無双ホームレス 第2話(プロット)
学校
翔弥の通う高校。
私立明鏡塾(めいきょうじゅく)高校。
翔弥が通う高校は個人事情の融通が利くことが
業界では有名であり、要人の子供が多く通っている。
複数のSPに囲まれ高級車で登校する女子生徒。
黒髪ロングの銀縁眼鏡で地味な風貌。
銀行頭取の令嬢、大手総合商社会長の孫、
官房長官の娘、皇族、など様々な憶測が飛び交い
女子生徒の正体を知る者はいない。
彼女の名は「早川日向(はやかわひなた)」
日向は登校し教室に入るなり、鞄から文庫本を取り出し、
周りとの関わりを遮断して自分の世界に没頭する。
翔弥は日向の隣の席になった。
何事も我関せずの日向は、珍しく本から目を離し顔を上げる。
「今日は石鹸のにおいがするな…」
日向は翔弥の首元でくんくん鼻を鳴らしながら
翔弥のにおいを嗅ぐ。
日向の行動に驚きを隠せないクラスメイト達。
日向は全く気にせず、また本を読み始め自分の世界に入り込む。
(翔弥回想)
前日、翔弥の高校生活初日、翔弥が担任に案内された席は
日向の隣の席。
全くの無関心を決め込んだ日向は、
翔弥が席についても表情一つ変えず
本を読み耽っていた。
その5分後…
日向が急に読んでいた本を閉じ、ノートに何かを書き殴る。
書き終えた日向はそのページをそっと破り、
翔弥の机の上に静かに置く。
「ゴミ箱にでもダイブした?におうよ」
ホームレス生活をしていた翔弥は、
身だしなみさえ整えれば身元を隠せると
過信していたことに気が付き、
自分の体臭に無頓着だったことで、
正体がバレることを恐れ、冷や汗をかく。
その様子に気が付いた日向は、
また本を閉じノートに何かを書き殴り、
そのページを破って翔弥に渡す。
「私、鼻がすんごく良いの。
私しか気づかない程度のにおいだから安心して。
事情があるなら、明日から風呂入ってから来なよ。
ちなみにお礼とかいらないから。メモは全部捨てて。
基本、話しかけないで。言いたいこと、わかるよね?」
翔弥はメモを読み終わると、鞄の奥底にメモを隠し、
それを日向は本を読みながら横目で見る。
翔弥はその日一日、自分の体臭が気になって、
近づく者には容赦なくガン飛ばし威嚇。
誰も自分に近づけさせないようにした。
クラスメイトたちは、育ちの良さそうな見目麗しい翔弥が
狂犬のような態度を取ることに驚きを隠せず、
仲良くなろうという意思を消した。
(翔弥モノローグ)
「こんな初歩的なミスで、初日を棒に振ってしまうとは…」
(冷や汗をかきながら落ち込む翔弥)
休み時間の度に人気のない場所へ行き、
昼休みは屋上で一人寂しく昼食をとる翔弥。
「まぁ、匂いの問題がなかったとしても、
ここで友達を作る気はない。
一人で昼を食べることには変わりないんだ」
心の中でそう呟きながら翔弥は、
平和な頃の居場所だった学校という空間に、
どんな理由であれ身を置くことができ、
1年ぶりに安堵したかのようにそのまま眠ってしまう。
昼休み後の5時間目が始まっても教室に戻らない翔弥を、
教科担当の教師は心配はするが、
そのまま授業を進める。
日向は相変わらず、教科書を机に出したまま
授業は聞いているのか否かわからない態度で
机の下にもぐらせた文庫本を淡々と読みふける。
(日向モノローグ)
「あいつ、何者?」
もう一人、翔弥がいないことで目をギラギラ光らせた男子生徒、
山中雅人(やまなかまさと)がいた。
翔弥が初めて教室に入り自己紹介した時に、
翔弥を睨んでいた人物。
雅人は、授業の途中でトイレに行きたいと言い
教室を退出。
日向は本から目をそらさずに雅人の動向を意識する。
雅人の足音が聞こえなくなると、
日向は頭痛のため保健室へ行くと言い、
教室を退出し、雅人の後をつける。
雅人はトイレなどではなく、
あきらかに翔弥を探していた。
雅人は屋上へ向かい、翔弥を見つける。
「おい」
声をかけても無反応で寝ている翔弥の背中に、
雅人は力いっぱい蹴りを入れる。
…が、
転倒した雅人。
蹴りを入れた雅人の足に腕をくくらせた翔弥は
二の腕を一振りするだけで雅人を地面に叩きつけた。
翔弥はそのまま雅人に馬乗りになり、
冷ややかな顔で雅人に凄む。
「誰の指示?」
翔弥が雅人に問うと、
雅人は息が止まりそうなのを堪えながら、
何かを答えている。
翔弥は雅人から離れ、捨て台詞を吐く。
「蹴りは成功した時の攻撃力は強いが、
隙だらけになるから気をつけろ」
《この体臭じゃ、これ以上の目立つ行動は危険だな》
翔弥は心の中で、これ以上の騒ぎを起こすまいと屋上を去る。
一部始終を陰から見ていた日向は、
翔弥が戻る前に屋上入り口から姿を消し
何食わぬ顔で教室へ戻っていた。
雅人はそのまま早退し教室には戻らなかった。
翔弥の初日はその後、
何事もなく平和に終わり、帰路につく。
(回想おわり)
(翔弥モノローグ)
「とりあえず昨日は
ベース(ホームレスの居住スペース)には
帰らなかったから、事なきを得たか…」
日向ににおいを嗅がれた翔弥は
動揺しつつも平静を装う。
何事もないかのように、
周りに関心を示さない日向に
興味がわく翔弥。
(翔弥モノローグ)
「一体、何者だ?
