セルフカラーを美容師が勧めない理由
操作イトウです。
今回はセルフカラーについてです。
※追記 この投稿をベースに、R2.5.31、文春オンラインに寄稿させていただきました。こちらもご参照ください
美容室に行きたくてもまともに外出できないし、自分でやっちゃおうか、と考えている方も多いと思います。ですが、美容室で「カラーは自分でしました」と言って、美容師さんに渋い顔されたことはありませんか?
正直、美容師としてはうれしいことではありません。
だいたい「あちゃー、、」って思ってます。
それは「お店でするはずだったカラーの代金を取りこぼした」みたいなことではありません。これからお話しする内容は、「うちのお店でカラーしてお金落としてくれよ」といった損益の話ではありません。
自分でヘアカラー、やったことがある方も多いと思います。ドラッグストアで買った薬を、お風呂で付けて、時間を置いて、、、
僕が担当するお客様にもご自分でされる方はいますが、僕の場合は美容室でのカラーを推奨はしますが、強制はしません。髪の毛にかける予算は人それぞれです。ドラッグストアで薬を買えば、料金は1/10にもなります。
それぞれの美意識、それぞれのライフスタイルがあるので、メリットとデメリットを理解してもらった上で、その方に合った満足度で判断してもらえればいいと思っています。
では具体的にセルフカラーの何がいけないのか、説明していきます。
セルフはムラになる
美容師が懸念しているのは『自分でカラーの薬を塗る』という工程が、絶対的にムラになってしまう、ということです。
その理由は、薬の塗布量が均一にならないためです。薬の量が多いほど染まりやすく、少なければ染まりません。
美容師がカラーを塗る時は、必ず髪の毛を細かく分け取って、根本なら根本、毛先なら毛先と塗り分けています。もちろん目線が違うので美容師は正確に塗る事ができるのですが、
均一に塗れないと、こんな事が起きます。
・根元がちゃんと染まってない
・根元が明るくなってる
・白髪が染まってない
・根元より毛先が濃い(暗い)
・なんかヒョウ柄みたいになってる
これらは全て、塗りムラによって起きる現象です。その細かい塗布量の差が、見た目にもわかるマダラ模様みたいになります。
また、塗っている部位によっても変化します。プリンに見えたくない根元ですが、頭皮に近い1cmぐらいの場所は、体温の熱に影響して薬が効きやすくなります。なので根元から毛先まで全て均一に塗れていても、根元が明るくなりやすいのです。
髪の毛全体よりも根元だけが明るい状態は、ヘアスタイル的にかなりカッコ悪いです。不自然な状態なので、違和感を感じると思います。
これに関しては、今話題のビリーアイリッシュみたいに(根元明るいミドリ、毛先暗めブラウン)確信犯的にやらないと、全然よく見えません。美容師としても、カラーをする時に絶対起こしたくない失敗の一つです。薬は温度が高い方が反応するので、こういったことになります。
また白髪染めにおいては逆の現象、根元が染まらない事になりやすいです。これは体温ではなく、「白髪」の特徴にあります。
白髪は黒い髪の毛よりもハリやウェーブがあり、ピンピンしています。ピンピンした白髪には薬が付着しにくく、量が少ないと弾いてしまって、薬が付いてない状態になります。
このままでは時間を置いても、結局染まらず、買ったセルフカラーの薬の評価も下がります。
『美容師がやる』にかかる料金
当たり前ですが、美容室のカラーの料金の大半を占めるのは『手間賃』です。薬の材料費はどこの美容室でも、戴く料金のうちの5〜15%ぐらいだと思います。
基本的に美容室は『美容師が施術する』付加価値に対してお金を戴いています。
美容師でしか出来ないようなメッシュを入れるカラー(グラデーションカラーやバライヤージュカラーも)や、薬を何種類も調合して理想の髪色に仕上げていたり、複雑な工程を必要とするカラーには、プラスして付加価値を設定していることも多いです。
セルフカラーはメーカーも企業努力してる
こういった『自分でカラーの薬を塗る』という工程を改善するために、メーカーは試行錯誤しています。やったことのない人でもできるだけ簡単にカラーができるように、くしタイプになっていたり、泡タイプだったり、手袋が付属されていたり、必要な薬同士が混ぜやすくなっていたりしています。
・クシから薬が出るタイプ
一番確実に白髪を染められるのはこのタイプだと思います。後頭部などは難しいと思いますが、特に気になる顔周りや生え際を鏡を見ながらピンポイントに塗布できるのが特徴です。
