竜とそばかすの姫 感想
ネタバレを含みます。映画鑑賞後読むことをお勧めします。以下感想です。
まえがき?みたいなもの
細田監督作品過去一「エグい」描写があったと思います。映画「若おかみは小学生!」並のPTSD、虐待、ネット世界での誹謗中傷。書きたいことはなかなかまとまりません。なので、視点ごとに振り返っていこうと思います。
舞台設定について。
田舎の閉塞感というものが、好きです。自分がその空間に押し込まれたらひとたまりもないのかも知れませんが、映画のスクリーンの中に収まる小さな村は、完成された空間のように思えました。映像で可視化されると、緑も相俟って綺麗に見えます。橋の下の川の色の美しさといったら。トンネルにはなんとなく郷愁を感じます。世界中と繋がることのできる「U」という空間と、まさしく「辺境」と形容されるすずの現実世界との対比であることが示されているような。往年の映像で主張されるような問題は、この場所には見られません。過疎問題や対人関係の亀裂(すずが仲良くしている5人の女性たち、地元の和気藹々といった食堂、問題があるのはすずとすずの父親の関係だけに思えます)が見られないので、そこは安心して見ていられました。この田舎の閉塞感とともに、ベルがアンベイルされてすずが歌う場面では、前述の5人とすずの友達が集まり、一体感が生まれています。余談ですが、場所が高知と明かされるまでは、高知線のことを水戸線だと思っていました。すずの高校は水戸一校だと。全然違いました。
すずと父親の関係について。
最初の方ですずがバスに乗るシーン。バスはもうすぐ運行を終了することが示されています。浮かない表情のすず。この表情の理由は、疎遠になっている父親に、駅まで送ってもらうよう頼まなければいけなくなる、からだと思いました。娘の「いらない」「大丈夫だから」に「そっか」という言葉を返し続ける父親でも、すずが東京に向かうシーンで、激励の言葉をかけています。役所さんの低く優しい声とそれを読んでいるすずが少しの間、静止画のように映し出される場面。バスの窓ガラスに反射する車のライトが変わっているのとは別に、すずの目元に涙が出てきているように見えるのは気のせいでしょうか。映画を見たその日の夜に書いているのですが、記憶が曖昧になってきています。早く書かねば。涙目になっていたのは私の方でした。娘を、家族を信じてその言葉を掛けるのがどんなに難しいことか。妻と同じような行動に出ている娘のことを、彼はどう思っているのでしょうか、そんなことを劇場の中で考えていると、涙が自然に出ていました。最後、二人の関係が修復されて本当に良かったと思います。カツオのたたき、美味しいですよね。あれ大好きです。本編は夏ですが、5月ごろが旬かな? 氷で締めて食べるのが一番美味しいです。
映像について。
どんどんアートワークが進歩しているな、と思います。まるで現実のよう。作中何度となく空に浮かぶ雲がカットして映し出されますが、本当に、サマーウォーズの時より、バケモノの子の時より、格段に現実に近づいている気がします。いや、そうです。Uの世界はCGを使っているのでしょうか。私は竜がベルとともにジャスティンたちから逃げるシーンで、ガラスが竜の足によって叩き割られる場面に、思わず声をあげてしまいました。ポリゴンで表現されるかと思った仮想世界で、物質の崩壊は現実よりも派手に、想像よりもずっと荒々しくなっていました。ガラスの破片一個一個の光の反射具合が、すごかったです。戦闘シーンは状況を目で追うのがやっとでした。
歌について。
サマーウォーズ同様、冒頭はUの説明からでした。そこからベルの歌が披露されます。大きめのスクリーンで見たからか、重低音は心臓まで響いてきました。歌声の美しさ、音質が上等であること、魂が震えました。初っ端から涙目になりました。その後もベルの美しい歌声が聞こえ、感動的でした。終盤、すずが竜に向けて歌っていた歌。すずは、もう会うことのできないすずの母親に向けて歌っているようにも聞こえました。ペギースーが「ベル、歌え!」と叫び、自らも声をあげて歌うシーン。アンベイルされたすずの姿を見て、「私と同じ」。彼女にもUで歌を歌う理由があるということなのでしょうか。丁寧なキャラクター描写だと思います。すずの歌に感動して泣いているキャラクターの顔は、一人一人違う泣き方に見えました。これはサマーウォーズの時からですが、千差万別のキャラクターを生み出す、造形の引き出しの多さに驚いています。
