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【美容業界の闇②】学校ビジネスが招いている現場のデフレスパイラル

操作イトウです。【美容業界の闇】2話目です。
今回は、更に深い深い闇へとご案内いたします。

美容学校でカットの方法論を教わったわけではない、これについては①で説明していますので、お読みいただいてからの方が理解が深まります。

【前回のおさらい】専門学校の「塾化」によって、実践を勉強できない

「カットの方法論」を教わることができない理由の一つとして、専門学校が学習塾と同じ教育スタイル/ビジネスになっていることが挙げられます。

専門学校を運営する上で大事なのは、「試験の合格率」です。
次の年の入学希望者を増やすためには、卒業生の合格率の具体的な数字が必須。「ここに入ればちゃんと免許が取れる!」という担保が欲しいのです。

難関校への受験に必要な授業を重ねることで合格率を上げる学習塾と同じように、美容専門学校も、学生を1人でも多く合格されるために、試験課題以外の勉強を授業の時間に割り当てます。つまり、それ以外を指導する余裕がないのです。

そのため「試験課題」の練習は重なるものの、「応用、実践」まで教えてもらうことはなく、美容学校の卒業生は友達からカットをせがまれても、切ることができないのです。

■「日本の美容師はレベルが高い」と世界から評価されている理由

日本の美容師は、世界中から「技術レベルが高い」と評価されています。先人の美容師さんたちの実績やイメージに箔が付いているで、海外の日系美容室はとても人気だそうで、実際に、海外を拠点にしている日本人美容師さんもたくさんいます。

この日本の技術は、先人の美容師さんがヴィダルサスーンなどに代表される「ファッションの本場」イギリス、フランスの最高峰の技術・理論を持ち帰ったところから始まっています。その後、髪質も頭の形も異なる日本人に合うように試行錯誤を続けたことで成熟。そして90年代のカリスマ美容師ブームによって、その「凄さ」が世間に、そして世界に伝わることになりました。

今ある賞賛は、それを現場の美容師が脈々と受け継いできた賜物なのです。

▼一部の美容学校では、アジア圏からの留学生を招いている

「日本の美容師はレベルが高い」のは、現場の美容師・美容室の功績であって、美容学校の功績ではありません。この流れには、残念ながら美容学校は関係ありません。

一部の美容学校では、アジア圏からの留学生を招いているそうです。それを初めて知った時には、ちょっとかわいそうな気持ちになりました。「日本で学んだ」ことは自国で箔がつくのかもしれませんが、実際の手には何も残らないのではないでしょうか。日本の美容学校ビジネスに巻き込まれる留学生が、気の毒です。

■美容室で技術を教えるのは、美容学校が教えてくれなかったから

美容業界では、「技術は就職した美容室で学ぶ」ということが当たり前になっています。
もちろんどの業界でも、プロフェッショナルになる上で「学校のレベル」とは違う育成に取り組むことはあります。「お店独自の技術」であれば、お店が指導して習得させるのも納得です。

ですが美容業界の場合、「美容室で技術を学ぶ」理由は、美容学校で教えてくれなかったからです。理由は先述した通り、国家試験が塾化したことと、実践的ではない試験課題です。

そのため新卒生の実力は、文字通りゼロ。入社後、初歩から教えなくてはなりません。それ故、この状況は教えるサイドの美容室側に、大きな負担を与え続けています。個人経営で少人数体制の多い美容室にとって、まだ戦力にならない人材を抱え、指導に人材をあてがうのは簡単ではありません。

更に、若手美容師の離職率は他業種に比べて非常に高いため、将来性を見込んで育てていても、いつ辞めてしまうか分からない。

▼アシスタントは皆、ビンボー生活をしている

美容師は、スタイリストになることで収入を得られるようになりますが、それまでの間は、「金銭面」で苦労します。特に美容師は「職業別の初任給」が低く、また昇級による給料アップも微々たるものです。
加えて、都市部での一人暮らしをする場合、家賃と生活費でカツカツの生活を送ることになります。そのため、実家通いの方でなければ、美容師は誰もがビンボー生活を経験している、と言えるでしょう。