・泡カラー
シャンプーの泡のような感覚で染めるものです。手軽さという意味ではかなり楽ですが、正直、あまりオススメしません。
泡はそもそも不均一なのでムラになりやすく、根元も染まりにくいと思います。そして泡はクリーム状の薬より水分が多いため、毛穴に入り込んで影響が出やすいのでは?と心配になります。
さらに問題なのは、根元を染めるつもりの薬で、毛先が染まってしまうことです。髪の毛は健康な根元よりも、ダメージを負った毛先の方が染まりやすい特性があります。
根元だけにつくようなクシのタイプとは違って、泡カラーでは毛先に付けないようにする事ができません。時間を置くうちに、根元の染まりにくさも相まって、根元より毛先が真っ黒なヘアスタイルになってしまい、よりビリーアイリッシュ感が出てしまいます(ビリーアイリッシュはかっこいいのですが)。
ちなみに美容師さんは、見ただけで「この人はセルフカラーしてるな」と見分ける事ができているので、「カラーは自分でしました」と言う前に、美容師さんは気付いてたりします。
『薬』にかかる料金① 美容師の薬の扱い方
カラーの薬は、1剤、2剤に分かれています。1剤は色味と明るさを決める薬、2剤は薬の効きの強さを決める薬です。
セルフカラーの薬でも、必ず2種類に分かれていると思います。この薬が混ざると化学反応を起こして髪の毛が染まるため、2つは分けて保存しなければなりません。
美容室にはたくさんの薬が常備されています。バックルームには棚にズラッッと薬や用具、マネキンの頭なんかが並んでいます。どこのお店でも、カラーの薬だけで50種類以上はあるのではないでしょうか。
カラーの薬は、色味と明るさの段階によって分かれています。一つの色味に対して、明るさは5〜8段階ぐらい用意されているので、色味が5種類だとすると、色味5 × 明るさ5 = 25種類以上は最低限必要になります。
これは「おしゃれ染め(ファッションカラー)」と「白髪染め(グレイカラー)」によっても薬の種類が変わります。ざっと「おしゃれ染め」25種類と「白髪染め」25種類を置いて50種類、大枠です。
これに2剤である過酸化水素水(業界では「オキシ」と呼びます)を混ぜます。過酸化水素水は、薬の効きの強さに影響しています。濃度が高いほど反応が強くなります。基本的には1剤に対して等倍〜2倍ほどで、カップに混ぜて使用します。
オキシ自体の濃度も6%、3%など細かく分かれています(6%なら、94%は希釈した成分である、ということ)。オキシは、美容師は日本の薬事法で6%以上は使えません。高濃度の過酸化水素水は、事故のリスクが高いためです。海外ではもっと高濃度のものが使えたりしますが、日本人に使うと力が強すぎてギシギシになります。
これを健康な根元、ダメージのある毛先など部分ごとに使い分けて、ダメージが必要以上にかからないようにしています。
また美容室用の薬を作るメーカーはたくさんあり、作っている薬の質もピンキリであります。
・より安い薬を使って利益を上げる
・より質の良い薬を使って満足度を上げる
そのバランスを取ってそれぞれの美容師さんは選定しています。
材料費の高級なお薬を使う場合、別料金を戴くこともめずらしくありません。
SNSの普及によって、今までは美容師しか知り得なかったカラー剤などの商品名が高級ラインとしてブランド化することも増えてきました。
『薬』にかかる料金② セルフカラーに入っているもの
対してセルフカラーの薬は、もちろん手間賃はかかりません。ですが美容師のように複雑な工程はもちろんできないので、『とにかく手軽で安い』ことが重要視されています。
そしてドラッグストアで手に取るお客様が迷わないように、パッケージ(外箱)に髪色だけ違うお姉さんの写真が付いています。
また説明通りやったのに変化がなかったりすると、クレームの対象になるので、使う前と後で、髪の毛にわかりやすい変化が出るように作られています。
パッケージのお姉さんと同じ色にならないのはなぜ?
ですがセルフカラーをしてみて、思ったことはありませんか?
「確かに明るく染まったけど、色が違うじゃん」
「白髪、しっかり染まってない」
「ギシギシしてる、めっちゃ傷んじゃったじゃん!」
あるあるです、僕も高校生の時散々やったからわかります。
パッケージのお姉さん(お兄さん)みたいな色になった事がない!もちろん、画像を修正して髪の色だけ違うように見せているので、正確な色味の写真でないことは明白ですが、
それはなぜなのか、美容師さんは知ってます。
そもそもキャンパスが違うから!
