見出し画像

名称未設定の夢『Untitled ( )』台本

 名称未設定の夢『Untitled ( )』

鋏瞼桔梗(きょうけん ききょう)・・・倉里晴
凪津間眼月(なぎつま まなつき)[アマチュア劇作家]・・・金内健樹
想葉酉夕(そうば ゆうゆう)[Webメディア編集者]・・・相根優貴
卵源医師(らんげん)[心理療法士]・・・中沢志保
異戸長治(いど ちょうじ)・・・釜口恵太
括弧未名(かこ みな)・・・加藤美菜



【Untitled #0 – Name Your Price】(開場中〜開演)

 おぐセンター2F
 2Fの入り口部分で白衣(的な何か)を着た鋏瞼桔梗と卵源が受付・案内をしている
 パジャマ姿の括弧未名も受付・案内(・会場内レイアウト)をしている
 来場した人からお金を徴収する
 予め予約フォームに入力してもらった金額(¥0~∞)を払ってもらう
 ※Radiohead『In Rainbows』参照
 ※ちゃんと「〇〇様。xxxx円になります」と言う
 予約無しできた人からは当日料金¥3,000を払ってもらう
 会場内には、パジャマ姿の凪津間眼月と想葉酉夕が座らされている
 開演時間になったら桔梗が前説・諸注意を行う
 諸注意が始まろうというところで、未名は別室へそそくさとはける
 ♪:Mercury Rev – The Dark Is Rising(『All Is Dream』収録)

 [前説・諸注意](メモを読みながらでよい)
・「皆様、本日はお越しいただきありがとうございます。ご予約頂いた方が揃ってきましたので、そろそろ始めさせて頂こうと思います」
・「今回のグループワークは概ね80分前後を予定しています」
・「途中、外へ出る必要がある場合は、お越しいただいた階段を使って、ご自由に入退室して頂いて大丈夫です。もし、体調不良などで助けが必要な場合は、遠慮せず私たちにお申し付けください」
・「本日は、心理療法士の卵源先生(指す)の監修のもと、私、鋏瞼桔梗(指す)が、初めて進行を勤めさせていただきます。至らない部分もあるかとは思いますが、何卒よろしくお願いいたします」
・「あ、それと・・・今回、各種制作をしてくれたのが・・・(未名を探す)あれ、どこ行ったんだろう・・・?(卵源に聞く感じ)」
・卵源「さっき別室に・・」 - 桔梗「そうですか・・・」
・「最後に、皆様お持ちのスマートフォンの電源を切るか、機内モードへの設定をお願いします。この後行う内容の妨げになる可能性がありますので、念の為・・・」
 ♪:F.O.

【Untitled #1 – Italian Voyage】

桔梗 「では・・・始めましょうか」

 桔梗、準備を始める
 パジャマ姿で目隠しとヘッドホンをした凪津間眼月と想葉酉夕が座らされている

桔梗 「この方たちには、皆さんが入ってくる少し前から眠ってもらっています。・・・というよりも、眠っている、或いは起きている、その両方の状態にいるっていう方が正確ですかね。今この方たちは、私たちが見ている現実とは少し違う現実を生きています。夢と現実の狭間・・・というとちょっとありきたりな言葉すぎますけど、その境界が曖昧な状態に生きています。・・・ちょっとわかりにくいですかね?(笑)でも皆さんも経験あるんじゃないでしょうか?夢の終わりに現実での音や感触が夢の中に介入してくる事とか、夢から覚めてまだ夢の記憶が半分鮮明に残っている、”あぁ、これを書き起こさなきゃ、何かで残さなきゃ・・・”、そう思うんだけど、その内容を何て言語化したらいいのかがわからない・・・そうこうしているうちに眠気が勝ってまた眠りに落ちてしまう・・・というこの時間すらまだ眠りの中だった・・・事とか、そんな時間が」

 桔梗、音響へ行くとマイクを手に取る

桔梗 「これから、彼らに順番に語りかけます。マイクを通した私の声は彼らのヘッドホンにも届きます。ただし、チャンネルを切り替えることで、どちらか一方にだけ聞こえるようにしてあります。もう片方のヘッドホンからは逆位相の打ち消し音が出てノイズキャンセリングされるようになっているので、私の声も、周囲の音も、何も聞こえません。・・・それじゃあ、卵源先生、お願いします」

