家電開発者になり11年間、独身ひとり暮らしを続けている男による家電の選び方ガイド ~エアコン2021年モデル編~
エアコンというのは、大体秋頃に新機種が発表され、その年の年末商戦に向けて各社営業活動が行われる。今年もそんなエアコンヌーボーが出揃ったので、各社のレビューをしてみる。割とマニア向けの記事です⭐
パナソニック
パナソニックの今年のキャッチコピーは、「エアコンをつかいながら有害物質を抑制」だ。コロナ商戦で戦うためにナノイー推しをしてるが、よくよく中身を見てみると、今年の開発のメインテーマは省エネ(冷媒制御技術の改良)だった。営業戦略と技術戦略があんまりマッチしてないので、パナソニック内部の縦割り組織感が透けて見えてくる気がする😎
21年度モデルのポイントは、エネチャージを従来の暖房運転だけではなく、冷房運転でも使い始めたのが新しい。
エネチャージは室外機内部の圧縮機の周りに蓄熱材を巻いておき、圧縮機から放熱される熱を貯めておいて、冷媒制御に活用するという技術。従来は真冬の霜取運転時にその貯めておいた熱を活用するのが主だったが、今回は冷房運転でその蓄熱を使っているらしい。世界初の試みで、意味が分からん。
資料を見ると、設定温度付近での運転ON/OFFの繰り返しを低減させると書いている。最近のエアコンはインバータ制御という機能が備わっていて、設定温度付近に近づくと圧縮機の回転数を落として、冷房能力を下げる(=消費電力が抑えられる)ことが出来る。しかし、圧縮機というのは回転数を落としすぎると、内部の潤滑やら何やら色々ダメになって最悪故障するので、そうなる前に圧縮機を止めてしまう。
家が冷えていく→圧縮機の回転数がギリギリまで下がる→設定温度より室温が下がる→圧縮機止まる→家が太陽光などで徐々にあったまる→圧縮機再開する
と、だいたいこんな流れだ。この時、圧縮機がON/OFFするときに、大きなエネルギーが必要になるので、なるべく小さい回転数(冷房能力)で安定させることが出来れば省エネになる。今回の新・エネチャージは蓄積しておいた熱をなんかいい感じに(たぶん内部の圧力の維持とかに)活用して圧縮機が故障しない程度にゆっくり回転させるための技術だと思われる。
結果として、10%省エネになったとパナソニックは主張している。ただ、使用環境が一定に保たれた試験室での計測結果なので、実際の家庭の使用環境で、冷房代が10%減るということは無い。
単に、この圧縮機の最小回転数というのは、エアコンの性能を示す通年エネルギー消費効率(APF)の計算に効いてくる部分なので、各社技術競争をしてる領域なのだ。実際、本製品のAPFは6.6~7.3(2.2~4.0kW)と非常に高い。ただ、個人的な感想としては、レース用のガチガチチューニング仕様という印象が強く、実環境の性能はどうですかね?と思ってしまう。
ダイキン
ダイキンの今年のキャッチコピーは「換気しながら加湿・暖房できるのはダイキンだけ」だ。コロナ商戦では、換気を前面に押し出してきている。個人的に興味深いのは、フラグシップのうるさらX(RXシリーズ)ではなく、今年から新しくラインナップに加わったうるさらmini(MXシリーズ)。その名前の通り、ちょっとサイズがコンパクトになっていて、小さい部屋向けの商品になっている。
エアコンは6畳用(2.2kW)~14畳用(4.0kW)ぐらいまでが売れ筋で、6~10畳がワンルームマンションや寝室、12~14畳用がリビングという感じで設置される場合が多い。
うるさらminiはコロナ後に企画されてから開発期間が短かったのか、6~10畳用までしかラインナップが無い。恐らく、コロナを気にする家庭の、特に寝室や子供部屋にターゲットを絞って開発された商品なのだろう。企画~開発まで短く、中の人々の苦労が忍ばれる。
うるさらX(RXシリーズ)とうるさらmini(MXシリーズ)で比較すると、miniの方が98mmもコンパクトな設計となっている。約3/4のサイズダウンで、定価でも6~8万円程安い。コロナを気にするユーザーは勿論、小売店やリフォーム業者からしても売りやすい商材で、良いのではないだろうか?
