ゲーマー歴38年のダンジョン紀行#39 『ダンジョンアニメ最盛期?』
▼『ダンジョン飯』、観ましたか。
今回は気軽に読める日常コラムになります。
近年、ダンジョン小説や漫画が原案となりアニメ化されているダンジョン作品を見掛けます。実際、昨年調査した『ダンジョン小説』で見た名前はことごとく漫画化・アニメ化されています。また、商業発漫画作品も多くアニメ化がなされています。2024年現在も『ダンジョン飯』、『ダンジョンの中の人』など、商業ダンジョン漫画が原作のアニメが好評放映中です。
そんな昨今のダンジョンアニメ作品を観ていて、限られた時間で描かれるアニメにおいて、ダンジョンがどのように描かれているかを見ていくのが今回のコラムとなります。
※今までの記事と同様、ピックアップタイトルは”ダンジョン”と付いた作品を取り上げております。一作品”迷宮”なのですが、これも他記事で作品を取り上げるのと同様です。
現在は、ゲームをオマージュした作品の多くに”ダンジョン”が登場するかと思いますが、ダンジョンを主眼としていることを明確にされている作品を取り扱うと言う意味で、タイトルを対象とさせて頂いております。
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私の記事は『ダンジョン』を焦点にコラムを書かせてもらっております。マガジンの中でも異色のコラムとして、楽しんでもらえたら幸いです。
▼B112F:近年のダンジョンアニメ化作品
【ダンジョンの中の人】2024年7月-9月
原作は2020年からwebアクションにて連載中。2024.9、現5巻。作者は双見酔で、ラグナロクオンラインを原作にした漫画作品から商業で活躍され、断続的にファンタジー作品をモチーフに、その中で起こる人間模様や生活、感情の機微を描く作者です。
当作品『ダンジョンの中の人』は、ダンジョンに挑むのが仕事として存在する世界で、父親に育てられたシーフの少女が一人でダンジョン探索をしているところから始まります。彼女の腕は一般とはかけはなれた凄腕で、単身で9階まで潜れる規格外でした。(世間一般の記録では、7階が最高到達点)
しかし、9階のボス戦において、戦闘の折にダンジョンの壁が崩れ、似つかわしくない普通の部屋を見つけたことで、ダンジョンの裏側を知ってしまいます。そこからダンジョンマスターの少女に出会い、ダンジョンが運営されていることを知っていく……と言う作品。作中でのダンジョンの説明は簡単なもので、むしろその裏に”普通の生活がある”と言う所が面白がられている訳です。『”ダンジョン”と言うものがどういうものか』は、それだけ読者に認知されていると言う表れでもありますね。
記事を書いている現在はまだ放映途中ですが、アニメ1シーズンで描かれるのは、見所となる父親との戦闘までが描かれるであろうと思われます。ダンジョンを中心とした作品なので、アニメの中でもほぼ漫画の内容と遜色なく描かれ、漫画で描かれた動きが動画として見せられた部分は非常に良く、特に主人公クレイが魅せるアクションパートは花形と言える格好良さを感じることができました。
加えてダンジョン紀行目線では、
・ダンジョンが世間で当たり前となり経済活動の中心になっていること。
また、
・ダンジョン自体に独自の運営体系があること。
など、剣と魔法、魔物やダンジョンなど非現実的なゲーム要素が背景にありながら、物語の面白さは人間臭い集団を運用する難しさや妙、人間関係や個々の考え方の成長にある作品と言うのが面白い所です。
この作品で扱われるダンジョンからは、ダンジョンが人の手によって扱われているものとしてのメタ思考による楽しさや、ゲーム的に強キャラが気持ちよく攻略して行く様などが見て取れます。挑むものとしてのダンジョンと、作られている裏側を知る楽しみ、その2つの面が特徴的です。
例えば、この作品をモチーフとしてボードゲームを作るとしたら、ダンジョン運営の目線で各プレイヤーが登場キャラクター達となり、一定フェイズが経過するまでにダンジョンのモンスターの配置、マップの制作、宝箱の用意などをするダンジョン運営型のゲームが真っ先に思いつきます。
一方で、ダンジョンを作るゲームマスターと、ダンジョンを攻略するプレイヤーと言う非対称性PvPにしても映えそうです。やはりダンジョンと言うからには、TRPG化するのも相性は良さそうですね。原作ありのTRPGだと、登場キャラクターの性能の再現などが期待されるところですが、主人公のクレイが縦横無尽にダンジョンを飛び回る様を想像する人と、クレイの父や管理人ベルのような規格外のキャラクターがどれだけ規格外になるかを楽しむ人などが出てきそうですね。
【ダンジョン飯】2024年1月-7月
原作は2014-2023年に雑誌ハルタにて連載。全14巻。作者は九井諒子で、『ひきだしにテラリウム』や、『竜の学校は山の上』など。独特の世界観を作り上げながら、細かな所まで作りこまれており、どこか現実にあるような錯覚を覚えつつ、明らかにファンタジ―と言う世界を作り出す作者です。
