衆議院議員選挙と同時に最高裁裁判官に対する国民審査が実施 6人の裁判官が対象 過去には夫婦別姓「合憲」「違憲」の判断で罷免率に違い
10月27日に投開票が行われる衆議院議員選挙と同時に最高裁裁判官に対する国民審査が実施される。今回の国民審査の対象となる裁判官は6名(1)。
特筆すべき点として、今回、15年ぶりに最高裁長官が審査対象に含まれている。
投票方法は投票用紙(うぐいす色)に記載されている裁判官の氏名のうち、辞めさせたいと思う裁判官の氏名の該当欄に「×」を記入。何も記入しない場合は信任したことになる。「×」以外の記号を書くと、その投票は無効となる(2)。
そして今回のの国民審査から、海外に住んでいる人向けの在外投票や、船の上での洋上投票が可能となった(3)。2022年5月の最高裁判決で在外投票ができないのは違憲との判断が下され、同年11月に最高裁判所裁判官国民審査法の一部改正がなされた。
国民審査は、「憲法の番人」とも呼ばれる最高裁裁判官の適格性を国民が直接評価する重要な制度(4)。国民審査には司法の独立性を保ちつつ、民主的なチェック機能を持たせる目的がある。投票の判断材料として、裁判官の経歴や過去の判決などを参考にすることができる。
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6人の裁判官が対象に
国民審査の対象となっている最高裁裁判官は6人。
6人のうち、最高裁長官でもある今崎幸彦氏は冤罪(えんざい)が疑われる「名張毒ぶどう酒事件」の第10次再審請求審特別抗告審で、再審を認めない多数意見を支持。
また同性パートナーへの犯罪被害者給付金支給に関する訴訟で、「同性パートナーは犯給法の『犯罪被害者の配偶者』に該当しない」との反対意見を示す。
トランスジェンダー女性のトイレ使用制限に関する裁判では、使用制限を「違法」とする判決を下すも、補足意見ではトランスジェンダーの人々の権利や社会的課題について言及し、職場での配慮の必要性を強調。
今回の審査対象6人のうち、平木氏、石兼氏、中村氏の3人はいずれも2024年度に就任。最高裁の裁判官として活動した期間は1カ月〜7カ月程度であり、関わった裁判もそう多くはない。
最高裁全体としては、トランスジェンダーの性別変更手術要件を違憲とする判断や、旧優生保護法を違憲とする判断など、近年重要な憲法判断を下している。
一方で、安保法制に関する訴訟では憲法判断を示さずに訴えを却下するなど、憲法判断に消極的な姿勢を示す場面もあったことも指摘されている。
過去には夫婦別姓「合憲」「違憲」の判断で罷免率に違い
過去の国民審査では、夫婦別姓に関する裁判官の判断が罷免率に影響を与えた。
2021年の第25回国民審査では、11名の裁判官が審査対象で、そのうち7名が夫婦同姓を定める民法規定の合憲・違憲判断に関与。合憲判断を下した4名の裁判官の罷免率は7.24%〜7.82%であり、違憲意見を述べた3名の裁判官の罷免率は6.67%〜6.84%。
判断に関与しなかった裁判官の罷免率は5.92%〜6.20%で、合憲判断を下した裁判官の罷免率が最も高く、次いで違憲意見を述べた裁判官、判断に関与しなかった裁判官の順に低くなっている。
特に、合憲判断を下した裁判官では、深山卓也氏が罷免率7.85%(449万0554票)で最多、次いで林道晴氏が7.72%、岡村和美氏が7.29%、長嶺安政氏が7.27%。また、都市部では地方と比べて、合憲判断を下した裁判官の罷免要求が多く見られた。
歴代最高の罷免率は、1972年の第9回国民審査での下田武三判事の15.17%。彼は駐米大使時代に「沖縄の核付き返還が現実的」と発言し、社会党をはじめとする野党が組織的に罷免運動を行った。
最高裁判所は、長官1人と判事14人の計15人の裁判官で構成され、日本国憲法によって定められた司法の最高機関としての役割を果たす。
司法権の独立性は、三権分立の原則に基づいており、立法権や行政権からの干渉を受けずに公正な裁判を行うことを保証する。
世界でも珍しい国民審査
日本の最高裁判所裁判官に対する国民審査制度は、世界的にも珍しい直接審査の仕組みだ。
この制度は、第二次世界大戦後、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の提案により導入(5)。その背景には、戦前の全体主義への反省、司法の独立強化、そして国民による司法監視機能の確立があった。
制度設計は、アメリカのミズーリ州の制度を参考にしている(6)。ミズーリ州では、州知事が諮問委員会の推薦リストに基づいて裁判官を任命し、その後、住民による審査を受ける方式。これを基に、日本独自の国民審査制度が設計された。
この制度は、司法の独立を保ちながら、国民によるチェック機能を持たせる重要な仕組みですが、課題もある。これまで罷免された裁判官が1人もいないことや、裁判官に関する情報不足から、判断が難しい点が指摘されている。また、白紙投票が信任とみなされる点も問題視されている。
一方で、アメリカ連邦最高裁判所には国民審査制度がなく、他国でも多くの場合、立法部や行政部が任命に関与する間接的な方法が採用されている。
日本の国民審査制度は、司法の独立性と民主的コントロールのバランスを取ろうとする独特の試みであり、世界的に見ても珍しい直接審査の仕組みとなっている。
(1) NHK NEWS WEB「最高裁判所裁判官の「国民審査」きょう告示 6人が対象」2024年10月15日、https://www3.nhk.or.jp/news/html/20241015/k10014609501000.html
(2) NHK NEWS WEB、2024年10月15日
(3) NHK NEWS WEB、2024年10月15日
(4) フロントラインプレス「なぜ「国民審査」は重要か?「憲法の番人」を辞めさせる権利を国民に、対象6人の顔ぶれは」JBpress、2024年10月22日、https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/83870
(5) 太田理英子「衆院選と同時なのに影薄い「国民審査」 最高裁裁判官を「クビ」にできる、世界でも珍しい制度を生かすには」東京新聞、2024年10月14日、https://www.tokyo-np.co.jp/article/360247
(6) 太田理英子、2024年10月14日