米大統領選まであとわずか 資金力ではハリス氏がリード 一方、トランプとイーロン・マスク、露プーチン大統領との蜜月ぶりが暴かれる ウクライナ戦争の行方不透明
米大統領選まで残り2週間ちょっと。
バイデン大統領は、7月に高齢を理由に大統領選から撤退を表明。その後、トランプ氏が数ヶ月にわたり全国的な支持率で優位に立っていたが、最近の調査では、カマラ・ハリス氏との接戦状態に(1)。
選挙結果を左右する激戦州は以下の7州(括弧内は選挙人の人数)
現時点でハリス氏はミシガンとウィスコンシンで僅差のリードを保っている、他の州では互角の戦いが続く(2)。
接戦が予想される中で、11月5日の投票日当日に結果が判明する可能性は低いと見られている。激戦州での郵便投票の集計に時間がかかることや、新しい集計規則による混乱が予想されているため。再集計や法廷闘争に発展する可能性も指摘されている。
2020年の選挙では、主要メディアが当選確定報道を行うまでに4日かかった。今回も、数日から1ヶ月以上結果が不透明な状況が続く可能性が(3)。
一方で、トランプ氏を支持するイーロン・マスク氏はその支持を隠さず、トランプ氏も当選した場合にマスク氏を閣僚や大統領顧問に起用する可能性を示唆(4)。また、最近ではトランプ氏とロシアのプーチン大統領との親密な関係が問題視。
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資金力ではハリス氏がリード
米大統領選挙においては、資金力が重要な要素となっている。
今回の選挙では、民主党のカマラ・ハリス陣営が資金面で優位に立っている。8月の選挙資金集めでは、ハリス陣営が3億6100万ドル(約513億円)を集め、トランプ陣営の3倍近くに達した(5)。
8月末時点の手元資金は、ハリス陣営が4億400万ドル(約575億円)、トランプ陣営が2億9500万ドル(約420億円)となっている(6)。
トランプ・ハリス両陣営とも広告支出を増やしており、特にハリス陣営の支出が目立つハリス陣営の9月の広告支出額は1億5200万ドルで、8月から21%増加した。一方、トランプ陣営の9月の広告支出額は6300万ドルで、ハリス陣営の半分以下となっている(7)。
両陣営ともに、残り2カ月を切ったところで接戦州に資金を集中投下(8)。ハリス陣営は、ノースカロライナやネバダなどの激戦州に巨額の資金を投入している(9)。民主党は激戦7州全てにおいて支出面で優勢な立場に立つ。
資金力が必ずしも選挙結果を左右するわけではないものの、一定の影響力があると考えられている(10)。
イーロン・マスク トランプ氏に接近
一方、7月のペンシルベニア州におけるトランプ氏暗殺未遂事件後、イーロン・マスクはトランプ氏への支持を正式に表明。それ以降、両者の関係は急速に接近している。
マスク氏は「アメリカPAC」という特別政治活動委員会(スーパーPAC)を設立し、トランプ氏の選挙運動を資金面で大きく支援(11)。マスク氏は今年7月〜9月の3ヶ月間で約7500万ドル(約112億円)を献金した。また激戦州での有権者動員活動や戸別訪問などを主に担当している。
マスクは単なる資金提供者にとどまらず、選挙運動にも直接参加。10月5日には、ペンシルベニア州バトラーでの選挙集会に登壇した。マスク氏は現在でもトランプ氏と週に数回会話を交わすほど親密な関係であり、自身のSNSプラットフォーム「X」を活用した支持を呼びかけている。
イーロン・マスクがトランプを支持する理由の一つとして、多様性、公平性、包括性(DEI)に対する批判的な姿勢が挙げられる。マスク氏は近年、DEIを鋭く批判。DEIを「プロパガンダの言葉」と呼び、「DEIは死ぬべきだ(DEI must DIE)」とXで発言した(12)。
マスク氏のこうした立場は、トランプ氏の支持基盤と共鳴する部分が多く、両者の政治的な親和性を示している。
今なお続くプーチンとトランプとの蜜月ぶり 今後のウクライナ戦争の動向不透明
またここにきて、にわかに注目を集めているのがトランプ氏と露プーチン大統領との蜜月ぶりだ。
ボブ・ウッドワード氏の新著『戦争』によると、トランプ前大統領は大統領退任後もプーチン大統領と秘密裏に接触を続けていたという(13)。具体的には、トランプ氏が退任後にプーチン氏と7回にわたって電話で会話を交わし、2024年にはマー・ア・ラーゴの自宅で側近を退出させて「プライベートな電話」をしたと報告(14)。
さらに、トランプ氏はウクライナへの軍事支援に反対する立場を取っており、NATOの同盟国がウクライナ支援の「公平な分担」をしていないと主張(15)。トランプ氏は、大統領に再選された場合、24時間以内にウクライナ戦争を終結させると公言しているが、これはウクライナにロシアへの降伏を強いることを示唆しているとの見方もある(16)。