 卵源、ミキサーを操作し、酉夕を指す
 桔梗、マイクでまずは酉夕に語りかける

桔梗 「もしもし、聞こえますか?もしもーし・・・」
酉夕 「・・・ん、んん・・・」
桔梗 「こちらは今、現実です。あなたは今、どこにいますか?」
酉夕 「現実・・・んん・・・おはようございます・・・」
桔梗 「いいんですよ、まだ寝ていても。でも、私の声はしっかり聞いていてくださいね。あなたは今どこにいますか?今この瞬間までどこにいましたか?何が見えますか?何が見えていましたか?」
酉夕 「えーーっと・・・おぉぉ・・・水・・・の街、水の都・・・水路、石畳の・・・えーーーっと・・・」
桔梗 「それはディズニーシー?」
酉夕 「似てるけど違う・・・別に火山とかは見えない。でもゴンドラが浮かんでて、水上バスが・・・」
桔梗 「本物のイタリア?」
酉夕 「んん・・・ヴェネツィア。多分ヴェネツィア。本家の・・・行った事ないから本家かはわからないけど・・・ヴェネツィア、ヴェネツィアかなー・・・」

 桔梗、卵源に目配せ
 卵源、音響スイッチを押す
 ♪:ヴェネツィアの音(波や海鳥や鐘楼の音)が流れる

桔梗 「こちらは今、現実です。現実のヴェネツィアですよ。今からゴンドラに乗りましょう。さあ、起き上がって、手を取って」

 桔梗、酉夕の手を取り、立たせ、向かい合わせで歩いて誘導する

桔梗 「そう、ゆっくり・・・はい、じゃあゴンドラに乗ります。揺れるから注意してください。さあ、そのまま」

 卵源、折り畳みの小型の椅子を用意する
 桔梗、酉夕をゴンドラの座席に座らせるように小型の椅子に座らせる

酉夕 「アリーデヴェルチ・・・」
桔梗 「アリーデヴェルチは”さようなら”の挨拶ですよ」
酉夕 「そうでしたぁ・・・」
桔梗 「まだお名前をお聞きしていませんでしたね。あなたのお名前は何ですか?」
酉夕 「さ、s・・・想葉酉夕(そうばゆうゆう)・・・です」
桔梗 「想葉酉夕さん。もうすぐで出発です。もうすぐ。それまで心地よい波に揺られて少し待っていてくださいね。リラァ〜ックス・・・(ウィスパーボイスで)」

 桔梗、酉夕から少し遠ざかると、卵源に目配せ
 卵源、ミキサーを操作し、眼月を指す
 桔梗、マイクで眼月に語りかける

桔梗 「もしもし、聞こえますか?もしもーし・・・」
眼月 「・・・はい、もしもしぃーーー・・・」
桔梗 「こちらは今、現実です。・・・先にお名前からお聞ききしましょうか。あなたのお名前は何ですか?」
眼月 「凪津間・・・?眼月(なぎつままなつき)、です。ハイ」
桔梗 「凪津間眼月さん。あなたは今どこにいますか?今この瞬間までどこにいましたか?何が見えますか?何が見えていましたか?」
眼月 「うーーん・・・えっと・・・、(耳を澄ます)水・・・の・・・なんだァ、あの」
桔梗 「水の、都?」
眼月 「あぁーーー・・・じゃなく、水飲・・・み場の・・・」
桔梗 「水飲み場の泉?街中にあるファウンテン?」
眼月 「ではないです。屋外じゃなくて・・・水飲み場・・・そう、ドリンクバー」
桔梗 「ファミリーレストランの?」
眼月 「大体ファミレスですよね・・・ドリンクバーって」
桔梗 「ということは・・・宗教画も見えてくる。見えてきましたよね?」

 桔梗、卵源に何か耳打ち
 卵源、急いで音響PCで何か打ち込んで流す
 ♪:ヴェネツィアの音 F.O.
 ♪:サイゼリヤでよく流れてるカンツォーネ(Fa festa l'ammore)

桔梗 「あなたは今ファミリーレストランにいる、そして宗教画が見える・・・一緒にドリンクバーに向かいましょう。さあ、起き上がって、手を取って」

 桔梗、眼月の手を取り、立たせ、向かい合わせで歩いて誘導する

桔梗 「あなたはドリンクバーへ行きたい。でもまずはドリンクバーを注文しないと。その前に席に着かないと・・・。ほら、あなたは今どこにいますか?」
眼月 「サ・・・」
桔梗 「サ・・・?」

 卵源、折り畳みの小型の椅子を酉夕の向かいに用意する
 桔梗、眼月を小型の椅子の上へ誘導

眼月 「サ・・・」
桔梗 「サ!ん、にぃ、いち、で座りましょうか。一緒に。あなたはもう向かい合わせのボックスシートまで来ている・・・。さあ、ここはどこ?座りますよ?・・・サイ---!」
眼月 「---サイゼリヤ!!!!!!!」

