盛夏火 ときわ座演劇『熱病夢見舞い』台本
『熱病夢見舞い』
【登場人物】
常盤七々ノ花(ときわななのか)[アマチュア俳優]・・・新山志保
凪津間眼月(なぎつままなつき)[アマチュア劇作家]・・・金内健樹
失河紗矢(うせかわさや)[巫女の末裔]・・・増山紗弓
想葉酉夕(そうばゆうゆう)[編集者]・・・相根優貴
拓海学(たくみまなぶ)[ライター]・・・小野カズマ(劇団「地蔵中毒」)
ソフォンとも子(そふぉんともこ)・・・三葉虫マーチ(劇団「地蔵中毒」)
[ときわ座の歴史上の人々]
青柳茂(初代当主、サダの夫)[故人]
青柳サダ(初代当主、茂の妻)[故人]
青柳正一(長男、生後2歳で亡くなる)[故人]
青柳秀信(次男、二代目当主)[故人]
歌川喜代子(長女、旧姓・青柳)
歌川恵子(喜代子の娘、現ときわ座オーナー)
ヒロヒコ(恵子の夫、現ときわ座オーナー)
寿司職人(ときわ鮨時代の板前、客の女と駆け落ちをして姿を消す)
乳母と思われる人物(昭和15年の青柳家の家族写真に写っていた女性)
[その他の人物]
穂村VCR(ほむらびでお)[オカルトライター]・・・金田陸
【ときわ座平面図】
【はじめに. ときわ/Tokiwa】(開場中〜開演)
真夏のときわ座
壁にはときわ座の歴史的な写真や年表や家系図や間取り図が貼ってある
想葉酉夕が入口横のテーブルで来場者の受付をしている
拓海学は来場者の案内をしている
土間に椅子が並べてあり来場者はそこに座る
席には当日パンフやチラシの他に、ときわ座の歴史年表や家系図の載った用紙もある
凪津間眼月は1F〜2Fをウロウロしている
学は眼月に2Fの部屋は開けないようにと何度か言う
酉夕と学は来場者リストを見てどのくらい集まったかを確かめる
客が大体集まり、開始時間になったら学が音楽をかけ諸注意を行う
♪:Cocteau Twins – Frou-frou Foxes in Midsummer Fires
[学、縁側に立ち客に説明と諸注意を始める](メモを読んでもよい)
・学「皆様お越し頂きありがとうございます。私はですね、カルチャー系WEBサイト・マチルダのライターの拓海学(たくみまなぶ)と申します。舞台に特化したステージマチルダと、お笑いに特化したお笑いマチルダを担当しております。本日はステージマチルダが開催する初のイベントとなります。ときわ座様の全面協力のもと実現した企画となっております。始める前にですね、いくつか諸注意を」
・学「一応、クーラーを設置してはいるんですけど、物凄く暑くなると思いますので、各自水分補給や暑さ対策は行って下さい」
・学「トイレはこちらになります。行きたい方は今のうちにお願いします」
・学「本日の催しはですね・・・近年では音楽ライブや展示、そして演劇の公演でも頻繁に使われるようになり、劇場としても大人気になりながらも、惜しくも今年 2024 年いっぱいで閉館が決まってしまったここ、高田馬場ときわ座を偲ぶ会と言うことで、その長い歴史に想いをはせていただければと思います」
・学「大体xx分くらいを予定しています」
♪:F.O.
学、音楽をFOさせ、あたりを見回し、準備が良いか確かめる
【第一章. 熱病/Netsu-Byou】
学 「じゃあまずはときわ座の歴史の紹介・・・と行きたいところなんですが、実際にね、この場所を使って演劇公演を打った事のある文化人の声、という事でこちらの方をお呼びしたいと思います。アマチュア劇作家の凪津間眼月(なぎつままなつき)さんです〜」
眼月、2Fから降りてくる
眼月 「どうも・・・凪津間眼月です」
学 「凪津間さんはここ、ときわ座で頻繁に演劇公演をされている常連なんですよね」
眼月 「いや、演劇公演はまだしたことないですね」
学 「あれ!?前使ったって言ってませんでしたっけ・・・?」
眼月 「あ、怪談会ならやった事ありますけど・・・」
学 「あれ。・・・あれ?なるほど・・・。あら?」
学、小走りで入り口の方にいる酉夕のところへ
眼月、置いてけぼりにされる
学 「(小声で)演劇でときわ座でやった人って・・・」
酉夕 「(小声で、資料を見ながら)えっと、ですから、こちらの方がNGだったので」
学 「(小声で)合ってる?」
酉夕 「(小声で、資料を示しながら)こちらの、代わりに・・・」
学 「(小声で)あー、オッケーオッケー」
学、戻ってくる
学 「はい。凪津間さんはここときわ座で怪談会をやられた事があると!」
眼月 「おい、なんか今大丈夫だったか・・・?」
学 「はい。全然!」
眼月 「なんかの代わりにとか言ってなかった・・・?」
学 「ここで演劇やった事ある別の方々にもね、オファーしたみたいなんですけど皆さん忙しかったみたいで!ほら、お盆ですし」
眼月 「あ、それで暇だった俺が呼ばれたって事・・・か?」