狂乱の魔術師が作ったダンジョンを中心に、多くの者がそこを経済の中心として動いている舞台。主人公のライオスも多分に漏れずダンジョンに挑みますが、奥地で妹をダンジョンに食べられてしまう。まだ生きていると信じ再び挑もうとするが、その原資(荷物・食料)が足りずに四苦八苦するも、ダンジョンの魔物を食べながら強行軍で進んで行く。なんとも言えない独創的なストーリーです。ダンジョンにおいては緊張感や臨場感が重要だ、と私は様々なダンジョン作品を見てきましたが、緊張感や臨場感が”危険”だけで出来ていないことを痛感させられます。そうです、食事によるリアリティはとても強力な臨場感を形成します。食事をしている様がリアルであればリアルであるほど、絵や説明が疑似的な身体感覚として体験できるのです。ここに特化したのは、ダンジョン飯特有の”緊張感と臨場感”ですね。
アニメ化は原作が完結したタイミングとなり、2クールしっかりと使って原作8巻あたりまでをしっかりとアニメ化した素晴らしい出来でした。アニメから入った人も、原作が好きな人も、「ダンジョン飯」と言うタイトルにブレがなく、どこから入っても、”探索”と”調理”の独特な良さを味わえます。さらにアニメでは息遣いや音、キャラクター達の声による演技もリアリティに寄与し、ダンジョンを体験するのに新鮮なアプローチだと感じました。
改めてダンジョン紀行として、
・ダンジョンが世間で経済活動の中心になっていること。
これは最近のトレンドだなと感じるところです。また、物語の確信に迫っていくことで、
・ダンジョン自体に独自の運営体系があること。
も見て取れます。この2点は2020年代のダンジョンには欠かせない要素と言って良いでしょうね。
また、当作品『ダンジョン飯』は、ボードゲーマーにも馴染みがあると言えるでしょう。アークライトから販売されている『モンスターイーター ~ダンジョン飯ボードゲーム~』は以前ご紹介していますね。原作メインのライオスパーティはもとより、他のパーティも実装して迷宮探索は大変原作を大事にした良いボードゲーム化でした。
ただ原作の”探索”と”調理”の面白さを再現している作品ですが、個人的にはもっと”モンスターを現代風に調理する”と言う要素を、より面白おかしく感じる外伝的作品でも良かったなと思っています。例えば、プレイヤーはセンシとなって、キャラクター達の要望に応える”調理”をしなければならない。そんなボードゲームなどもやってみたかったなと思います。
【最強タンクの迷宮攻略】2024年1月-3月
原作は小説家になろうで2018年7月から連載。2019年にはスクエアエニックス母体の漫画アプリ、マンガUP!にてコミカライズ化。作者は木嶋隆太。連載開始当初は『体力9999のSSRスキル持ちタンク、勇者パーティーを追放される』と言うタイトルでしたが、漫画家・アニメ化などでタイトルは都度一部修正されています。タイトルの通り、なろう小説の中で一つの潮流を作っている「パーティ追放系」の一つとして始まったタイトルと言えるでしょう。
有用なタンク(敵の攻撃を一身に引き受ける役回り)であるにも関わらず、”敵を倒す”ことに貢献していないと勇者パーティーから追放されるのですが、結局タンクの特殊スキルなどを有効的に使い、目的となるダンジョンの秘宝を獲得。そして、ダンジョンを運営する側になっていき、世界の真理に迫っていく……と言う物語になっています。
小説家になろう作品で多い、実際の数値やスキルを前面に押し出しての物語構築です。まさしく”ゲームをプレイしている人を前提にしたような楽しさ”、これが強く出ています。逆に言えば、商業作品である前出の「ダンジョンの中のひと」や「ダンジョン飯」では、明確な数値やスキルなどで主人公たちの強さが描かれることは少ないです。これはゲームをモチーフとして世界観を構築しているのか、あるいはゲームプレイをなぞらえての体験構築なのか、系統としてハッキリ分けられるものと言えるでしょう。
当作品はゲームプレイをなぞらえての作品と言えます。”タンク”と言う役割を中心に物語に始まっており、電源ゲーム的な要素を強く押し出して、主人公のスキルや実際の数値を元に、実際のゲームプレイを想起させながらダンジョンでの探索や物語の進行していきます。
興味深いのが、物語が進むとダンジョンを運営する仕組みが中心になり、主人公がダンジョンマスターになることでしょう。ポイントを使ってダンジョンの中を改善していくのは、まさしくゲームのようです。
・ダンジョンが世間で経済活動の中心になっていること。
・ダンジョン自体に独自の運営体系があること。
2020年代のダンジョンについて、この2点は言うまでもないのかもしれませんね。
【俺だけ入れる隠しダンジョン】2021年1月-3月
