北谷馨の質問知恵袋 「反対給付と執行文」
今回は、「反対給付と執行文」というテーマです。
司法書士試験の受験生の多くは、「例外」を先に学習することになるため、どうしても知識が混乱しがちです。
以下の問題を検討してみましょう。
答え:誤り。
通常の強制執行の手続は、
①債務名義の取得 → ②執行文の付与 → ③執行開始
と進んでいきます。
時系列として①→②→③と進んでいくということを意識しましょう。
「債務者の給付が反対給付と引換えにすべき」というのは、同時履行の抗弁権がある場合など、「同時に履行すべき」という場合になります。
そうすると、反対給付と強制執行はできる限り同時に近づけることが望ましいです。
そこで、反対給付は「②執行文の付与」の要件ではなく、「③執行開始」の要件とされています(民執31条1項)。
仮に反対給付を「②執行文の付与」の要件としてしまうと、「③執行開始」よりも前の段階で反対給付の履行が必要になってしまうため、とても「同時」とは言えません。
できる限り同時に近づけるため、ギリギリのタイミングである「③執行開始」の要件としているのです。
しかし、これには例外があります。
「意思表示の擬制」をする場合です。
通常の強制執行の手続は、
①債務名義の取得 → ②執行文の付与 → ③執行開始
と進んでいきますが、
意思表示の擬制の場合は、
①債務名義の取得
で原則として終了です。判決であれば、判決確定時に債務者の意思表示が擬制されます。
例外として、債務者の意思表示が、
ⅰ 債権者の証明すべき事実の到来に係るとき
ⅱ 反対給付との引換えに係るとき
ⅲ 債務の履行その他の債務者の証明すべき事実のないことに係るとき
は、執行文が付与された時に意思表示が擬制されます。
①債務名義の取得 → ②執行文の付与
となり、「②執行文の付与」が最終段階になります。
最終段階である「②執行文の付与」の要件として、反対給付が要求されます。
まとめると、
となります。
では次に、不動産登記法の過去問です。
答え:正しい。
本問では和解調書が債務名義になっていますが、判決でも同様にお考えください。
不動産登記において、判決等により登記権利者が単独申請するというのは、判決等により登記義務者の登記申請意思を擬制するという、意思擬制がされていることになります。
よって、反対給付については、
となるので、反対給付をしたうえで、執行文の付与を受ける必要があることになります。
司法書士試験の受験生の多くは、民事執行法よりも先に不動産登記法を学習するので、どうしても「反対給付をして、執行文をもらう」のが原則であるかのように感じてしまいます。しかしこれは、民事執行法上は例外的な扱いであることを理解しておきましょう。