会社のオフィスでC-3POにレ〇プされた話
別に俳優を目指していたわけではないのですが、映画のモブ役(エキストラ)のギャラはそこそこ良いことを知り、当時苦学生だった私は求人に応募しました。そして見事(多分私がかわいかったから)当選しました。
エキストラというのは、映画やドラマで俳優さんの後ろや周りに映る出演者のことです。ただし、セリフは基本的にありません。無言の背景になり切ります。が、これは実は侮れなくて、目立たないけれども、シーンの雰囲気をしっかり作り出しているんです。
たとえば、探偵がファミレスで依頼人と話すシーンがあるとします。探偵の周りでは食事しながら仲良く話をする家族やカップルがいますが、これがエキストラたちです。探偵たちの邪魔をしないよう、エキストラたちは音をたてず食事をして、音をたてず恋人(という設定の人)とイチャイチャし、音を立てずに友人(という設定の人)と談笑します。
ね、結構大変だと思いませんか。
しかしまあ、ここまではネットを漁れば出てくる情報です。
この世の半分のことは、やってみなければわからないんですよ。
メールで送られてきた撮影現場(雑居ビル)に行くと、ロングヘアで、うさんくさいサングラスをかけたハリソン山中みたいな男性と、ガリガリで背が高く目のキマッたC-3POみたいな男性がエントランスのソファに座っていました。(以降この人たちを「ハリソン」「C-3PO」と称します。)
お互い挨拶を済ませると、ハリソンは私が出演する映画の監督で、C-3POは俳優さんということが分かりました。
そしてハリソンはこんなことを言いました。
「竜門さんには、会社のオフィスでC-3POにレ○プされてほしいんです」
そのあといろいろと映画のシナリオを聞きましたが、よく覚えていません。要するに、世紀末映画のワンシーンとして男性が女性をレ〇プする場面を撮りたいということでした。
もちろん本当に脱ぐわけではないのですが、部屋を暗くし、腰を動かし、それっぽいシーンは撮らせてもらうと言われました。
C-3POはガリガリで、強〇魔どころか一滴も絞り出せないような容貌です。本当に撮れるのか、絵的にどうなんだ、とかよぎったのはともかく、楽しそうだったのでノリノリで承諾書にサインしました。
いざ撮影開始。
私はオフィスの床に四つん這いになり、C-3POは後ろからドッキングするかたちでスタンバイ。
監督がカメラ片手に「アクション!」と言うと、C-3POの腰が
ギ、ギギ、ギギギギギギギコギコギコギコギコギコ!
とゼンマイ仕掛けで動き出します。
え、蝉? というくらい高速で動くので、私はそれっぽい演技をしようとしたのですが、思わず吹き出してしまいました。
「カット!」
ハリソンが首を振ります。
「竜門さん、もっとです。もっと真剣にレ〇プされてもらわないと困りますよ」
おそらく一生聞くことがないだろうセリフを受け、それから、喘ぎ方の指導を受けました。ハリソンが「私は童貞だからよくわかりませんが──」と言ったところで私の記憶は途絶えています。
「ではもう一回撮影します。いいですか。恥ずかしいのはわかりますが絶対に笑わないでください。いきますよ。……用意、アクション!」
ギ、ギギ、ギギギギギ、ギコギコギコギコギコギコ!
私はまたも吹き出してしまいました。
そのあとも何回か撮影したのですが、面白さが勝ってしまい、私はどうしてもうまく演技できませんでした。
「すみません」
「竜門さん……なにを恥ずかしがっているんですか」
「いえ、恥ずかしいわけではなく」
「ではどうして」
「ちょっと……C-3POさんの動きが面白いなって。必死、というか」
「そりゃ、C-3POさんは全力で動きますよ。なぜなら彼は世紀末の世界で理性を失い頭のイカレた強〇魔だからです。いいですか? たしかにこのシーンは下ネタです。男性のきたない下心がむき出しになった下品な場面かもしれません。しかし、映画とは心を映すものです。下心も立派な心ですよ」
私は眼が覚めるような心地がしました。そして、この撮影現場でおちゃらけていた自分が少し恥ずかしくなりました。
「やります……集中してレ〇プされます!」
私は夕焼けに向かって走り出すバレー部員のような顔をしていたと思います。ハリソンは吸っていたたばこを窓から捨てました。
「では撮影しましょうか。これで最後にしましょう」
「用意……アクション!」
ギギギギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコギコ!
最初からフルスロットルのC-3PO。でも、私は笑わずに、真剣に演技をすることができました。脳内では『パイレーツ・オブ・カリビアン』の「He's a Pirate」が流れていました。↓
こうして、無事撮影は終了しました。
帰りはハリソンに駅まで送ってもらい、ギャラと缶ビールをもらいました。
家に帰って、無理やり女性が襲われる映画を検索してみたんですが、結構出てきますね。わかってはいましたが、女優はどうもキラキラした世界ばかりを生きているわけではないようです。
今まで何となく見ていた映画ですが、その撮影現場に流れる空気感を想像すると、ひとしお面白く感じられます。
私はプラトニックな純愛映画が好きでしたが、下心もまた心。その哲学は、肉欲をむき出しにした不純な愛も、生々しい描写が特徴のスプラッター映画も楽しく見られるようにしてくれます。
なんだかまとまりがなくなってしまいましたが、人生を楽しく生きるヒントを得た気がしたんです。伝わりましたかね。
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