髪の毛の黒色は、人それぞれ微妙に違います(『パーソナルカラー』と呼ばれます)。
大きく分けて東洋人と西洋人は、体型、骨格のみならず肌の色、目の色など、色味も大きく違います。ここからは色彩学のお話です。
・色味(彩度) = 絵の具
あらゆる物の色は、赤(マゼンタ)、青(シアン)、黄色(イエロー)の三色の組み合わせで造られています。
この三色があれば、絵の具を混ぜるようにして、あらゆる色が作り出せるのですが、髪の毛の黒色(正確には焦げ茶です)も、赤青黄の配分でできています。
東洋人は赤青黄のうち、赤色と黄色が多く含まれています。
逆に西洋人は赤青黄のうち、青色が多く、赤色が少ないのが特徴です。
そして髪の毛の焦げ茶色の中の赤色は、重たく硬い印象を与え、艶っぽく見える特徴があるのに対して、
青色は、軽やかで柔らかい印象を与え、パサパサして見える特徴があります。
アジアンビューティーな艶っぽい黒髪ストレートは東洋人特有の髪質で、ウェーブのある西洋人が真似しても、なかなかできません。
東洋人が西洋人の髪の毛やファッションに憧れるように、他の人種の方からすると、憧れの対象になるそうです。絵の具とキャンパスに例えるところの、色味は「絵の具」です。
・明るさ(明度) = キャンパス
こちらは「キャンパス」です。キャンパスにのっかる油彩絵の具よりも、キャンパスに馴染む水彩絵の具のほうがイメージとしては近いです。
日本人の髪の毛はもともと黒く、黒いキャンパスの上にどの絵の具を使っても、ほとんど黒にしか見えません。
なので髪の毛を脱色(ブリーチ)して、キャンパスを明るくする必要があります。おしゃれ染めの薬には色素を入れるだけでなく、髪の毛を脱色する成分も少し入っています。
カラーの1剤が、色味と明るさの段階によって分かれているのはこのためで、明るくする薬ほど脱色の成分が多く配合されていますが、あくまで色をキレイに見せるための明るさなので、金髪にする脱色の度合いとは大きく違います。
髪の毛は脱色すると黒→茶色→黄色と変化していきます。
『変わった感じ』が重要
ドラッグストアには、当然ですが美容室のように50種類ものカラーの薬を用意することはできません。
美容師が作るような、細かい色味を作り出すことは困難なため、ヘアカラーしたぞ!というわかりやすい変化が出るように作られています。
ヘアカラーにおけるわかりやすさは「明るさ」の変化です。黒から茶色になる変化は見た目にわかりやすく、またそれ自体は安価な薬を使っても再現できて、コストがかかりません。
とにかく手軽で安く販売するため、色味の種類も選びやすい2、3種類ほどに留めています。ですが再現性が無いため、ドラッグストアのおしゃれ染めでは色味が再現されることはほぼありません。
そして、簡単な薬にするため、またしっかり明るくなるように、2剤である過酸化水素水は強い濃度のものが用意されています。
なので、美容師のように薬の効きの強さを調節することもできません。
パッケージの裏側の説明には、「明るさは時間で調節してね」といった形で表記されていますが、薬の強さが一律なので、時間を置けば置くほど髪の毛のダメージは蓄積されます。
「しっかり時間置いて明るくしよう!」
「白髪が染まるように時間かけよう!」
とすると結果、ギシギシに傷んでしまうのです。
ヘアカラー専門店に行くほうがイイ
最近はショッピングモールなどで大きく展開しているところもあります。お店によりけりですが、ドライヤーはセルフで自分で乾かすスタイル多いと聞きます。
ただし、こういったお店は値段が安い代わりに、美容師さんが時間制限に追われています。
一人当たりの単価が安い = たくさんお客様をやらないと稼げない
また、一人当たりの単価が安い = 安価な薬を使わないと儲けが少ない
ので、根元のリタッチ(伸びた部分だけ染めること)などに留めておく事をオススメします。
流行りのグラデーションカラー、バレイヤージュカラーといったもの(ビリーアイリッシュもしかり)は高度な技術と、効果的な薬と、時間が必要になるため、カラー専門店や某美容室掲載サイトのクーポン頼みであまり奇抜でお洒落なヘアカラーに安さを求めると、痛い目をみます。
以前、薬持ち込みのカラー専門店(ドラッグストアで買って、美容師に塗ってもらうスタイル)が増えたこともありましたが、まだあるのかな?パッタリ聞かなくなりました。
くれぐれも慎重に。
それでもこのご時世ですから、美容師側から強制はできません。ですが次、美容室でカラーをする時には、
恐れず「カラーは自分でしました」と言ってください。
美容師さんに渋い顔するかもしれませんが、その履歴もまた、美容師さんの判断基準になります。それ次第で、使用する薬の力を落としたり、配慮するはずです。
美容室のカラーとセルフカラー、良くも悪くも、納得した上で選んでいただければと思います。
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