ネッサローズに幸有れ!
1.はじめに
10/28に初めて観た『ウィキッド』、有り難いことに5回見終えて手持ちも残りの方が少なくなってきた。
エルファバ、グリンダ、マダム・モリブル、オズ陛下、ボックにディラモンド先生は、複数キャスト拝見してきて、皆様素晴らしく、あの方のこの部分が好き、この方はあの部分が絶妙、と毎回幸せ。
その中で、フィエロとネッサローズは毎回同じ方の回に当たっている。
そのうちの ネッサローズ についてここでは感想を述べる。
※ネタバレ含む
2.ネッサローズとは
今更書くまでもないが、悪い魔女とされたエルファバの妹。登場時はエルファバ、ネッサローズ姉妹の父である総督が存命なので、マンチキン国の次期総督の立場で、身分は大学生。脚が悪いので車椅子。
エルファバは『オズの魔法使い』での西の悪い魔女で、冒頭にドロシーの家に押し潰された、東の悪い魔女の姉。ということは、実は3人姉妹ということがない限り、東の悪い魔女はこのネッサローズ。実は異母妹がいるとかないかね。
3.白黒のタイツ
ジュディ・ガーランド主演の1939年公開映画版では、家に押し潰された東の魔女の脚と靴だけ見えるシーンが有り、白黒のボーダーのタイツを穿いてることが確認できる。
2幕の『総督の椅子』のシーンで靴に魔法をかけられてロングスカートを膝下近くまでたくし上げた時に、同様に白黒のボーダーのタイツが確認できるが、初めてそのシーンで気づいた時に「あの下敷きになった東の魔女はこの子なんだ」と切なくなった。
秋劇場だと、2階席からは見えないので、1階席の時のみの絶望を感じるポイント。
4.総督の椅子
順を追って書かず、書きたいことから書くと、若奈まりえさんのネッサローズの2幕の出番『総督の椅子』は圧巻。
1幕が可愛らしい薄幸な妹、というのから、ここまで凄みを出せる振り幅に毎回心揺さぶられている。目が離せない。
初見後にBW版購入したが、まず聞きたいのがここのシーンだったのに、音源化されて無いから『No Good Deed』聞いて、エンドレス「ネッサ〜」と一人荒ぶってた。
話を戻すと、1幕も少しエルファバに対して拒絶感があるところとか、完全な陽のキャラじゃない伏線があるからこの変わりようは全く唐突感がない。
「エルファバ黙って」の威圧感から、この方は総督なんだな、という説得力を感じる。
そんな総督に対して全然目を見て話してくれないボック、用が終わったら去って行くボック。独り残されたネッサは鏡で髪をチェックするが、ボックのためにキレイで居たいという乙女心を若奈ネッサローズからは感じて「見てるかボックー!!ちゃんと向き合えやーー!!!」と、一人で内心荒ぶっている。
でも、ボックも「M」とロゴが刺繍された洋服着てるから、そういうとこ憎めない。マンチキンのMだよね?
