片道惑星通信

300字ss
第七十五回 お題:届く



 一番最初に忘れるのは、声だという。


 三ヶ月に一度、宇宙の果てから一方的な通信が届く。
 旅立った君から、はろーはろー、と。
 残された僕らに、ささやかな娯楽に似た、ラジオ放送みたいなそれ。
 こちらからの手段がない故にその声は片道しかない。連絡するから、と遠距離する人の常套句を言っていたのはいつだったか。ドラマじゃあるまいし、と思ったのを覚えている。
 誰もいなくなるこの惑星で、知らずに発する君の声は不本意ながら僕の心を慰めた。


 一番最初に忘れるのは声だという。空っぽな部屋で思い出す。
 なら最後に遺るのがそれとは、なんとも幸せなことだろう。
 暖かな酸素が肺を充し、瞼は微睡みの中移ろう。
 はろー、と最期の声が聴こえた。

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