ですが、技術は習得しないといつまでも先に進めず、アシスタントの期間が長引くほど、ビンボー暮らしも長引く事になります。「早くスタイリストに昇格したい」そのためには、練習にかける時間もおざなりに出来ないのです。アシスタントが遅い時間まで練習するのは、早くスタイリストに昇格したいからです。つまり「体力面」でも「精神面」でも、アシスタントは疲弊してしまいやすい。

アシスタントの部屋には、大量のウィッグが並ぶ

▼体力、精神、金銭面でドロップアウト。でも離職したらカットができないまま

昇格への気持ちが切れてステップアップ出来ずにいると、いつまでもアシスタントのままです。そのため、アシスタントは「金銭面」「体力面」「精神面」から辞めていく人が多いです。2年も専門に通って実力がゼロ。その上、奨学金を背負って辞めていく若手は、あまりに不憫です。

これが仮に、学生のうちに20〜30%でも実力を備えていれば、もっと早くアシスタント期間を乗り越えられ、スタイリストに昇格できるようになります。そうなれば、今より離職率は減少するでしょう。

例えば、美容室のカリキュラムで組まれる「①シャンプー → ②カラー」の一部が試験課題として練習できれば、アシスタントの期間は大幅に短縮され、教える側の美容室や現場の美容師の負担も減らすことができるはずです。

■そもそも、なぜ美容師は国家資格?

美容師免許は、公衆衛生にまつわる法律で定められています。
これは昭和初期に制定されたそうで、衛生面のままならない時代に、感染症などの蔓延を防ぐために機能していました。ちなみに美容師、理容師と分けるのも、男女で場所を分けて感染症の蔓延を防ぐ側面もあったようです。そのため美容室は、保健所によって管轄されています。

筆記試験の内容には、美容師にまつわるものとして、美容室の衛生面を確保するための規定や皮膚病などの「公衆衛生」や、関わる「法律」、ハサミなどの「物理」、薬剤の「科学」など、美容師にまつわることを勉強しています。

▼最初から美容室で働けば早いのでは?

「専門学校で技術を学べないなら、いっそ最初から美容室で働けば早いのでは?」という意見があるかもしれません。

ですが一般の方は、法律上“美容師として”働くことはできません。美容師免許のない人は、原則「お客様に触れる」ことは法律違反になります。
更に国家試験の「受験資格」が、「専門学校を卒業すること(する予定)」なので、美容師免許と専門学校をスルーすることはできません。

▼通信は学生のうちから美容室で働くことができる

通信の場合、入学条件に「美容室での勤務」が義務化されているので、在学中に美容室に勤務することはできます。
ですが営業中は、免許が無いので雑用係として働くことになります。空いた時間に練習させてもらえるかどうかは、美容室次第です。また通信を受ける方は、美容室とバイトを掛け持ちして3年を過ごす人が多いので、忙しさから練習時間の確保が難しく、昼間部より合格率が低くなりがちです。

ですが、学生のうちに実際の現場を体験できることはプラスです。お洒落で華やかな業界のイメージから、理想と現実のギャップが大きく辞めていく人も多いので、過度な期待とのギャップは在学中に経験することができます。

■強固な美容学校ビジネスが招いた、歪んだ現状

このような強固な制度によって守られている美容業界は、様々な面で歪んだ形になっています。そして、それはもう取り返しのつかない状況でもあります。

▼「カットの理論」を教えられる先生が、美容学校にはいない?

美容学校は、大きな問題を抱えています。それは「美容師を経験した先生」が少ないことです。
美容学校の先生は、試験の内容や美容学校の事情を理解している人でないと務まりません。そのため参入障壁は非常に高く、そもそも美容学校の先生になることができる人材は少ない。

そんな人材を補填するために、各美容学校では就活中の美容学生を次年度から先生として雇うことが多いです。ですが彼らの場合、「国家試験の合格者」でしかありません。国家試験を合格した経験値しかないため、先生としては一人前になれますが、美容師としての経験値はゼロのままです。
そのため、学校の先生もまた、「カットの理論」を学んでいない方が多いのです。

