いつもの美容師さんのパフォーマンスが悪かった【美容師がする5つのミス】
操作イトウです。
先日、初めていらしたお客様から「いつもの信頼していた美容師さんなのに、明らかにいつもと違うヘアスタイルだった。」という話をお聞きする機会がありました。
同業として、身につまされる思いでした。「自分の技術はちゃんと喜んでもらえてるだろうか」「いつものお客様にあぐらをかいていないだろうか」と、襟を正す想いがしました。
美容師を続けていると、お客様の「いつもの美容師さんに不信感を抱いたから、別の美容室を訪ねた」というエピソードは度々聞くことがあります。例えば「初めて訪れる美容室で美容師さんのパフォーマンスがよくなかった」というのは、多くの方が体験していることかと思います。ですが「いつもの美容師さん」となると、築いた信頼が崩れてしまうようで、裏切られた気持ちを感じてしまうかもしれません。
正直、こういった「こちらの事情」を明かすのには気が引けるし、悪い部分を晒すのは気持ちのいいことではありません。ですが、それもお客様のためになるのではないか、とも思います。
今回は、美容師側から見た5つの原因を、赤裸々に明かしたいと思います。
■美容師は皆、「やってはいけないミス」をしたことがある
「弘法も筆の誤り」と言えば聞こえはいいですが、取り返しのつかないミスは、一人前の美容師であれば誰しもが経験しています。
僕自身も、取り返せないほどのパフォーマンスに後悔した経験はたくさんあるし、それぞれをありありと覚えています。もちろん「あの失敗があって成長できた」と、今ではプラスに捉えていますが、同時に自責の念にも駆られます。
僕が出会ってきたどの先輩後輩にも、何かしらの失敗談はあります。「2度としてはならない」と深く反省した上で、後輩にお灸を据えるエピソードとして、数々聞いてきました。
では具体的に、どの美容師にも起こりうる実例を、ご紹介します。
①いつもの材料の在庫がなくなっていた
美容師にとって日常的に起きやすいトラブルの一つが、「在庫切れ」です。
通常、美容室では材料を管理する担当者が、定期的に材料を発注します。在庫切れが起きないように管理していますが、同じ薬剤を使うお客様が連続すると、予定以上に在庫が減ってしまうタイミングもあります。
特に、「絶対に必要な材料」は切らさないように管理します。ですが、材料の減りは「季節」や「トレンドの移り変わり」によっても変化するため、例えば「今週は赤いカラーのオーダーが多かった」となると、赤系のカラー剤の減りが著しくなり、在庫切れを起こすことになりやすいのです。
また、材料はディーラー(卸し業者)に発注をかけますが、手元に届くのには1〜2日かかり、更にディーラー側の在庫が無くなることもままあります。そのため、人為的なミスだけでなく、流通のタイムラグによって在庫切れが起きてしまうこともあります。
▼「今日はできない」と言える美容師さんと、言わない美容師さん
「いつもの薬がない」この不測の事態に対しては、対処法がある場合とない場合があります。薬剤の配合でカバーできたり、別のものを代用して解消できたりするものもあれば、「これが無ければどうにもできない」ものもあります。
そのため「いつもと違う薬剤を使用する」ことをお客様に言うか言わないかは、美容師にとってシビアな選択です。そもそも、予約していただいたお客様に対して準備が足りなかった、という状態でもあります。
これに対しては、ハッキリ「今日は同じようにできない」と断る美容師さんもいれば、断りたくない美容師さんもいます。「パフォーマンスが落ちる可能性を、事前に伝える」べきか、「お客様が気付かないようにがんばって、そのままスルーした方がいい」と考えるべきか。
美容師は職業柄、オーダーに対して「NO」と言いたくない方もいます。それぞれに仕事へのプライドを持った行動なので、どちらが正解とは言えない場面でもあります。
②時間に追われていた。時間が足りなかった
どのお仕事でもそうかもしれませんが、「忙しい」時には技術や経験を反映しにくく、「焦り」を招いてミスに繋がりやすくなります。
美容師は日々の営業で、お客様を2人以上同時に施術する「掛け持ち」や、「お客様の遅刻」「次のお客様を待たせられない」などによる時間制限など、急な対応を迫られることが往々にしてあります。時間が迫っている中では、適切なフォローや対応策を思いつくことができなかったり、また、この場を捌くことに必死になってしまって、手元が雑になってしまうこともあります。
▼「薬剤の効き具合」や「髪のクセ」などの目測を誤る
美容師は「最悪の事態」を避けるために、事前にデッドラインの手前からボーダーラインを引いています。ですが「ヘアスタイルの完成度」や「長持ちしてほしい」ことを重視すると、ボーダーラインを超えた、よりデッドラインに近い「キワ」を“攻め”たくなることもあります。
「切りすぎて短くしてしまった」「薬が効き過ぎてしまった」
これらは目測を誤って、ボーダーラインを超えてしまった状態です。これは例えば、「すぐにシャンプー台で流すことができず、薬剤の時間がオーバーしてしまった」など、営業中のイレギュラーな事態に影響されることも多いです。
特に「カラーの色味」や「施術後のダメージ度合い」はシビアに反映されるため、“攻め”過ぎてしまうこともあります。
▼“守り”に入りすぎても失敗する
反対に、「切らなさすぎて長かった」「薬の効きが悪かった」
これらは、“守り”に入り過ぎてしまった状態です。
