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続・不動産登記における遺言執行者の申請権限

以前、「不動産登記における遺言執行者の申請権限」という記事を掲載しましたが、その後「相続人に対する特定遺贈の場合、遺言執行者は申請できないのか」というご質問が増えてきましたので、改めて、このテーマについて詳しく解説していきたいと思います。
なお、以前の記事は「相続人に対する遺贈は単独申請が可能」という改正がされる前のものだったので、それについては触れられていませんでした。

まず、そもそも「遺言執行者」はどういう立場の者なのかを確認します。
改正前民法1015条では「遺言執行者は、相続人の代理人とみなす」と規定されていましたが、現行の民法1015条では、「遺言執行者がその権限内において遺言執行者であることを示してした行為は、相続人に対して直接にその効力を生ずる。」となっており、「相続人の代理人」という文言ではなくなっています。
遺言執行者の法的地位については様々な議論があるところですが、少なくとも不動産登記手続について考えれば、「相続人の代理人のような立場」というイメージを持っておくと分かりやすいです。

遺言者A、Aの相続人がBCDとすると、遺言の執行をするのは、

・遺言執行者がいなければ、相続人BCD
・遺言執行者がいれば、遺言執行者

になるわけですから、「遺言執行者は、相続人BCDに代わって遺言を執行する者」と言うことができます。

①「第三者に対する遺贈」(「甲土地をEに遺贈する」)

⇒第三者に対する遺贈ですから、共同申請になります。

・遺言執行者がいない場合
登記権利者は、受遺者のEであり、登記義務者は、Aの相続人BCDになります。
よって、
権利者 E
義務者 亡A相続人B 同 C 同 D
となります。

・遺言執行者Fがいる場合
「遺言執行者Fは、相続人に代わって遺言を執行する者」ですから、BCDに代わって、登記義務者として申請することになります。なお、遺言執行者は「受遺者Eの代理人」ではありませんから、登記権利者として申請することはありません。
よって、
権利者 E
義務者 亡A ※実際に申請するのは遺言執行者F
となります。

②「第三者に対する遺贈」(「甲土地をBに遺贈する」)

⇒相続人に対する遺贈ですから、権利者Bからの単独申請になります。

・遺言執行者がいない場合
登記権利者は、受遺者のBです。登記義務者は申請に関与しません。
よって、
権利者(申請人) B
義務者 亡A  ※義務者として申請に関与する者はいない
となります。

・遺言執行者Fがいる場合
登記権利者は、受遺者のBです。登記義務者は申請に関与しません。
よって、
権利者(申請人) B
義務者 亡A  ※義務者として申請に関与する者はいない
となります。
今回Bは相続人でもありますが、あくまでBは「受遺者」の立場で登記権利者になっており、「相続人」の立場で登記権利者になっているわけではありません。したがって、「受遺者の代理人」ではない遺言執行者が、登記権利者として受遺者Bの代わりに申請するということはできません。

③「特定財産承継遺言」(「甲土地をBに相続させる」)

⇒特定財産承継遺言があった場合は、相続人からの単独申請により相続登記を申請します。

・遺言執行者がいない場合
相続人(被相続人A)相続人B
となり、相続人Bによる単独申請となります。

・遺言執行者Fがいる場合
「遺言執行者Fは、相続人に代わって遺言を執行する者」です。Bへの相続登記は、遺言の執行と言うことができますし、遺言執行者は「相続人の代理人のような立場」ですから、相続人Bに代わって申請することができます。
よって、
相続人(被相続人A)相続人B  ※実際に申請するのは遺言執行者F
となります。
ただし、Bへの相続登記は、遺言の執行の妨害行為(民法1013条1項)には当たりませんから、相続人Bが自ら申請することも可能です。

「遺言執行者がいる場合」について、端的にまとめると、以下のようになります。

①第三者に対する遺贈
権利者 受遺者
義務者 亡A ※遺言執行者が申請
 
②相続人に対する遺贈
権利者(申請人) 受遺者
義務者 亡A ※遺言執行者は申請に関与しない
 
③特定財産承継遺言
相続人(被相続人A)B ※遺言執行者又はBが申請


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