ログ(忍者寺)
※升大先生の文章を愛好する一般人によるログです。
実をいうとおれは忍者がかなり好きだ。幼子がプリキュアや仮面ライダーに憧れるように、小さかったおれは忍者に憧れていた。
何の物語がきっかけだったのかは覚えていないのだが、すっかり忍者に魅せられたおれと弟は、忍者の生態を解説した図鑑に載っていた、忍者になるための訓練に日夜励んだ。
水遁の術と称して湯船に潜ってストローで呼吸をした。折り紙の手裏剣を投げた。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という、忍者が印を結ぶ文言を覚えた(これは今も諳んじられる)。
足音が鳴らない歩き方(踵ではなく爪先から地面に付けるとよいらしい)を習得し、2人で「しゅたたっ」と言いながら野山を駆け回った。訓練の甲斐あって、50m走の人生最速タイムはなんと9.8秒である。遅。
またあるときは隠れ身の術のつもりで、白い壁の前で同じく白いシーツに身を潜め、「どこにいるでしょう?」と母にだる絡みした。子どもの即席マントなんてバレバレだっただろうに「あれ〜?どこだろ?」と大袈裟に探してくれるものだから得意になって何回もやった。
当然、将来は侵入者を罠にはめまくるからくり屋敷に住みたかった。
しかし大きくなるにつれ次第に情熱を失い、忍者になりたいと願うこともなくなった。
が、3年前、忍者への熱が戻る出来事があった。
おれは過去に2回、金沢に行ったことがある。
1度目。友人と相談しながら観光地を調べていたとき忍者寺を見つけ、長いブランクを経て熱が蘇ったおれは「忍者寺!?え、からくり屋敷だって!」と言った。
友人からは「ほんとだ〜」と返ってくる。
反応薄っ。ここでおれは、一般的な女子大生は忍者に興味がないという一つの残酷で至極当たり前な事実にぶちあたる。
2度目、別の友人。同じく旅行プラン相談中、試しに「忍者寺もあるんだって〜」と前回より控えめに言ってみるおれ。
友人「へー!あっねえ、ここ楽しそうじゃない?」
やっぱ興味ない。そうして2度とも忍者寺に行くことは叶わなかったのだった。
ここで念のため擁護しておきたいのだが、心優しき友人たちは、もしおれがここに行きたいと言えば全然付き合ってくれたであろう。しかし、この段階で金沢という街が魅力的すぎることに気付き、既に再訪を確信していたため、また今度行けばいっか、と思って提案しなかっただけである。念のため。
今回金沢公演の当選がわかり、ライブが楽しみなのはもちろんだが、やっと忍者寺に行けるぞ……!という気持ちがあった。3度目の正直である。
そのタイミングでひでちゃんのLOG。楽しみ倍増である。
忍者寺からほど近い場所に忍者武器ミュージアムもある。
ここではなんと、手裏剣投げ体験ができるという。そんなの行くしかない。
全然思った方向に飛んでくれないし、当たったとしても刺さらないで落ちてしまう。
結果、5枚中ヒットは1枚。難しい。小さい頃折り紙の手裏剣であんなに練習したのに。
2階には武器が展示されている。
まきびし。吹き矢。鉤縄。実は隠し刀になっている扇子や煙管。
忍び込む。虚をつく。そんな戦い方をする忍者の武器は、やあやあ我こそは!と派手に戦う武士の武器とはまた違った魅力がある。
さて、武器を見て十分に気分を高めたおれは、わくわくしながら忍者寺に乗り込んだ。
受付を済ませると、パンフレットを渡される。
ひでちゃんめっちゃ細かく覚えてるじゃんすげー!と思いながら読んでたけど読んでみてわかった、パンフレットがっつり見て書いてる。ひでちゃんのかわいさに同行者とひとしきり盛り上がる。
ただ、彼にレポ力(ぢから)があることは間違いない。今度ライブレポ書いてほしい。
仕掛けを結構たくさん紹介してくれてたのでそれについては本家のLOGに任せるとして、ここでは彼が触れていなかったものを紹介したい。
入口が返し戸?になっていて、入れるが中からは出られない、窓もない四畳の部屋がある。
敵に追い詰められた際に屋敷に火を放ち、切腹するための部屋らしい。
実際に攻め込まれたことはなかったようだが、本当に戦を想定して建てられたものなんだなあと感じ入る。
ひでちゃんの説明を読んでもうまく形状を想像できなかった仕掛けが1つあり、物置の戸を開いて床板をはがすと隠し階段が現れるというものなのだが、それも実物を見て理解することができた。
隠し階段に逃げ込んだあと追手が入ってこられないように鍵をかけたいが、錠前にすると敵に見つかってしまう。そこで、床板を削って敷居の溝を作っている。この床板をはめた状態で戸を閉めると自動的にロックになるという仕組みだ。かしこいつくり。
罠や隠し通路がたくさんあるし、部屋の配置も複雑なので、どういう構造になっているかの図を脳内で全く描けない。もしおれが攻め込む側の立場だったらもうとっくにやられているだろう。
ガイドさんが「出城のような役割だったんですよ」と言っていてかっこよかった。
一見何の変哲もないお寺が実はからくり屋敷で、百万石の領地を誇る金沢城の出城。ロマンしかない。大満足であった。
みなさんも金沢に行かれる際は、忍者寺と忍者武器ミュージアムに立ち寄り、忍者の世界に浸ってみてはいかがだろうか。