警戒した方が良いのか、
味方につけるべきなのか…
メタバースにおびき寄せてみるか」
翔弥は日向を調査するために、
自分が構築したメタバース上の「社交場」に
日向を招待することを考える。
「社交場」。
翔弥が仮想空間に構築し展開しているワールド。
※ワールド:個人や企業がメタバース上で交流するために設置した空間
登録者はアバターで好きなタイミングで「社交場」に参加でき、
その空間は高級クラブ仕様で、AIホスト、AIホステスが接待したり、
単に参加者と共に談笑や(仮想)立食や(仮想)飲酒を楽しんだり、
時間帯によってはDJによるクラブイベントがあったり、
一つの総合エンターテイメント会場として運営されている。
登録費は初期登録料3万円、月額5万円。
別途、イベント参加費、ホストホステス指名料がかかる。
飲食代は基本サービス内であれば月額に含まれるが、
追加サービスを頼むと別途料金が発生。
飲食を提供するのは、実在する飲食店で、
宣伝のために「社交場」に登録し、
実際と同じメニューを提供している。
メニューを再現して設計しているのは翔弥であり、
設計料や出店料も徴収している。
仮想空間での娯楽にこれだけ高額を投じる人間は、
当然ながらお金持ちである。
「社交場」は、
翔弥が自分の目的のために立ち上げたワールドであり、
ターゲットを絞りに絞っている。
いまだに翔弥の欲しい情報は得られていないが、
人気ワールドでもあり、
芸能人や著名人の登録者が多く、
登録者数も収益も右肩上がりだ。
翔弥は日向をどうやって
「社交場」に誘うか考えあぐねるが、
このタイプには遠回しな方法は
効かないため正攻法でいくことにした。
日向にメモを渡す翔弥。
「社交場」って知ってる?
日向は目を細めてメモを凝視するが、
素早くペンを取り何かを書き、
翔弥にメモを突き返す。
「興味ない」
と一言書かれたメモ。
翔弥はやれやれという態度で
「やっぱりね」と内心呟く。
遅刻ギリギリで雅人が登校。
翔弥は雅人にこっそりメモを渡す。
メモを読んだ雅人は、メモに返事を書き、
こっそり翔弥に戻す。
「3年C組」
と書かれたメモを見て、
翔弥は昼休みに3年C組に行く。
「2年が偉そうに何突っ立ってんだよ」
怖そうな先輩が教室入り口で立ちはだかるが、
翔弥はものすごい威圧感で、
ある人物を呼ぶように先輩に指示する。
落ち着いた物腰で教室から出てくる紳士のような男子生徒。
「会いたかったよ」
その男子生徒は翔弥に耳打ちする。
「石川竜仁くん」
翔弥は寝首をかかれたような表情でその男子生徒を見る。
「僕が黒田圭だ」
(場面変わって…)
日向は女子トイレの中で
スマホで何かアプリを立ち上げる。
そこには日向のアバターのアイコンと
「はじめる」というアイコン。
日向のアバターの顔は
黒髪ポニーテールのアイドル。
アバターネームは「MIU」。
日向は、「はじめる」を押し、
アプリをロードした状態で
スマホを制服のポケットにしまい、
そのまま早退する。
高級車に乗り込む日向、
SPに囲まれた日向の手にあるスマホ画面には
ログインした後のアバターのMIUが、
展開されたワールドの中でイベント告知する。
「今日のドームライブ、よろしくね!
今から楽屋にインするよ♪
リアルで会おうね♡きゅぴン♡」
(場面かわる)
東京ドーム、コンサート会場。
沸きまくっている会場の中、
現れたのはアイドルグループ
『YOU4(ユーフォー)』
グループメンバーをかき分け、
最後にセンターに現れた
国民的トップアイドル
「月島(つきしま)みぅ」
黒髪ポニーテール、アイドル衣装に身に包まれ
ダンスをしながら、
MCをして歌い始める。
「みんなーーー今日も一緒に
きゅぴってくれるぅーー??
きゅぴン♡」
(モノローグ)
「そう、私はトップアイドルの『みぅ』
本名は、早川日向。
もう「社交場」にいるんだよ、きゅぴン♡」
(場面かわる)
ホームレスのベースに戻った翔弥が
「社交場」のオーナーページにログインし、
登録者一覧をずっと見ている。
黒田圭と接触した時に、
黒田に言われた言葉を思い出す。
「社交場で僕を見つけたら、父に会わせてあげる」
画面を見つめる翔弥。
「黒田の父親…黒田寛治」
《おじいちゃんの会社を引き継いだ
総合人材サービス会社TPCの現社長。
俺の目的は黒田寛治の懐にもぐり
あの事件の真相を暴く》
ワールドの電光掲示板には、
みぅのコンサート中継が映し出されている。
センターで歌う、みぅ。
社交場のアバターたちが
ペンライトを振り回し盛り上がる。
(場面かわってドーム会場)
みぅ、センターから後方にダンスステップ。
(みぅモノローグ)
「…あ。そういえば。
あいつなら社交場のSR(エスレア)ランク
『スペードのキング』の出没条件、知ってるかな…」
センターに躍り出て歌う、みぅ。
♬「またあした、学校で会・お・う・ねっ♪」
第2話 完