 桔梗、眼月を一気に座らせる
 眼月、ビクンビクンしている

桔梗 「そう、あなたはサイゼリヤにいる。ほら、ドリンクバーを注文しないと」
眼月 「・・・AA01!!??」
桔梗 「それは一つ昔の辛味チキンの注文番号。今は1401。ドリンクバーは5101」
眼月 「はい・・・」

 桔梗、卵源に目配せ
 卵源、ミキサーを操作し、酉夕と眼月二人を指す(二人にヘッドホンが繋がる)

桔梗 「もしもし、聞こえますか?こちらは今、現実です。あなた達は・・・今、どこにいるんでしたっけ?」
酉夕 「ヴェネツィ---(ア)」
眼月 「(酉夕に被せて)サイゼリヤ・・・?」
桔梗 「そう。どちらも正解。あなた達が座っているのはゴンドラの客席で、ファミリーレストランのボックスシート。船出を待ちながら、QR注文の接続の遅さにやきもきしている。(耳元に言う感じで)はやく辛味チキンを頼みたいのにねぇ〜〜〜遅いねぇ・・・」

 桔梗、卵源に目配せ
 卵源、音響PCを操作
 ♪:サイゼリヤでよく流れているカンツォーネにヴェネツィアの音が重なる

桔梗 「(マイク離して)この二人は、お互いの声が聞こえていませんでした。でも、今、二人の夢はお互いで干渉を起こし合っています。ヴェネツィアとサイゼリヤ・・・イタリアの水の都に浮かぶ小舟の上に座る彼女と、日本各所に偏在するイタリアンレストランのボックスシートに座る彼。このイメージ・・・いえ、この二人にとってはイメージでなくリアルでもありますね。この夢の像はなぜ似通ったのか?夢の干渉はなぜ起きたのか。それはですね・・・」

 桔梗、上の方を見て、人差し指で指す

桔梗 「集合夢無意識・・・夢はある種、中央集権的です。そのデイドリーム・ネイション・・・国家体制をきちんと体系化する。そして監視する。その暴走を未然に防ぐ。これが私の研究の大きな目的でもあります。・・・今のように、個々人同士での夢共有は最小単位での”団結”として、私は希望と捉えています。たとえ集合夢無意識から分配された夢同士の共有だったとしても、結局は使い方です。本当に恐ろしい事にならないためには・・・」
酉夕「・・・あのぉーわたしのゴンドラはいつ出発するんでしょうか?」

 桔梗、マイクへ話す

桔梗 「・・・最後にもう一つだけ。今見ている夢の名前を教えて下さい。・・・じゃあ、今見ている夢にタイトルをつけてみて・・・」
眼月 「えっ」
酉夕 「う〜ん・・・」

 酉夕・眼月、考えている様子

酉夕 「アリ・・・アリーデヴェルチ」
桔梗 「うん。うん。いい名前」
酉夕 「ふふ(笑)」
眼月 「えっと・・・」
桔梗 「(眼月に)あなたのは?」
眼月 「サィ・・・サイゼ・・・」
桔梗 「うん」
眼月 「あ、いや・・・特にないです」
桔梗 「・・・それは・・・たとえば、”無題”ってことですか?」
眼月 「・・・いーや、”無題”だと”無題”ってタイトルになるじゃないですか。そんな気取った感じでもなくて。もっとこう・・・吃音で言葉がうまく出てこない感じみたいに、言葉にしづらいものこそが夢なんじゃないですかね。あ、でも僕自身吃音ではないので吃音を体でちゃんと理解しないまま言ってますけど。そこはすいませんね。てか大体この夢、要素が少なすぎるし。わざわざタイトルつけるまでもないんじゃないすか?今んとこサイゼリヤの席に座っただけだし」

 桔梗、怪訝な顔をする
 卵源、切り上げさせようとする

卵源 「桔梗さん。そろそろ」
桔梗 「・・・ありがとうございました。じゃあ、卵源先生、後はよろしくお願いします。アフターケアと・・・次の、準備をよろしくお願いします」
卵源 「はい」
桔梗「では、私は別室に行ってきますから。(客に)皆さんも、小休憩の後に、また」

 桔梗、ひとり部屋を出て2F別室へ入る
 間

【Untitled #2 – Crisis Actors】

 眼月、耳をすます

眼月 「・・・・・・行った?」
卵源 「はい」
酉夕 「もうこれ(アイマスク)取って大丈夫ですか?」
卵源 「大丈夫です」

 酉夕・眼月、苦笑しながらアイマスクとヘッドホンを外す

ここから先は

32,757字

¥ 800

期間限定!Amazon Payで支払うと抽選で
Amazonギフトカード5,000円分が当たる

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?