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小児医療がひっ迫 「ヘルパンギーナ」「RSウイルス感染症」 日本における小児医療の現状にも問題が

 各地で小児医療がひっ迫している。乳幼児かかかりやすい「ヘルパンギーナ」の流行警報が首都圏各地で出されるなど、ウイルス性感染症の患者が増えている。

  あるいは、熱やせきなど風邪のような症状がでる「RSウイルス感染症」の幼ない子どもが、症状が悪化して入院する事例が増え、たとえば千葉市の中核病院では小児科の病床稼働率は9割にまで達した(1)。

  本来、幼い子どもたちは”自然と”、だいたい1歳ごろまでに身近な感染症に罹患することで、さまざまな免疫を獲得していく。

  しかし、コロナ禍で、こうした感染症に罹患したことがなく、免疫をあまり持っていない子どもが多くなり、そして感染対策が緩和された今、子どもが感染しやすい感染症が拡大しているのでは、と指摘されている(2)。

  東京都医師会は小児医療がひっ迫する中、発熱から2時間以内だと検査結果が正確に出ないため、医療機関への受診は「発熱から6~8時間経過後」にするよう呼びかけた(3)。

  医師会は、緊急に受診する必要がない場合として、

 「食欲がある」
「水分が取れている」
「機嫌がいい」
「元気よく遊べている」

 といった例を挙げる。一方、緊急で受診すべき目安として、

生後3カ月未満の乳幼児
「38度以上の熱がある」
 
より月齢が多い乳幼児
「顔色が悪くてぐったりしている」
「ぐずりがひどい」
「元気がなく昼間も眠ってばかりいる」
「水分を受け付けない」
「半日以上尿が出ない」
「嘔吐や下痢を繰り返す」
「せき込みがひどく息も絶え絶え」

 などの例を挙げた(4)。

 


ヘルパンギーナ

 

 小児科ひっ迫の第一の理由は「ヘルパンギーナ」(夏風邪)の流行だ。

  ヘルパンギーナは発熱と口の中の粘膜にみられる水疱性の発疹を特徴とし、その大多数はエンテロウイルスやコクサッキーウイルスの感染によるもの。

 毎年5月頃から流行し始め、6~7月がピークとなる。感染する年齢は4歳以下がほとんどで、1歳代がもっとも多い(5)。

  発熱は2~4日間程度で解熱する。口腔内の疼痛のため不機嫌や哺乳障害、経口摂取不良を起こし、乳児では脱水症をきたすことも。

 発熱時に熱性痙攣を起こしたり、無菌性髄膜炎を合併するケースもありますが、ほとんどは予後良好。

  症状が強い急性期にもっともウイルスが排泄され感染力が強く、回復後にも2~4週間の長期にわたって便からウイルスが検出されることがある。

  ヘルパンギーナに感染した場合、しかし直接的な特効薬はなく対処療法として、口内炎(口の中にできた腫瘍)に対して痛みを和らげるために鎮痛解熱薬を処方してもらえたり、粘膜保護剤の軟膏などが処方されるケースが。

  ヘルパンギーナに感染すると、のどの痛みでなかなか水分が接種しにくくなったり、食欲がなくなるため、脱水症状を防ぐために、水分をとることを十分に意識し、以下のような、噛まずに飲み込まれる食品が推奨される。

ゼリーやプリン
アイス
豆腐
冷めたおかゆ

  ヘルパンギーナに感染しても、はしかやインフルエンザのような一定の明確な保育園への出席停止期間というものは存在しない。つまり、登園・登校については、本人の状態により決められることになる。

  目安として、全身の症状は良くなれれば登園・登校は可能で、ヘルパンギーナに感染後、症状が回復して、普段通りの食事ができて、おおよそ数日から1週間が一般的だ。

 RSウイルス感染症

 

 ひっ迫のもう一つの理由として、RSウイルス感染症の蔓延が挙げられる。

  RSウイルス感染症は、RSウイルスの感染による呼吸器の感染症。何度も感染と発病を繰り返すが、生後1歳までに半数以上が、2歳までにほぼ100%の乳幼児が感染するとされる(6)。

  だいたい、9月ごろから流行を繰り返し、初夏までに拡大が続くとされていたが、近年では夏ごろから流行が始まるようになった(7)。

  非常に感染力が強く、幼稚園や保育園などの施設内感染に注意が必要だ。症状としては、発熱、鼻水などの症状が数日続く。

  多くは軽症で済むものの、咳がひどくなる、「ゼーゼー、ヒューヒュー」という喘鳴を伴った呼吸困難が出るなどの症状が出現した場合は、細気管支炎、肺炎へと進展することがあり注意が必要だ。

