渡辺多恵子「ファミリー!」に見えた ひねった相似形

 「ファミリー!」の主人公フィー・アンダーソンは、外見も中身もボーイッシュ、今なら「性自認は男性?」と言われそうなタイプの高校生の女の子。作中で彼女は兄の恋人だった(兄はゲイという設定)レイフとの恋を進展させていく。レイフはゲイだが、たまたまフィーに恋をした、という設定。1980年代にこれを読んだ時は、当時「男が男に恋をする小説(BLという言葉はまだなかった)の定番『俺はゲイじゃない。お前が好きなんだ』を少女漫画風にひねった相似形」としか思わなかったのだが、歳月を経て再読した時、もうひとつ、ひねった相似形が隠れていることに気づいた。レイフの生い立ちについてである。
 レイフはゲイの父親(ジェイ)に育てられた。レイフの母はジェイと契約結婚し出産、授乳期終了後父子の元を離れたため、レイフは父子家庭か、父の恋人(男性)との同居生活を送りながら育った。そのためレイフは、男性同士の恋愛をデフォルトとして育ったものと考えられる。
 だがレイフはそんな中、フィーという女性に出会って恋に落ちた。これは「家族親戚みんな異性愛者なのに、どうして息子は同性愛者になってしまったのか」と嘆く親の相似形で、「息子に女の恋人ができた」ことに動揺するジェイの姿も作品中で描かれている。
 育てたように子は育たないこともある。異性愛者の元で育った子が同性愛者になることも、その逆も当然ある。その時の親の動揺を、ひねった相似形で描いた作者の先見性に、いまさらながら敬服している。


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