、先日新しく勤務し始めた美容師さんが担当してくれることになった。ここに通う限りはもう経験することはないだろうと思っていた、初めましての方に担当してもらう緊張感。予約がいらないからって考えていた私は甘かった。
話していることの大半が耳に入らないほど緊張し、店内は涼しいのに脂汗が止まらない。呼吸も浅くなり、手のひらに爪の跡が残るほど手をギュッと握りしめていた。

なんでこうなっちゃうんだろう、考えてみてもわからない。鏡に映る私は顔が強ばり目が真っ赤になっていた。髪の量を減らしてもらい、長さをどうするか話しかけられたところで涙が出た。

美容師さんはとても驚いて、私にずっと謝り続けていた。むしろ謝るのは私の方なのに、喉がつっかえてうまく言葉が出ない。お互いが「すみません、すみません」と言い合って気づいたらお会計に。カウンターで私はもう一度ちゃんと謝ってからふらふらと帰路についた。

本当に本当に情けなくなる。家に帰ってからも美容師さんの驚いた顔が忘れられずまた涙が。申し訳ないことをしたと後悔と罪悪感で胸がいっぱいだった。
多分1人で生活していたら、部屋の中でぼーっと何時間も過ごしていたかもしれない。父はめそめそと泣き続ける私に何も言わず、夕飯の支度をしてくれた。


高校を卒業してすぐに始めた書店のアルバイトで、勤務歴10年を超えるベテランパートの方によく「小松はとにかく根性がある」と言われた。体育会系の部活動をしていたわけでもなく、どっちかというと根性とは無縁の性格だと自負していたので、うやむやな返事をしてしまった。

今の時代には合わないかもしれないが、小松家は絶対に学校を休んではいけない家庭だった。お腹が痛くても微熱があっても「とりあえず行ってみて、無理だったら帰って来なさい」。友達グループと喧嘩して仲間外れにされても「そんなの休んでいい理由にはならないでしょ」。何を言っても朝8時にはランドセルと共に家を出されるので、当時は母がとても恨めしかった。

今考えてみると、それが根性に繋がったのかもしれない。現に仕事で置き換えてみると、職場で嫌なことがあった時、トラブルを起こしてしまった時、もう行きたくないと心の中で思っていたとしても自然と足は職場へ向かっている。あの時母に「学校行かなくていいわよ」と言われていたら、休む選択をとっていたかもしれない。パートさんに褒められるような根性を叩き込んでくれた母に、今となっては感謝している。

私が考える根性は、何があっても「やります!」と言う人。でも私は嫌なことは嫌だと言うし、やりたくないことはやらない。自分の中にある根性論とは離れているが、根性あります!って自分から言うのは不思議とあまり抵抗を感じない。(きっと褒められて伸びるタイプなので•••)


実は先日から転職を考え始めて色々と模索中。聞き慣れない単語を聞いたり周りと自分を比べてしまい涙が出ることも多いけれど、櫻坂46の歌詞にある「夢を見るなら先の未来がいい」という言葉に何度も励まされている。きっとこの先、私は何度も泣いてしまうだろう。でも大事なタイミングで何度も涙を拭いて立ち上がる気がする。いつかは、初めて会う人に髪を触られても泣かない心を持ちたいものだ。

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