 潜伏期間は2~8日、典型的には4~6日。

  初めて感染する乳幼児の約7割は、数日のうちに軽快するが、約3割は咳が悪化し、喘鳴、呼吸困難症状などが出現。

  早産児や生後24ヶ月以下で心臓や肺に基礎疾患がある、神経・筋疾患や免疫不全の基礎疾患を有する感染者の場合、重症化するリスクが高まることがあり注意が必要だ。

 重篤な合併症として注意すべきものには、無呼吸発作、急性脳症等がある(8)。

  RSウイルスに対しても、有効な抗ウイルス剤がなく対症治療が中心となる。重症化した場合には、酸素投与、補液(点滴)、呼吸管理が行われることが。

  ただ、RSウイルスの場合、成人にも注意が必要だ。

  成人がRSウイルスに感染した場合、かぜのような症状であることが多いことから、RSウイルス感染者であると気付かないことがある。

 したがって、咳等の呼吸器症状がある場合は、可能な限り0歳~1歳児との接触を避けることが乳幼児の発症予防に繋がる。

  さらにRSウイルスは高齢者においても重症の下気道炎を起こす原因となることが知られており、特に介護施設内などでの集団発生が問題となる場合がある(9)。

日本における小児医療の現状にも問題が


  小児科のひっ迫は、日本における小児医療の現状にも問題がある。日本の子ども(15歳未満)は2021年4月1日現在、40年連続で減少し、出生数とともに過去最少となった。

  他方で、社会の「少ない子どもを大切に育てたい」というニーズが強まる一方、小児救急医療の問題や小児科医の地域偏在といった医師不足についての問題は解決していないのが現状だ(10)。

  日本ではかつて、休日や夜間の小児救急医療の受診が急増し、社会問題となった。

 そのため、医学部の定員を増やすなどの対策を取り、日本小児科学会認定の小児科専門医の数は2000年の1万4,156 人から2021年9月は1万6,375人まで増加した。

  しかしながら、小児の高度救命救急医療を担当する小児科医はまだまだ数が少なく、時間外勤務が多く過酷な労働状況となっている。

  さらに、小児科が担っている新生児医療も基本的には集中治療室で行う救急医療であるものの、新生児医療の領域は極端に医師が足りない状況が続く(11)。

 また小児科医が集中するのは大都市近郊で、都道府県単位では人口当たりの小児科医師数が全国平均を大きく下回る地域が多い。

  医学部に進学する女性は増えているなか、しかし、女性医師の増加が小児科医の過重労働を生む大きな要因の一つにもなっているという。

 小児科専門医制度運営委員会の高橋尚人医師(東京大学医学部附属病院小児・新生児集中治療部教授)は時事通信の取材に対し、

 「小児科は女性が選択しやすい診療科で、以前から希望する女性が多かったのですが、最近の女性医師の増加に伴い、小児科医の女性の割合がさらに高くなってきています。特に20代では女性が小児科医全体の半数近くを占めています。

 女性の小児科医が増えること自体は大変うれしいことなのですが、女性は結婚、妊娠、出産、育児といったライフイベントの時期はフルタイムでの勤務が難しくなります。

 小児科医全体の数は増えてはいても、小児科医全体の勤務時間は増えず、フルタイムの医師に負担がかかっているというのが実情なのです」
 

(12)

と語っている。


(1) 金子ひとみ「感染症流行 “RSウイルス”重症化で小児科病床ひっ迫 千葉」NHK千葉放送局、2023年7月3日、https://www.nhk.or.jp/shutoken/chiba/article/014/06/

(2)NHK NEWS おはよう日本「子どもたちに何が?呼吸器の感染症が急拡大」NHK、2023年6月12日、https://www.nhk.jp/p/ohayou/ts/QLP4RZ8ZY3/blog/bl/pzvl7wDPqn/bp/pkyz1r4zE0/

(3)FNNプライムオンライン「「受診は発熱から6~8時間後に」小児医療ひっ迫で呼びかけ 東京都医師会」Yahoo!ニュース、2023年7月11日、https://news.yahoo.co.jp/articles/6298ac07ba560a59fc7cfda29eefe2620c4880ec

(4)FNNプライムオンライン、2023年7月11日

(5)国立成育医療研究センター「ヘルパンギーナ(夏風邪)

(6)SARAYA「RSウイルス感染症とは」https://family.saraya.com/kansen/rs/

(7)SARAYA

(8)SARAYA

(9)SARAYA

(10)時事メディカル「少子化で需要高まる小児医療~女医がカギ握る働き方改革~」2021年12月14日、https://medical.jiji.com/column4/89

(11)時事メディカル、2021年12月14日

(12)時事メディカル、2021年12月14日

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