「薬剤の選択が甘かった。もう一コ強めを使えばよかった」といったことは特に起きやすいです。更に、それは結果を見るまで判別がつかないため、「薬の効きが悪かった」と気付くのは、施術時間の終盤になってしまいます。
またカットの技術の場合、「短く切る」ことの方が技術的に難しくなります。ショートヘアになる程、髪質や頭の形、生えグセなどが反映されやすくなるため、短く切ることに苦手意識のある美容師が多くなります。
どちらにおいても、小さな誤差であればカルテに記録して、次回に活かすことができます。美容師にとって、シビアなラインほど「一発でドンピシャ」を引き当てるのは難しいことです。
③アシスタントが原因のミス
スタイリストがアシスタントに託した工程から、ミスが起きることもあります。スタイリストにとって、アシスタントに託す工程は「自分の方が上手にできる」ことがほとんどです。そのため、アシスタントの施術が100%の出来に仕上がることは、容易ではありません。
ですが「歴の長い自分の方が上手にできる」という自負もある反面で、「沢山やってもらわないと、後輩が育たない」といった側面もあります。
それでもアシスタントのミスは、スタイリストの責任です。
アシスタントは年齢的にも若く、まだ仕事への覚悟や責任感が据わっていないこともあります。とはいえアシスタントにお願いするということ自体が、ミスがあってもフォローし、次はミスが起きないように指導する、という連続です。
どんなカリスマ美容師であっても、自分もアシスタント時代に沢山失敗してきているので、後輩を咎められません。後輩からしても、厳しくしていただいた先輩に感謝するしかないのです。
④オーダーの意図を読み取れなかった
美容師にとって、お客様のオーダーを理解するのが難しい時もあります。スタイリストがお客様の「やりたいヘアスタイルを理解できていなかった」または「意図が正しく伝わらなかった」ということもあり得ます。
ファッションはとても「抽象的」なものです。言葉で表現するのがそもそも難しいので、やりとりはチグハグになりやすい。
また写真を見せたとしても、美容師にはお客様がその写真の「“どの部分”を気に入って見せているのか」がわかりにくいこともあります。“写真全体の雰囲気やニュアンス”なのか、“ピンポイントでこの部分”なのか。それ次第では、ヘアスタイルが別物に見えることもあります。
▼得意なオーダーと不得意なオーダーがある
とはいえ美容師は常連のお客様に対して、繰り返しやるほどお客様の「これが好き」「これは嫌い」を細かく理解できるようになります。ですが、今までとは違ったオーダーになると、「新しいオーダーに対して、うまくできなかった」「いつもと違うその系統が、得意ではなかった」ということもあります。
得意でない系統のヘアスタイルの場合、“細かいニュアンス”を掴み切れず、過剰に演出してしまったり、足りなかったりすることは多いです。
また、美容師的には「オーダー通りできた」と考えているが、お客様のオーダーの“重要ポイント”に触れていない、ということもあり得ます。
▼美容師は新しいトレンドに懐疑的?
多くの美容師はファッショントレンドに敏感ですが、「お客様の“それ”について知らない」ということもあります。多くの美容師は、自分にとっての「主要な客層」に特化しているため、それ以外の客層のトレンドをキャッチしきれないこともあります。
特に近年はトレンドの移行するスピードが早く、InstagramやTikTokなどで一気に広がります。美容師自身が普段見ているメディアやジャンルによるところもあり、オールジャンルを把握することは簡単ではありません。
またそれとは関係なく、美容師は最新トレンドに懐疑的になりやすい傾向があります。意外に思われるかもしれませんが、美容師はベテランになるほど最新ヘアやトレンドに疎くなる、ということが起きやすいのです。
これは、技術的に「自分の方程式」が確立され過ぎてしまって、今までの「方程式」を手放すことができないからです。トレンドは今までとは真逆の方向に向くこともあります。そのため「これが正しい」は、時間と共に「間違い」になってしまうこともあるのです。
美容師は技術職ですが、「同じ物」を作り続ければ評価されるわけではありません。常にマイナーチェンジを繰り返しながら、時代に合わせた変化をしないと、気付かぬうちに自分が古くなってしまうのです。
⑤体調不良や、プライベートで何かあった
美容師も人なので、気持ちの整理が追いつかず、仕事に影響することもあります。仕事のパフォーマンスに影響が出るのは、社会人として失格ですが、とはいえ体調不良やメンタル的な問題は避けられない事でもあります。
「朝まで飲み明かしていた」のなら100%美容師が悪いですが、その日の体調によっては、無理をしていることもあります。またプライベートの出来事から、精神的に振り回されることもあります。
そして、悪い事は連鎖してしまうものです。例えば今し方、仕事で大きなミスをしたばかりだと、切り替えられずに気持ちの整理がつかないこともあります。
■「お客様に喜んでほしい」気持ちは変わらない
美容師は接客業なので、成功、失敗が表に出やすい仕事です。
とはいえ、いつだって「お客様に喜んでほしい」気持ちは変わりません。「期待に応えられなかった」というのは、こちら側も辛いことです。
だからといって、仕事ですから「大目にみてね」というつもりもありません。仕事として請け負う以上、適正な対価を頂いて、お互いにWin-Winでなければなりません。
仕事って難しいものですね。
ではまた。
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