ただ、デメリットもあって、室内の騒音性が悪い。6~10畳用で比較すると、うるさらXは暖房59~62dB、冷房57~60dBなのに対して、うるさらminiは暖房61~63dB、冷房61dBと、大体2~4dBほどうるさいのだ。
これはサイズをコンパクトにしたことで、搭載できる熱交換器のサイズも小さくなり、能力を出すために、ファンの回転数を上げているのだろう。おまけにウリである換気機能を使うと、更にうるさくなる。カタログの注釈部分に下記のような文言がある。
給気換気時の最大運転音は、室内機の最大運転音より2dB程度大きくなります。また風量を強くすると給気換気の音も大きくなります。
要は最大で6dB程度うるさい。と言っても良くわからないかも知れないが、結構な差だ。
あまりいい例ではないが、PPAPでPENと言うたびに6dB分低音が大きくなるという動画があったので、参考までに置いておく。音圧レベルの6dBなので、2回ペンと言った後を参考にして欲しい。
個人的な感想としては、なんか6dBもうるさくなるなら、キッチンの換気扇を小で回せば良くない?だ。
三菱電機
三菱の今年のキャッチコピーは「おうち時間をここちよく」だ。
今回のコロナ商戦で、パナソニックやダイキンが「ウィルスに不安を感じる人々」をターゲットにしてる一方で、三菱はテレワークなどで在室時間が増えて「快適に部屋で過ごしたいと思う人々」をターゲットにしているのが面白い。陽キャじゃん。
三菱電機のフラグシップFZシリーズは、APFが7.9(4.0kWクラス)と、業界ぶっちぎりの高性能なのだが、今年はそこのアピールは抑え目で、部屋がAIで快適になるという推し方をしてる。イラストもポップで明るく、なんだかイケてるテック企業みたいなブランディングだ。前からこんな感じでしたっけ?
三菱のAI技術はムーブアイが特徴的。このぴょこっと出たセンサーは特許で固められており、センシング範囲が広く、アドバンテージになっている。
ムーブアイは従来から、部屋の温度変化を予測して、エアコンの出力を調整するという機能だったのだが、2021年度モデルからは窓からの日射熱も新たにパラメータに加えているらしい。それが実際にどの程度快適性に効果があるのかは良く分からないが、進歩してるのは確かだ。
エアコンはAI機能の実装が最近のトレンドだが、その評価はとても難しい。無数の住居パターンを用意して、どの程度、狙い通りの空調が出来ているかを評価出来ればよいのだが、実機でテストするとコストがかかりすぎてしまう。自社製品ならば、シミュレーション等を使ってそのようなテストをすることも可能ではあるが、他社製品をシミュレータに組み込むのは難しく、自社と他社の差異/優位性が探りにくくなっている。
だから、ムーブアイのぴょこっと出てきて「なんかやってる感」を出すのは、ユーザーの「なんか分かんないけどやってくれてる😄」という満足感に繋がり、大きなアドバンテージであるのだ。
まとめ
パナソニック:ナノイー+冷房蓄熱という謎技術マシン
ダイキン:キッチンで換気扇回しときゃいいじゃん
三菱電機:陽キャ(ぴょこ)
という感じだ。
さて、最後に俺がマジで自分で買うとしたらどのエアコンを選ぶかを紹介する。悪いがここから先は、有料だ。ここまでの俺の偏った知識なんてものは、無料で全く構わないが、偏っていようと判断を求めるのならば対価を払ってくれ。
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