「味気ない この部屋に いつも一人 総督の椅子さえも まるで牢屋よ 歩きたい」のとこの、思い通りにならない憤りと悔しさと歩くことへの憧れと諦めと。積年の思いが詰まってる。若奈さん、アリエルの時はどんな風に歩きたいって言うんだろうか、全然違うんだろうな、って見終わった後にチラッと思った。
エルファバの魔法のお陰で自立歩行できるようになって、姉にありがとうを言わないところは恩知らずだなという気はするが、愛するボックにすぐ報告したいという乙女心故にと思うと許せてしまう。もう私はネッサのモンペ。総督見付さんと張り合えるんじゃないか。そんなことはないけど。なお、今の所、毎回総督は見付さん。岸さんの総督、拝見する機会はあるのだろうか。「このヤギ」聞きたい。これは総督ではないけど。
話戻すと、この後やっとボックは目を見て話をしてくれるが、そこで告げるのは別れの言葉という。ネッサは二人で生きていく未来を見てたのに、ボックは別々の道を歩めるね、と、にこやかに歌う。何なら初めからグリンダに惹かれてたんだ(英語版)、とか、傷口に粗塩揉み込んでくるボック。
その時の若奈ネッサローズの表情の移り変わりも見事で。笑顔から怖れ怒りに変わるけど、キレイな人が怒ると怖いってホントだなって思った。
狼狽えながら食卓に向かってるから最初刃物でも探してるんじゃないかと思う程、ボックをなんとか引き留めようという強い意志を背中から感じる。執念深い女。
ここで音楽は弦が盛り上げてくるのに合わせて、振り返りざまに歌う
「嫌よ 信じたくない どこにも行かせない 誰にも渡さない あなたの心離さない」
数十秒位の歌唱シーンなのに、強烈な印象で私の心が掴まれた。冒頭の「嫌よ」で、もう涙が出てしまう。文句なしこのシーンの主役。
喚くボックを尻目に無茶苦茶な呪文を唱えて、結果ボックが胸を押さえて苦しみだして「エルファバ何とかして」というのも身勝手極まりないのだが、続く歌唱シーンが見事なので、こちらもエルファバ何とかしてって気持ちになる。
「お願い 助けて どうか彼の命 わからない どうしたらいいのか 一人きりでは 生きていけないの 神様 愛しいあの人を 奪わないで」
この時の旋律、1幕でボックにダンスホールに行こうと誘われて初めてのデートに心躍る心境を歌った時と同じなんだけど、声が全然違う。
1幕が可愛らしさ全開なのに、2幕のこの箇所は、もう情念、執念、色々こもったドロドロな声。
なんで『総督の椅子』は、音源化されてないのか。
一度限りなんて世界の損失だ、って何度思ったことか。これはこの作品に限ったことではないけど。
この後彼女は取り乱しっぱなしだが、目を覚ましたボックに向かう時に平静を装って、先程までとは打って変わって優しい声を出す若奈ネッサローズ。
クローゼットの鏡で目の周囲を確認しながら涙を拭く仕草に、やはりボックの前ではキレイで居たいんだな、という乙女心を感じてこちらは涙が止まらぬ。
結局ボックは去っていき、総督の椅子のシーンもここで終わるので、次のシーンへの場面転換が入るが、初めてのデートだわ!的にはしゃいでたのがダンスホールで、退場シーンもグリンダとフィエロ含む優雅なダンスシーンがカットインしてくる。
暗転からの場面転換とか他に選択肢あるだろうに、敢えてこれを選択しているのが、ネッサローズに対して本当に残酷。
1幕:車椅子押してもらってクルクル楽しそうにみんなと踊るネッサ
2幕:クルクル踊ってる華やかな人達の真ん中で独り自分で車椅子を押して去っていくネッサ
という構図の対比。
他の方があの時の若奈ネッサローズ、感情が無い、と書かれてて、その通りだな、と思った。悲しさ通り過ぎて何もない空っぽ。
もう、ここで涙で視界が歪んであんまりシーンを認識できないので、もう少しダンスシーン長めにとって欲しいとか勝手に思ってる。
話を理解した上で拝見した2回目の終演後、ネッサローズの不憫さを思って涙が止まらなかった。ドラゴン時計のあんよの可愛さでなんとか正気に戻ろうと試みた。ありがとうドラゴン時計。
5.グッドニュース
3回目の観劇後に四季好きの知り合いとお喋りをしてたら、ネッサローズ役の人はオープニングでアンサンブルに混ざって歌ってるよ、と教えてもらった。「まりえさん可愛らしいから下手にいるってすぐ分かるよね?」と。
いらっしゃると思ってなかったから、見付さん重点的に追っかけてたわ!!盲点!
1場は下手を重点的に見ようと意気込んで挑んだ4回目。若奈さん、いらした。これまた私のお気に入りの今村さんの隣でグッドニュース。下手バルコニー観たらお気に入りな方二人がロックオンできる、ありがとう世界。
もう、これ、ネッサローズは難を逃れて一市民として隠れて生きている説を勝手に提唱する。何なら今村7枠市民が助けた設定。
哀れなウィキッーードゥッ
5.終わりに
あと3回、せっかくなら守山ネッサローズも拝見したいし、ここまで虜になった若奈ネッサローズもまだまだ拝見したい。強欲な日々は続く。