トランプ氏の行動は、バイデン政権の対ロシア政策と明らかに矛盾する。バイデン政権がロシアに対して強硬な姿勢を取る一方で、トランプ氏はより融和的なアプローチを示唆する。
またトランプによる非公式な外交チャンネルの使用は、アメリカの外交プロセスの透明性を損なう可能性がある。私人となったトランプ氏がプーチン氏と機密情報を共有する可能性があり、国家安全保障上のリスクとなり得るからだ。
(1) BBC NEWS JAPN「【米大統領選2024】 世論調査の動きはどうなっているのか」2024年10月14日、https://www.bbc.com/japanese/articles/cn9l07zwdv8o
(2) 前田和馬「米大統領選の結果はいつ判明するか? ~接戦が予想されるなか、不透明な状況が長引くリスク~」第一生命経済研究所、2024年10月7日、https://www.dlri.co.jp/report/macro/381523.html
(3) 前田和馬、2024年10月7日
(4) 読売新聞オンライン「トランプ氏、大統領当選なら「イーロン・マスク氏を閣僚に」…EV購入者への税額控除は廃止検討」2024年8月20日、https://www.yomiuri.co.jp/world/uspresident/20240820-OYT1T50051/
(5)秋山信一「資金集めではハリス氏が優位に 手持ち資金は双方で計1000億円」毎日新聞、2024年9月8日、https://mainichi.jp/articles/20240907/k00/00m/030/265000c
(6)秋山信一、2024年9月8日
(7) Bill Allison「ハリス氏、選挙支出でトランプ氏を圧倒-1日当たり7億円の差」Bloomberg、2024年9月24日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-09-23/SK9M4YT0G1KW00
(8) 秋山信一、2024年9月8日
(9) Bill Allison、2024年9月8日
(10) 前田和馬「徹底解剖!アメリカ大統領選2024(6)~選挙に必要なお金~」第一生命経済研究所、2024年5月2日、https://www.dlri.co.jp/report/macro/333802.html
(11) Alison Durkee「イーロン・マスクが「累計112億円」をトランプ陣営に献金、提出書類で判明」Forbes、Yahoo!ニュース、2024年10月17日、https://news.yahoo.co.jp/articles/6ab939571d905000bd124a80245206f181f53680
(12) Dana Hull「マスク氏、多様性・公平性・包括性は「プロパガンダの言葉」」Bloomberg、2023年12月16日、https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2023-12-16/S5QOWOT0AFB400
(13) Michael Hirsh「What a New Book’s Explosive Revelations Tell Us About Biden, Trump, and Putin」FP、2024年10月9日、https://foreignpolicy.com/2024/10/09/woodward-war-biden-putin-nuclear-use-trump-russia-logan-act/
(14) Fred Kaplan「War StoriesBob Woodward’s Latest Book Tells the Story of America’s Declining Leverage in the World」SLATE、2024年10月15日、https://slate.com/news-and-politics/2024/10/bob-woodward-new-book-war-joe-biden-donald-trump-ukraine-russia-middle-east.html
(15) Katherine Gypson「Biden, Trump hold different views on key foreign policy issues」VOA、2024年4月8日、https://www.voanews.com/a/biden-trump-on-key-foreign-policy-issues-/7561392.html
(16) Michael Hirsh、2024年10月9日、https://foreignpolicy.com/2024/10/09/woodward-war-biden-putin-nuclear-use-trump-russia-logan-act/