これらの事例は、現場の先生を否定しているわけではありません。生徒も先生も目の前の課題に一生懸命に取り組んでいて、学校の現場は最善を尽くしています。

▼副業で教師をする現役の美容師さんもいる

現役の美容師さんを常勤の教師として招くこともあります。近年では現役の美容師さんが副業として先生をすることも増えているようです。学校側にとっても人材確保が難しいため、Win-Winです。

とはいえ、クラス全員にカットの理論を教えるほどの権限も時間も用意されることはないので、国家試験の練習を指導するところまでしか出来ないのが実情です。

■美容学校ビジネスが確立されている経緯

残念ながら、この制度で得してるのは、学校ビジネスの運営側です。

かつての美容学校は一年制で、卒業後に1年間インターンを経験することが受験資格でした。そのため、2年目には看護師さんなどのように現場を経験することができました。
ではなぜ今、2年制で定着しているのか?

▼キッカケは「無免許カリスマ美容師事件」

美容学校の2年制は、「無免許カリスマ美容師事件」が大きく世間に取り上げられたことをきっかけに改正された、と聞いています。

テレビやメディアで取り上げられるカリスマ美容師が、実は国家試験を受けていなかった」という事件です。僕は当時小〜中学生だったので、事件がワイドショーなどで話題になったことは知っています。

▼無免許だった事情を察すると…

「無免許カリスマ美容師事件」は、有名美容室にインターン生として入社したところから起因しています。
当事者となった彼らはインターン期間からみっちりと訓練を積み、毎日忙しい営業(当時の有名美容室の盛況ぶりは凄かったそう)では、次から次へといらっしゃるお客様への対応に追われていました。運営側も彼らのような貴重な戦力を欠くことはできず、「免許を受験するための時間」を用意しなかった、ということのようです。

インターン生からアシスタントになった本人たちからしても、実践に即さない国家試験の勉強や練習は必要なく、おざなりになります。そして、無免許のまま訓練の末スタイリストに昇格したことで、カリスマ美容師への階段を上がっていったのです。

実際、免許を持っていても技術が担保されるわけではありません。更に、生活水準の向上から「公衆衛生の法律」自体が現代では無意味になり、また、美容師が免許を提示する場面は、全くありません。

これは、美容師であれば誰もが共感できることです。現場の美容師や運営側が「受けるだけ時間の無駄だった」という結果に至るのは、わからないでもないことです。
ですがもちろん法律違反。これを機に、同じような境遇で無免許のまま美容師として働いていた方が、沢山炙り出されることとなったのでした。

▼法改正から20年。

業界のマイナスイメージを払拭するために法改正は早急になされ、インターンは廃止、2年制に改定されることとなりました。
それから約20年ほどが経ちました。20年前でも形骸化していた試験内容は改められず、2年制になってレベルアップしている要素はありません

もちろん、学費は2倍払うことになります。僕の同級生も大半は奨学金制度を利用していましたが、現場の学生は青春を謳歌しただけです。僕にとっては、かけがえのない仲間たちに出逢えてよかったとは思っていますが、自分が大人になって社会の在り方が見えるようになるまで、この業界の異常さには気が付きませんでした。

▼現場の美容師に、法律を変える労力は無い

「専門に2年は必要無い」それは美容師なら誰でもわかることです。
ですが、美容師たちはこの問題について、ずいぶん昔から理解していたはずなのに、黙認し続けていたように思います。それは「法律を変える」ということが、あまりに大きな壁だったからです。

現場の美容師は毎日の忙しさに追われて、そこまで頭が回らないし、その労力もありません。ですが今後も試験課題が変わらない限り、現場の美容師は疲弊し、苦しみ続けることになります。

■闇はまだ終わらない

試験課題の改正は、昨年やっと一歩目が動き出しました。「オールウェーブ」という技術が廃止になる、とのこと。ニュースにも取り上げられましたが、この状況が世間に認知されないと、まだまだ話は進まないでしょう。

いかがでしたか、美容界の闇は深くないですか?
ですが、闇はこれでは終わりませんよ。また日を改めて、もっともっと深い闇に、お招きします。オーッホッホッホッホッ…

ッドーーン!!!!


ではまた。

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