#3 父の肺がん手術
「癌の状態は開胸してみないとわかりません。
もし血管に浸潤していた場合は、
手術ができないのですぐに閉じます。
結構腫瘍が大きいので浸潤している可能性は高いです。
手術がすぐに終わったら、切除できなかったと思ってください。」
母と兄と私は担当医師からこのように説明を受けた。
要は、手術がすぐに終わったら最悪。
手術時間が長ければ、ひとまず安心だ!!!!
お願い。
お願い、お願い・・・!!!
どうか癌が取り切れますように。
血管に浸潤していないで・・・
どうか手術、すぐに終わらないで・・・
私たちは待つから、
どうか手術時間が長くなりますように・・・
じいちゃん、ばあちゃん、
ご先祖様、神様、誰でもいいから
お父さんを助けて・・・!!
父は手術室まで歩いて向かった。
「行ってくるね〜」と笑顔で手を振った。
もしかしたら、
万が一があったら、
元気に笑っている父の姿を見るのは
これが最後かもしれない。
一瞬頭をよぎった。
でも私たちは何事もないように、
絶対成功するから大丈夫!とでも言うように
「あとでね!!」と
笑顔で明るくお父さんに手を振った。
もし最後だった時のためにも
楽観的な私たち家族らしく
深刻な雰囲気にはしたくなかったからかもしれない。
生死を決める手術だけど、
気楽に散歩に行くような雰囲気で。
父の手術を待つ間、
母と兄と私の三人は面会室で待った。
「手術が長くかかればいいんだよね」
待つ間はあまり話をしなかった。
どうかすぐ「手術が終わりました」と
看護師さんが報告に来ないことを願った。
どうか手術が成功しますように・・・
それぞれが心の中で願っていたのかもしれない。
5分、
10分、
長い。
時間が、とても長く感じた。
30分、
もう開胸してるだろうか?
そして、
1時間ほどした頃だろうか
看護師さんがやってきた。
「手術できるそうです!
まだ時間がかかりますので」
と、嬉しい報告に来てくれた。
手術できる!!!
やった!!!!
ひとまずこれで安心だ!!!!!!
私たち三人はホッとした。
心の底から安堵した。
誰も何を言わなくても、
三人が同じことを願っていたんだろうとわかった。
ホッとしたら、急にお腹が空いてきた。
さっきまで空腹なんて全く感じなかったのに。
「お寿司でも食べに行こうか!」
「お父さんが羨ましがるね」
私たち家族のご馳走は決まってお寿司だ。
先ほどまで静かだった私たちは
仲良く話しをしながらお寿司屋さんへ向かった。
お父さん、ありがとう。
頑張ってくれて、ありがとう。
父の手術は無事に成功した。
大手術を乗り越えた父は、
点滴やらいろいろな管に繋がれて、
さっきまで歩いていた父とは少し別人に見えた。
麻酔から目が覚めると、
父は
「みんなで旅行に行こう」
私たちにそう言った。
「うん、行こう!行こう!!!」
家族旅行なんてもう何年も行っていない。
4人揃った旅行なんて10年以上だろうか?
父もやはり今回のことで
死を意識したのかもしれない、と思った。
そこでやり残したことは
家族旅行だったのだろう。
「絶対、元気になったら旅行に行こうね!」
そんな話をしながら、
私たち家族四人は写真を撮った。
「お父さんすっかり病人だねえ!」
なんて言いながら、
明るい我が家らしく、
みんな笑った写真だった。