原作は2017年から小説家になろうにて連載されていました。2021年に
コミカライズを経てWeb掲載は削除されてしまいましたが、書籍としてシリーズが続刊され、アニメ化にまで至っています。作者は瀬戸メグル。連載開始当初は『俺だけ入れる隠しダンジョン 〜こっそり鍛えて世界最強〜』と言う副題が付記され、物語の特徴を表しています。
自分を活かせず不運な巡り合わせにいた主人公が、「隠しダンジョン」と呼ばれる秘境に入り、規格外の”スキル”を手に入れます。そこから一気に人生を好転させていく一発逆転系の物語です。スキルや数値が物語の展開に登場するので、前出「最強タンクの迷宮攻略」と同様に、ゲームプレイを想起させる楽しさの強い作品です。
基本的には【隠しダンジョン】は物語の要所に登場して主人公のパワーアップに一役買っていきます。そこでは戦いではなく、力を授けてくれる師匠や先駆者が登場する。基本的には良い想いをする主人公のハーレム型ストーリーでした。普通のダンジョンの扱いもありますが、全体的にはダンジョンの主張がある物語では無いかもしれません。強くなった主人公が如何に気持ちよく幸運を享受するかをなぞる物語と言えるでしょう。
ただダンジョン紀行としては、それだけ強力な『富をもたらす存在』として描かれていることが注目に値します。『報酬』はダンジョンを探索するのに重要な要素です。障害があってこその報酬ではありますが、読者に辛い現実があるのならば、気軽に報酬が受け取れる物語は十分意味はあるでしょう。それに対して、違和感なく報酬を授ける装置として『ダンジョン』が挙げられたのは、重要なポイントとして覚えておける点と言えるでしょう。
【例えばラストダンジョンの前の村の少年が序盤の街で暮らすような物語】2021年1月-3月
原作は2016年の第8回GA文庫大賞受賞作。全15巻。作者はサトウとシオ。
ライトノベル系のGA文庫大賞で、第1回受賞作は『這いよれ!ニャル子さん』など、近年のエンターテイメント系ライトノベルとして始まっている。
タイトルの通り電源ゲームをモチーフとしており、常識外れの主人公が周囲の人々にツッコみを入れられながら活躍する物語になっています。ダンジョンも物語上に様々登場しますが、英雄譚が一度完了した後の世界の為、電源ゲームで定番と言われるダンジョンはすでに世界に登場した後、再び語られる後日譚として描かれることが多いのが特徴でしょう。つまり、ゲームの定番や、ジャンルの定番をカウンター的に利用しているところが楽しさの核にある物語となっています。その為、ダンジョンの扱いもゲームの定番部分が見え隠れする描写がありつつ、主人公の活躍が描かれます。
少し短いですが、次へ行きましょう。
【ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているのだろうか】2015年~
原作は2013年からGA文庫より連載されている小説。派生作品含め43巻刊行されている大作。作者は大森藤ノ。原作もさることながら、アニメも4シーズンに断続的に制作され、単発OVA、劇場版と多岐に渡って展開されている人気作品です。ご存じの方も多くいらっしゃることと思います。”ダンジョンアニメ”を語る際、この作品を欠かすことはできないでしょう。アニメ化タイミングも、紹介した中で一番古い作品になります。
神が与えた力を使い、ダンジョンを中心とした街でモンスターを倒すことが日常となる世界。ダンジョン内で助けられた女性剣士に一目惚れした少年が成長していく物語です。”神に与えられた恩恵”と言うスキルのようなものは説明がなされますが、数値などが明示される訳ではありません。主人公の少年が修行するパートや、精神的な葛藤を乗り越えていくことで強くなる様が描かれています。
物語のいたる場面で、生死のひりつきを感じるような厳しさが描かれることが多く、見所でもある激しい戦闘も、後半シーズンになるほど絶望感を覚える演出がなされるのも特徴です。ダンジョンにおける”緊張感”と”臨場感”は、映像演出として細かく描写されるアニメ作品とも言えるでしょう。言うなれば、”危険”を中心とした古き良きダンジョンです。
最後に、今回大半の作品に見られたダンジョン観に、以下2点がありました。
・ダンジョンが世間で経済活動の中心になっていること。
・ダンジョン自体に独自の運営体系があること。
この作品はダンジョン中心の世界ですが、『独自の運営体系』については、物語序盤・中盤で語られません。原作では最終的に深く追究していく設定になりますが、そこに対して主人公が運営側に回ると言うこともありませんし、現在2024年から見れば10年近く前の作品と言うところを鑑みれば、要素が無いことも頷けます。この辺りに”ダンジョンの流行り”などが見えるのは面白い点と言えそうです。
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