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幕間

言葉より大切なものはないと言いながら、貴方は刃で言葉を刺した。あんなに大切にされた言葉は、無残にも呆気なく崩れ去ってゆく。
そうして貴方は居なくなった。
そうだ、一番だろうが縛りは無いのだ。
楔になれぬものの残骸が首輪の様に自分を繋いだとて、人は簡単に振り払える。
幾重にも重なる重さに潰され囚われたなら、どんなに普通を知れただろう。
熱のない両手を開いて空を仰ぐ。
そうだ、この冷たさが僕等なんだ。
楽園などないととうに知っている。
ワンシーンが通り過ぎるだけの日々。
何処にも行けない僕等は、只々見つめることしか出来ない。
貴方が最後にみた景色は、きれいだったろうか。そう思えるものは、ひとつでもあったろうか。
劇幕が閉じた今となってはもうわからない。
いつか僕等もそちらに行くだろうか。
己の背後にある幕の気配をやり過ごし、そっと目を閉じる。
見えてしまった幕際に己の光を見いだしたらば、きっともう、戻れない。

#雑文

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