【小説】七夕異端談義
~商店街にて~伝承と行事
七夕。
それは今日まで織姫と彦星の再開を祝う日本にある願掛けとロマンチックの掛け合わせの代名詞である。
短冊に願い事を書き、笹に掛け、星の集まりである天の川に向かい願うのだ。
さしずめ、私は灯籠流しを思い出すのだが、何処かズレている気もするので口にはしない。
友人と遊びにに出掛けたがどこも混み合っていて、外でブラブラしていた先で笹の葉があり、短冊を配っていたので、私は差し障りのない言葉で、差し障りのない願いを書き、笹の一番下に掛けた。
一方、友人はと言えば、短冊を勧められても頑なに短冊を拒んでいた。
~道中にて~疑問と興味
「なんでそんなに短冊を拒むのさ?」
お姉さんとの不毛な会話をする友人を
「置いてくよ。」
と声を掛け、会話の流れを塞き止め、回収しながら、隠さない苦笑を向けて友人に尋ねると怒気を含んだ声でこう答えた。
「七夕に願いを掛けるなんて、叶わないに決まってるだろ!」
「はぁ?」
予想斜め上の答えが返ってきたせいか語尾を上げた疑問詞をしてしまった。
「そりゃあ願掛けだし、絶対にかなう訳ではないよ?」
と宥めるように返答すると
「そういう事じゃねぇ!!あれは逆に運気を吸われてるんだ!!貢いでるだけなんだ!!」
と声をさっきより少し大きくした。
「んん?どういうこと?」
彼の今の返答には少し興味が湧いた。
これはいい話の種ができそうだ。
~喫茶店にて~理由と嫉妬
私達は結局、行きつけの隠れ家的喫茶店でお茶をしながら時間を潰すことにした。
そこでも七夕フェアが行われていてたが、私達は今から『アンチ七夕』の話をしようとしているので、ここは友人の怨念にも似た気迫に気圧され、そのフェアの注文を断念した。
しかし、スイーツセット自体は物凄く魅力的だったので、セット対象外のスイーツを頼んだ。
これで私の七夕フェアへの悔しさも半減である。注文から商品が届くまでに掛かった十数分そこそこ(大半は私の頼んだスイーツによるもの)が来るまでは差し障りのない会話を並べ、いざ始まった時には、
「いいか?俺達は美談にされてる七夕に騙されてるんだよ。」
という少し落ち着いた友人の言葉で口火を切った。
「よく考えてみろ。奴等が離れ離れになった理由を。単身だった時は二人とも美男美女で、仕事も出来て、人当たりも良い。所謂、非の打ち所ない奴等だったんだ。」
「そうだね。だからこそ釣り合うんだけどね。」
お見舞い一つ、弾丸の様に話す友人に一息着かせようと相槌を打つ
「あのな?釣り合ったって付き合った後、ベタベタイチャイチャして仕事しなくなったんだぞ?意味ないじゃんよ。
付き合って堕落するだけじゃお似合いとは言わないの。お互い高め合わなきゃ、その人の為とは言わん。」
「ふむ。だけどそれで1年に一度しか会わないようにされるんだよね?」
友人の恋愛観に少し良い印象を抱き、二つ目のスイーツに手を掛けながら相槌を打った。
「そう、自業自得なのに、日本じゃやれ『可哀想』だの、やれ『ロマンチック』だの。頭が天の川な連中が言ってんの。馬鹿かっての。」
喉が渇いたのか、アイスコーヒーを友人は口にした。
「それにだ。奴等の1年って俺達人間の換算じゃん?
星の寿命で換算したらたった三秒だぜ三秒!!
諸説では2分らしいが、三秒や二分毎にベタベタイチャイチャするの許可してるんだぜ?罰になってねぇよ。
それを七夕フェアだなんだと、そのグータラカップルに向かってお願いしたり金掛けたりしてんだぜ? 資産家もビックリするくらいの儲けっぷりだよ。
それに気づいた時には愕然としたね。」
言い終えるとオーバーに絶望感を手つきで表していた。
「なんとなく理解したよ。
日本で考えてみたら、 なるほどイライラしたね。君ほどじゃないけど。」
三つ目のスイーツに手を掛けながら感想を述べると友人は少し気に食わなかった様で ムッとしていたが、
「私なら心の中で嘲ってるだけにするよ。」
と友人になら言える言葉を付け加え、アイスココアを口にする。
「結局、夢を叶えるのは自分次第だしな。グータラ星に大事な願いを渡せるか!!」
と良いながらも、友人は項垂れた。
「何?もしかしてまたオーディション落ちた?」
私は精一杯詰る。
「落ちてねぇ!!……まだ結果来てなくて不安なだけだ!!」
友人は威勢良く言い返すものの表情と表情と語尾からは不安が見え隠れしていた。
「まぁ…諦めなくちゃなんとかなるよ。無責任な言い方だけど。」
三つ目のスイーツを食べ終え、四つ目に差し掛かりながら自分なりに無難な言葉を言いそれに対して友人は
「おう。」
とだけ返して残った自分のスイーツを食べ始めた。
~心中にて~皮肉と願い
もし、彦星と織姫に短冊が届いているなら、もし星に感情と人格があるのなら。
そのだらけた気分を振り撒いたり、その蓄えたお金を何処かにばら蒔いて欲しい。
そうすれば私のお願いが叶うはず。
バカにされて悔しかったら叶えて見なさいな。
とても素朴でとても難しい
差し障りのない言葉で、差し障りのない叶う手立ての無い願いを。
『私が生きている間だけでも日本が平和でありますように』
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