北谷馨の質問知恵袋 「表見代理」に関する質問
今回は、「表見代理」に関する質問です。
民法110条は、「代理人が基本代理権の範囲外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由(=善意無過失)があるときには、表見代理が成立する」という規定です。いわゆる「権限外の行為の表見代理」になります。
例えば、妻Aに無断で、夫Bが、Aの代理人と称してCから車を買ったとします。
このとき、もし「夫婦の日常家事に関する代理権」が110条の基本代理権になるのであれば、Cとしては、
「Bには車を買う代理権があった」
と無過失で信じれば、保護される(表見代理を主張できる)ことになります。
しかし、夫婦には当然に日常家事に関する代理権があるので、これを基本代理権として110条が適用されるとなると、いつどのような無権代理行為がされるかわからず、危険です。突然、夫(妻)が自分の代理人として車を買ってきたら、仰天です。これはいくら夫婦とはいえリスクが高すぎます。
その一方で相手方が全く保護されないというのも、バランスを欠きます。
そこで判例は、相手方が
「当該夫婦の日常の家事に関する法律行為の範囲内に属する」
と無過失で信じれば、保護されるとしたのです。
つまり、「車を買うことはAB夫婦にとっては日常家事だ」とCが無過失で信じたのであれば、Cは保護されるということになります。
そうなると、「車を買うことが日常家事」ということは通常はありえない話なので、まずCの無過失が認められることはないはずです。この判例の見解だと、日常家事に含まれそうな範囲内でしか本人に責任が生じることはないので、夫(妻)が暴走したとしても、リスクは限られています。
整理すると、
仮に110条が「適用」されると、
「代理権がある」
と無過失で信じれば相手方は保護されます。
しかし判例によれば、110条は適用されず、110条の趣旨を類推適用して、
「日常の家事の範囲内」
と無過失で信じれば相手方は保護されるとしています。
ここで強調したいことは、
「善意」「悪意」という話が出てきたときに、
「何を」
に注意するということです。
様々な箇所で「善意」「悪意」という話が出てきますが、
「『何を』信じていれば保護されたのか」という点も意識して知識整理しておきましょう。
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