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ゲーマー歴38年のダンジョン紀行#45 『ハック&スラッシュの雄に学ぶ』

▼超人気ゲームのボードゲーム版。

 2月、短いですね。年が明けて”ダンジョン崩し”を遊んでいたと思ったら、気付いたら”Slay the spire”をやっています。
 
2017年にPCで発表されたデッキ構築型カードゲーム風の、ダンジョンハック&スラッシュゲームです。明快な敵とのやり取りや、脳が痺れる攻防、手札やデッキ構築がままならない一喜一憂を含めて、瞬く間にコンシューマーやスマホアプリに展開、販売されました。
 それから7年……ついに2024年、クラウドファンディングを通してボードゲーム版がお披露目となりました。(実際のページ

 原作物で気になることと言えば、
・どのように落とし込んだのか?
・デジタル版との違いは?
・”Slay the spire”になっているのか?
 このあたりが気になるのではないでしょうか。

 今日はこのあたりに触れながら、両者の根底に流れる楽しさを言語化し、それがハック&スラッシュの楽しさ――ひいては、ダンジョンの楽しさにどう繋がっているかに迫りたいと思います。


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 私の記事は『ダンジョン』を焦点にコラムを書かせてもらっております。マガジンの中でも異色のコラムとして、楽しんでもらえたら幸いです。



▼B125F:数字スケールを変えながら…

"6"と"1"の違い

 デジタル版からボードゲーム版を触って一番違うところは、最大4人で遊べる点です。デジタル版は1人用であり、どこまで行っても自分自身との戦いでした。しかし、ボードゲーム版は複数人集まって”Slay the spire”を体験するのです。ここが”Slay the spire”をどのように再現するのかの要になってきます。
 私が肝と感じたのが、ボードゲーム版を開いてすぐに気づく点、
「アタックもブロックも”1”」
 では無いでしょうか。

 原作となるデジタル版の基本攻撃力は”6”、ディフェンスの基本防御力は”5”です。ですが、ボードゲーム版ではどちらも”1”に統一されます。
 ボードゲームに親しんでいる皆様なら、この改修についてはプレイヤーの処理負担軽減の為に行われて当然と感じられるでしょう。しかし、この”1”のやり取りの変更が、デジタル版とボードゲーム版を繋ぐ大きな役割を果たしていると感じます。

 その前にまず、簡単に”Slay the spire”をおさらいします。("Slay the spire"に親しんでいる方は、この段落を飛ばして大丈夫です)
 ドミニオン同様山札10枚のデッキから始まり、手札は枚ターン5枚引かれ、ターンが終わったら全て捨て札となり、次も5枚引く。引けなかったら捨て札をシャッフルして山札を作り直し、手札5枚になるようにする。これを繰り返します。
 カードにはそれぞれコストが記されており、1ターンの内に使えるのはそのコストが支払える所持エナジーの限りです。コストは基本1で、支払うエナジーは毎ターン3に補充されます。つまり、5枚引いた内の3枚をやりくりするのが基本となります。
 デッキの内訳は攻撃カードが6枚、防御カードが4枚の構成で始まり、初手で攻撃5枚引くこともあれば、防御4攻撃1になることも。敵からの大技がくるのに防御カードがなくやられてしまった……と言うことは誰もが経験するところでしょう。
 なんとか敵を倒すと、報酬として新しいカードの取得が発生します。3枚の内から1枚を選び、より強いカードをデッキに組み込んでさらなる強敵を打ち破る……ただし、デッキはどんどん膨らんでいくので初期のカードがどんどんネックになるので注意をしよう。現在HPを回復できる休憩所も数は少なく、どれだけダメージを食らわないようにしながら、道中良い報酬を獲得し、デッキを完成させていく。
 この繰り返しこそ"Slay the spire"です。

 デジタル版で攻撃が6:防御が5で少しだけ防御の数値が低い理由は、
・攻撃の数値が高いことで、敵を倒しきる魅力を誘引する。
・敵の攻撃が、少しでもプレイヤーに届くよう調整されている。
などが考えられます。
 
HPがじりじり削られていき、判断を間違ったらやられてしまうと言う”緊張感”の表現です。

 では、ボードゲーム版でその”緊張感”は不要なのか?
 もちろん違います。別の要素で表現されているのです。
 それが”敵の数”です。

 デジタル版とボードゲーム版の一番の違いにプレイ人数の違いを挙げましたが、同時に”敵の数”も大きく違います。

戦闘時の全体図:プレイヤーコマの横に敵グループが並ぶ。

 画像の通り、プレイヤーコマの横に敵カードが並んでいます。プレイヤーからはすべての敵を攻撃対象に取れます。例えば、サイレンス(緑)のプレイヤーが上から一段目のキノコビーストを攻撃することも、一番下のラージスライムを攻撃することもできます。(デジタル版での”全体攻撃”は、選んだ横一列に効果を発揮するものとなっている)
 一方、攻撃を受ける場合、敵の単体攻撃(剣のマーク)は横にいるプレイヤーのみが受けて、敵からの”全体攻撃”(炎のマーク)はプレイヤー全員がダメージを食らいます。
 これによって何が起きるか。
 デジタル版では自分の手札と敵の行動に合わせて最適な手札を切れば良かったのですが、ボードゲーム版では全員の手札状況を踏まえて、敵全体の行動を見なければならなくなったのです。
 こうなると、
・味方同士の手札効果の擦り合わせ。
・敵がまたいで攻撃してくる場合を加えたブロック計算。
など、デジタル版では考えなかった新しい要素が追加されます。

 このやり取りが、”6”から”1”に変更した肝だと感じます。
 デジタル版で生じていた計算の面白さは、以下のように変化します。

・攻撃の数値が高いことで、敵を倒しきる魅力を誘引する。
 ↓
・手数の多さ(プレイヤーの数)で、敵を減らすことが優先される。

・敵の攻撃が、少しでもプレイヤーに届くよう調整されている。
 ↓
・敵の手数で、少しでもプレイヤーに攻撃が届くよう調整されている。

 数式で表すのであれば、6×4が4×6へ、5×4が4×5へなど、その前と後ろの項が挿げ替えられた形で、"Slay the spire"らしい攻防が行われている。そのように表していると言えます。

 このようにして、”Slay the spire”のデジタル版とボードゲーム版のゲーム体験は近しい感覚を得るよう仕組まれていると考えられます。


▼B126F:デジタル管理とアナログ管理の大きな違い

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