屈辱、羞恥、恐怖。
高校一年生の世界史の授業中のことです。
担当はI、40歳くらいの小太りで威圧的な教師でした。
ある日の授業中です。
Iは板書をしながら、
「スイスは永世中立国とか言っているが、軍備が整っていていつでも戦争やれる」、と言いました。
私は板書を写して、ノートの余白に「いつでもやれると」とメモを書きました。
私はほかの生徒と違い、Iの偉ぶった態度に過敏に反応し、ことあるごとに態度などで意思表示していましたから、Iに睨まれていました。
メモを取って顔を上げると、Iが私の方へ近づいてきます。
ノートをのぞき込んで私を見ると、おどけたような、馬鹿にした声色で言いました。
「どうぞお帰りください。」
左手を教室の出入り口へひらりと返して醜い笑顔を作っています。
え??!!
正義漢(女子高生ではありますが)で、教師の虚栄に過敏ではあったものの、もともと単にまじめで不器用な小心者の一生徒に過ぎなかった私は、何が起きたか分からず、頭の中は高速でぐるぐると考えが巡っていました。
「どうぞお帰りください。」
Iは繰り返します。
私は、私が帰宅しなければいけないほどの何か悪いことをしたか大急ぎで考えていました。
そして、Iの醜い笑顔と声色と私のノートのメモからすぐに察しました。
この教師は私がいつでもセックスできると解釈したんだ!
私は、屈辱と羞恥と恐怖とで縮こまってしまい、これまた情けないことに、なぜ授業を受けている私が教師に帰るように言われているのか説明を求めることもできず、ただ不安な気持ちで「はい?」とやっと言いました。
なかなか屈服しない私に業を煮やしたのか、Iは私のノートをもう一度読み返していました。
Iはここで自分がやっちまったことに気づきました。
私のノートはただきちんと授業を聞いている生徒のとったもの以外の何物でもなかったのですから。
ここでIは姑息な行動にでました。
「板書とノートは同じスピードで取らなければいけません。」
とクラス全体に話し始めました。
私への説明ではありません。
私はとても悔しかった。Iが咄嗟についた嘘の言い訳で私を気付つけたことをうやむやにごまかしたからです。
クラスメイトは私がノートをとるのが遅くて先生に叱られている、と思ったでしょう。
私が一人傷ついただけで、授業は再開されました。
何事もなかったようでした。
たとえ、ノートをとるのが遅かったとしても、帰らなければいけないほど悪いことだとは到底思えません。
やはりIは私のメモを勘違いし、さらに私を侮辱し、謝罪もなかったのです。
休み時間、私に同情を示すような友人もなく、私は孤独でした。
家に帰って母に、板書のスピードとノートを取るスピードは同じでなくてはならない、と帰るように言われたと抗議しました。
(セックスを)いつでもやれる、と勘違いされた件は恥ずかしくてどう説明したらいいのか分からず、言えませんでした。
母は私に寄り添うようなことはなく、何でも否定するような人でしたから、「先生のおっしゃる通りでしょ!」と怒鳴られました。
これが私の日常でした。