「書き込む」は経験値に勝る。美容師の記憶術
操作イトウです。今回は美容師にまつわる「記憶術」について。
「記憶力」には得手、不得手があるものです。“人”や“モノ”を覚えるのが苦手という方も多いはずです。ですが日々の仕事の大半を対面に費やす美容師の多くは、関わった“人”(お客様や関係者)のことを記憶することに長けています。そんな美容師はどうやって“人”を覚えているのか?
「記憶力」のいい美容師さんは多い。とはいえ…
僕の記憶力は人並みだと自負していますが、美容師として長く働いていると、お客様のことをよく覚えている「記憶力の良い同僚」に出会うことがよくあります。
「以前こんなお話をした、あの方は〇〇が好き、○月が誕生日で…」
と、些細な会話の内容を覚えているのです。
多くの美容師は、お店の常連のお客様の「顔」と「名前」を認識しています。直接関わる事がなくても、お店のお客様であれば、「〇〇(スタイリストの名前)が担当する△△様。肩上から肩下ぐらいの髪の長さを前後していて、いつもカットとカラーをしている。」などと紐付けできています。
例えば、5年以上前に退社して独立した先輩と久しぶりに飲み会を開いても、先輩の話に上がってくる「お客様の△△さん」のことを僕は覚えていたりします。
「確か〇〇出身の方でしたっけ?〇〇の仕事してる」といった具合に、久しくお会いしていない方のことも、“ふわっ”と思い出すことがよくあります。
もちろん何年もお会いしていない方の詳細は忘れてしまうものですが、印象的だったことも一緒に紐付けされているからかもしれません。ですがあくまでも“ふわっ”と覚えているので、偶然街ですれ違っても、すぐには気付けないかもしれません。
この“ふわっ”とした記憶力に頼った仕事では、美容師はすぐにキャパオーバーしてしまいます。膨大な顧客管理には「カルテ」が欠かせません。
美容師の最重要ツール「カルテ」
「カルテ」と聞くと、お医者さんが扱うもののイメージです。少しおこがましさも感じてしまいますが、美容師は普段からカルテに書き記しておく習慣があります。
書き込むことで頭に記憶していたり、忘れてしまわないようにする外部補填として活躍します。また履歴を残しておく事で、次回により良い施術を行うこともできます。
お医者さんの場合は、診察されながらPCに向かって打ち込んでいる画面が丸見えなので、書き記している内容がなんとなく分かりますが、美容師は何を書き込んでいるのか?
「来店履歴」は大事なヒント
カルテには、必ず来店した日時を書いています。これは「来店履歴」が分かると、前回のヘアスタイルが逆算しやすくなるため。
髪の毛は1ヶ月に1cm強伸びているため、カラーやパーマの薬の効き具合、抜け具合などの状態も、判断材料になります。
また商品の購入履歴や、普段使っているスタイリング剤なども書き記しています。前回までのヘアスタイルと今回のヘアスタイルが違う場合、オススメするものも変化することがあります。
ヘアスタイルの「設計図」を書く
もちろん、「ヘアスタイル」も書き記しています。お客様をどう切ったのかは大枠で覚えていますが、具体的に書く場合「展開図」を用いることが多いです。
これは髪の毛がどのようにカットされているかを書き記すための、美容師の専門技術。これ髪の毛を引っ張り出した時に、どのように「カットライン(長さの設定)」を作っているかを書く、いわば設計図です。そのため「展開図」を見れば、第三者の美容師でもヘアスタイルを理解することが出来ます。
例えばこんな感じ↓
他にも細かなニュアンスや、お客様が重要視している部分を具体的に書き込んでおきます。「ココはクセが強い」「伸びてくると気になる所」など、特に忘れたくないポイントをメモ書きしていることが多いです。
カラーやパーマの内容は複雑
カラーの薬剤は調合することが多いため、配分を正確に記します。また薬を効かせる時間も、薬剤ごとに適正が異なります。
パーマの場合、巻いたロッドの大きさや薬剤などを記しておきます。前回の履歴と示し合わせると「前回よりも強く」や「ちょっと弱める」など微調整ができます。
前回話した内容を書き込む
美容師は、世間話や体験談などの“話のネタ”を沢山ストックしています。「この話題は△△さんが知りたかった話だから、今度伝えてあげよう」「△△さんにオススメされた〇〇、使ってみたらすごく良かった!」など、普段の生活からお客様を意識する場面があります。
そのため「前回このお話をした」「〇〇に興味がある」など、次の話題のきっかけになる情報を書き込むこともあります。
カルテの在り方にも変化が。
カルテは美容室で管理するため、担当のスタイリスト以外のスタッフも情報を共有することができます。アシスタントの間は、カルテを垣間見ることで先輩の技術を勉強することにも繋がります。
アナログに紙で書き留めているお店もありますが、共有のPCやタブレット、個人でも管理できるスマホを用いた電子カルテが主流になってきています。
美容師専用のカルテアプリもあります。写真で保存できるため、より正確にヘアスタイルを記録できたり、過去の履歴を紙よりも正確に残しておくことができます。スマホで入力できるため、帰りの電車でもカルテを記入でき、時間の有効活用にも一役買っています。
美容師の記憶力は、次回もお客様に喜んでもらいたいという気持ちの現れかもしれませんね。
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ではまた。