嘘日記。友人の家に遊びに行った話。
この世に生を受けて二十数年。アラサーにもなるとマイホームを建てる同級生も出てくる。
今回は家を建てた同級生の家にお呼ばれして来た。
アレか?いやアレじゃない。アレは城だ。それかラブホテルだ。
どちらにせよ住居であるハズがない。
結構デカイでしょ。頑張ったんだと自慢げに語る友人。
アレだった。見た目は完全に名古屋城のソレがアレだった。
どうぞ上がってと言って地面を指差す友人。
上がるというより下がっているが、暗に死ねと言われているのだろうか。ここがお前の墓場だ的な。
しかしどうやら指の先には隠し扉があったようだ。
正門から入れろや。
正門から入れろやって言ったら、正門の開閉には5時間かかると言われた。
アハ体験かよ。そんなゆっくり開け閉めすんなら開けっぱなしにしとけよ。
無様に這いつくばり、隠し扉の狭い通路に侵入する友人。これが大黒柱の帰宅風景だというのか。あんまりだ。
この世の不条理を眺めつつ1つの疑問が浮かぶ。あれ、これオレもやらなきゃいけないの?
何してるの?早く来なよ。と友人。何してるのか聞きたいのはこっちだ。
お前はスティーブマックイーンか。大脱走の。意を決して友人に倣い地を這って通路に侵入する。
こんなの夢であってくれと願うオレに、これが夢だったんだと這いずりながら言うかつての友人。眼前でプリプリするケツを引っ叩いてやろうかと思うのもやむなし。
しばらく進むと唐突にレバーがあった。
このレバーは何か尋ねると、毒ガスのレバーだと言う。
初めて見た。毒ガスのレバー。
多分国内には米軍施設にも無いであろうレバーにお目にかかれるとは。いよいよ帰りたくなってきた。まだ敷居も跨いでないのに。
そうして芋虫よろしく地を這う事6時間。
いや6時間あったら正門から入れたじゃねえか。
なんでも地下通路は迷宮になっているため毎回迷うらしい。
こいつは一体何に怯えているんだ?おそらく皇居にもこんなギミックは無いだろう。国家機密だけど実はこいつも皇位継承者なのだろうか。
などと考えつつ室内に入るとまさかのワンルーム。
バカデカイ外観とは裏腹にスカスカの内装。一夜城でももっとまともな作りをしていただろう。
ワンルームなんだねと言うと、家庭に壁を作りたくないと胸を打つ返事が返ってきた。
残念ながらオレとお前の間には既に心の壁ができてしまっているが。
室内では奥さんが出迎えてくれたのだが、コレが目を奪われるほどキレイでお姫様の様な装いだった。
と言うか完全に姫の格好をしていた。
それも雛人形みたいな和服じゃなくてドレス。ディズニープリンセスみたいな。世界観が一致してない。
彼ら夫婦の性格の差異が見て取れる。よく離婚しないな。
目を奪われたってのも見惚れたんじゃなくてギョッとして目を疑っただけだ。
普段からこの格好なのか?結婚式もドレスだったけど、まさかアレも普段着を持参したんだろうか。叶姉妹だって自室ではジェラピケとか着てそうなもんなのに。
奥さん脳みそイッちゃってる?と尋ねようとするオレに、これお菓子だから食べられるんだよと言い、おもむろに夢のマイホームの壁をむしり取り食す友人。同じ小中学校だった友人の奇行を見て心中穏やかじゃないオレ。
お腹すいたでしょ?と壁だった物体を差し出す友人にノーを突き付け、帰る理由を見つけ出すため思考を巡らす。
このままここに居座れば、そのうちオレが食われそうだ。
そう思うと先程の迷宮や毒ガスのレバー、開閉に5時間かかる門などがオレを捕らえておくための罠に思えてきた。ビビっているのを悟られないよう、そろそろ終電だからと言うとあっさり帰してくれた。
出る時はここからと言われ示された場所には滑り台があった。なんでも駅まで直通らしい。お前は田中角栄か。
駅まで滑り落ちている最中、童心に帰る心はかつてアイツと過ごした日々を蘇らせ、まぶたの裏に懐かしい景色が広がる
ああ、アイツは昔から軍隊ごっこ、なめくじごっこと称して地べたを這い、ボタンやスイッチを見つけては毒ガス装置と名付けていた。そしてアイツの夢は、城に住む事だった。
お前は夢を叶えたんだな。
オレの夢は何だったか思い出しながら、「友人」の家を後にした。