キャラクターたち(現実)での恋愛模様について。
一押しはルカちゃんとカミシン。U内でのアズの姿、二人とも可愛いです。互いを応援し合う二人。最初、中庭で楽器を吹くルカちゃんがカミシンのことをちらっと見ていたのは、伏線だったのですね。駅でのやりとり、微妙な間の開け方が高校生っぽくて可愛い。しのぶとすずについて。こちらはあまり表面化されていないように感じました。最後のセリフは、すずの赤面からして、二人の関係は恋人になる、という肯定的な方向ではあるのでしょうが。アンベイルして歌うことを提案する場面でも、幼なじみとしての意見のように聞こえます。なんとなく、二人は髪型が似ているような気がします。特に前髪。毛の分け方。真ん中にちょびっと毛がある部分とか。すずと竜(の正体)について。私はオタクなので、大画面に男女2人の顔が映し出されると、「いけっ!そこだ!キスしろ!」と叫び出したい衝動に駆られます。2人は「大好きだよ」と伝え合っていながら、そうしませんでした。少し残念に思いますが、二人はお互いがお互いにとってヒーローだったのでしょう。以下、他のキャラクター等々について、少し。ひろかちゃんがいいキャラですね、物理(?)の先生が好きなのかな? 可愛い。彼女を含めた5人組がとても良い感じです。内向的に見えるすずがカミシンと緊張せずに話せる理由が少し気になります。カミシンが最後あんなふうに役立つなんて、思っても見ませんでした。彼もまた、良いポジションのキャラクターです。
物語のリアリティについて。
五感をインターネットに預け、その中で活動できる。今の世界もそれに近づきあると思います。少し違うかもしれませんが、Vtuberとか。前述のキャラクターたちの恋愛模様も、リアルな高校生らしさがあると思いました(主観)。すずがしのぶとの関係を誤解され、戦争ゲーム風にひろかに状況を説明されるシーン。かなり好きです。その後、誤解の解き方も、ゲーム的に表現されています。女子の層の説明がかなりリアルです。よくわかっていらっしゃる。(私はあのゲーム、カタンに見えたのですが、三国志的なやつなのでしょうか?)そして、竜の正体とその弟、父親。父親の言い草はいかにも、といった感じ。東京都が対応を見送るというのも、かなり現実的です。竜の正体がすずに言い放ったセリフ。消費されてゆく「助けて」という言葉。何度相談しても、変わらない状況。彼らにとっては、この現実こそが悪夢だったのでしょう。だから竜はUの世界では強くいられたし、弟くんは自由に動き回れるクリオネのような姿でした。すずが父親に立ちはだかるシーン。血が出て、かなり痛々しい。しかし、目には二人を守る覚悟が。あのように気圧されて大の男が倒れることがリアルとは呼べないのかもしれません。しかし、物語としては、相応しい結末でした。
最後に
「竜とそばかすの姫」には、今までの細田監督作品の要素がいくつか引き継がれていると思います。まず、U内のクジラは言うまでもなくサマーウォーズの守り神のクジラでしょう。映画の始まり方も、サマーウォーズを踏襲しているようです。バケモノの子からは、父親という要素が。すずの父親とすずの関係性は、バケモノの子の蓮とその父に見られるものに類似している気がします。また、関係性は同じとは言えませんが、竜とその父親の関係性。要素の一つとしてやはり「父親」があったように思えました。ここからはかなりこじつけですが、カミシンがボートから上がった時の川岸のシーン。時をかける少女の「未来で待ってる」も河川敷でした。今思いついたのはこのくらい。思い出したら追加します。竜の戦闘記録で、負けが3つしかないこと。中断されたのは、父親のせいでしょう。あと、弟に負けてるんですね。弟くん、つよ。伏線だったのでしょう。他にもあったかなぁ、と思い出しながら、今日一日、あと少しの時間ですが、過ごしたいと思います。
終わり!
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