令和5年度認定考査を終えて
令和5年度認定考査を受験された皆さま、お疲れさまでした!
全体的な印象としては、結構書きやすかったかな。と思います。
以下、坂本の雑感です。
第1問
小問(1):基本。完璧に書けててほしい。
小問(2):基本。完璧に書けててほしい。
小問(3):基本。完璧に書けててほしい。前所有者Aの所有から主張するのがポイント。
小問(4):抗弁その1:代物弁済による所有権喪失の抗弁は、代理と代物弁済を組み合わせた応用。代理も代物弁済も繰り返し問われている論点であり、近年の出題レベルを前提に対策していれば、ほぼ完璧に書けていてほしい。代物弁済の合意をした当時、Aが本件土地を所有していた事実や、代理の要件事実を取りこぼしなく示せたかがポイント。
※ 所有権喪失のための代物弁済主張だから、引き渡しや登記が備わったことを主張する必要がない。
※ 令和5年4月1日において施行されている法令に基づいて解答する必要があるため、実務的には債権法改正以前の代物弁済行為であるから要物契約説を前提に摘示することも考えられるが、試験特有の指示により要物契約説を前提に解答することはできない。
※ 所有権喪失が基礎づけられれば十分であるから、YがBから相続した事実は書く必要がない。
※ 代理権授与に関する事実関係が明確でないため、「先立って」の文言を示すことにより時間的先後関係を示すことを要する。
※ 表見代理の構成を採りうる事実関係が示されていないため、通常の代理構成以外の主張はしない。
抗弁その2:時効取得の抗弁:やや難。長期取得時効と相続を組み合わせた応用。摘示すべき要件事実は多くはないが、長期取得時効自体、頻出とは言えないため、解いた際の感触はやや難しかったのでは。ただし、解答し終えてみれば、ほぼ正解にたどり着くのではないかと思える。
小問(5):再抗弁:抗弁2に対する他主占有権限の再抗弁。やや難。賃貸借契約に関する事実を摘示すること自体は問題なく気が付いたのではないかと思うが、他主占有であることを基礎付けるために必要な事実は、賃貸借契約の成立に関する事実のみであると考えられたかどうか。賃貸借契約の成立を基礎づければ、占有の性質は他主占有であることが基礎づけられるため、契約に基づく引渡しまでは摘示不要と考えられる。
小問(6):難しい。1番の難所といえる。相続により所有権を取得した者が、その所有権を第三者に対抗するためには、相続の登記を備えていることを要するか?を問いたかった問題であると考えるが、登場人物が4名もあり、AB間の法律関係(代物弁済)、AX間の法律関係(相続)、BY間の法律関係(相続)と対抗要件の論点とを想起しはじめると、思考整理が追い付かず、問題の核心にたどり着けなかった可能性が十分にあると言える。また、作文しはじめたその文章が、まとまりの無いものとなってしまった方が多いのではないか。上手く処理出来ていなくても、合否には影響しない小問だったといえる。むしろ、ここで大論文を展開してしまい、必要以上に時間を割いてしまわなかったかがポイントとなる。
小問(7):(やや)難しい。Yは、代物弁済による所有権喪失の抗弁の主張において代理権の存在を主張しているが、Xとしては「初めから無権代理人であった」として、代理権の存在を否定するため、Yの主張を「否認する」ことになる。「否認」に相当する主張であり、再抗弁を構成するわけではない。したがって、再抗弁として主張することはできない。ということを聞きたかった問題であると考えるが、難所の小問(6)の後に処理をするには、“無権代理アレルギー”もあり難しく感じたのではないか。
第2問
小問(1):基本的。完璧に書けててほしい。
小問(2):基本的。完璧に書けててほしい。
小問(3):やや難しい。保全に関して突っ込んで聞かれているが、②③の穴埋めが11個も用意されており、全部を完璧に書くことは難しかったと言える。7割程度、正解できていれば十分。
小問(4):基本的。出来ていてほしい。
第3問
小問(1):基本的。完璧に書けててほしい。頻繁に出題されている問いである。
小問(2):ほんの少々、難しい。「基本的」と言いたいところであるが、依頼人を相手方とするほかの事件の構造であることに気が付けたか、「XA間の訴訟は、既に終了している」事実をしっかりと拾い上げたか。完璧な解答を求めるのは少々酷と思われ、「ほんの少々、難しい」とする。
直近5年の問題の中では、書きやすい問題と評価して良いように思います。
もちろん、認定考査のための対策、勉強の継続なしに解ける問題ではなく、過去の認定考査のレベルと比べると難易度は相当に上がっているわけですが、ちゃんと努力した人には、その手ごたえが感じられる問題であったと思うのです。
受験された皆様が、ひとりでも多く、合格していることを願っております!!
お疲れ様でした!!
伊藤塾 司法書士試験科 講師 坂本龍治