学 「またまた、そんな。お忙しい中来て頂いてありがとうございます!ねー本当に。・・・どうですか、ときわ座に対する思い入れなどは。今年いっぱいで閉館が決まってしまいましたけど」
眼月 「そっすねー・・・非常に残念ですね。こんないい場所が・・・」
学 「怪談会をね、定期開催されてたんですもんね」
眼月 「いや、閉館するって聞いたから半日だけ使わせてもらっただけですけどね。仲間内でやるやつに・・・」
学 「なるほど・・・(深いブレスとともに言う)」
眼月 「はい。悲しいですね、なくなっちゃうなんて」
学 「ねー。一回だけだとしてもねー、寂しいですよねー」
間、お互い箸にも棒にもかからない気まずい沈黙
学 「・・・例えば、もし仮にこのときわ座を使ってもし演劇を作れてたとしたら、どんなものを作りたかったとかってありますか?」
眼月 「例えばで!?いや〜〜〜どうっすかね。非常に、大変魅力的な場所ではあると思うんですが・・・あ!三階建てで、なおかつそこんとこが吹き抜けみたくなってるっていうのもあって、結構面白い間取りではあるんで・・・間取りを使った・・・ホラーっていうか、ミステリー?みたいなのやってみたい、やってみたかった、です、ね。館・・・屋敷ミステリ。ま、そんな話が思いついていればでしたけど・・・」
学 「思いつてればねー、よかったですよねー・・・」
眼月 「はい。本当にー・・・」
間
学 「さて、」
眼月 「おい、なあ!今日本当に俺ゲストで呼ばれて大丈夫だったのか!?なあ!?」
学 「はい!もちろん!引き続きね!一緒に楽しんで行きましょうね!さて、じゃあ早速、本編に参りましょうか!ときわ座の歴史のご紹介です。あ、じゃあ、想葉ちゃん、お願いします」
玄関あたりにいた想葉酉夕、縁側の方へ来る
酉夕はベレー帽を被っている(『まんが未知』の花澤香菜やハライチ岩井のイメージ)
眼月 「あ、こちらも同じステージマチルダの・・・」
学 「はい。編集担当ですね。あ、でも彼女はステージじゃなくて・・・」
酉夕 「想葉酉夕(そうばゆうゆう)です。音楽マチルダとコミックマチルダを担当しています」
眼月 「え!ステージマチルダ以外にも音楽とコミックがあったんですね」
学 「はい。僕がステージマチルダとお笑いマチルダの担当って事に一応なってて。で、編集の想葉ちゃんが音楽とコミックを受け持ってて・・・」
眼月 「(はさみこむように、客に)あ皆さん、マチルダっていうのはカルチャー系のWEBメディアですよ」
酉夕 「・・・まぁ全部で私たち二人しかいないんで結構そこらへんは曖昧ですけどね(微笑)」
眼月 「え!?二人!?そんなちっさい会社だったの!?」
酉夕 「はい。まぁ」
学 「まぁでもこれからどんどん大きくしていくつもりだよね?(酉夕に)」
酉夕 「ならまず、記事の公開をnoteじゃなくてちゃんと自社サイト作ってやりましょうよ」
学 「でもサーバー代がなぁ・・・」
酉夕 「そんくらい払ってくださいよ」
学 「有料記事がもっと売れれば払えるんだけどなぁ」
眼月 「noteだけでWEBメディア名乗ってんのか・・・」
学 「まぁまぁ・・・どんどん大規模に展開してくつもりなんで!そのためのとっかかりとして、演劇フレンドリーなときわ座さんのご協力のもと、初のイベントとしてこの会を開いたわけでもあるんですよ!」
眼月 「どおりで俺なんかが呼ばれるわけだ・・・」
学 「(おもに客に)さて、そんな僕らのような弱小メディアにも、高田馬場ときわ座の現オーナーご夫妻は非常にご好意にして頂き、格安で会場をご提供頂くとともに我々のインタビューにも快くお応えくださいました。今回の展示ではまさにそんなときわ座の、ここときわ座という場所の60年以上にも及ぶ歴史に想いをはせていただければと思います」
☆酉夕、資料を見ながら話す。レーザーポインタで壁の写真などを適宜指す
酉夕 「ここ、高田馬場ときわ座は現在「ときわ座」という名称で親しまれていますが、その名称はイベントスペースとして開業するにあたって2019年に現オーナーが付けたものであり、元は「ときわ座」という名前ではありませんでした。今日(こんにち)に至る長い歴史の元を辿るには、戦前の新潟県、先代オーナーの家系のお話から始めなくてはいけません」
眼月 「ついにときわ家の謎が明かされるわけですね!」
酉夕 「いえ、「ときわ」というのはあくまで屋号であって、オーナーの一族は「青柳家」です」
眼月 「え!知らなかった!」
学 「でしょー?インタビューのかいありましたよ」
酉夕 「時は昭和初期、西暦にすると1930~1940年代頃の事になります。新潟に住む青柳茂の元にサダが嫁入りし、夫婦となります」
酉夕、 レーザーポインタで客席壁の結婚写真を指す
酉夕 「あ、すみません。レーザーポインタを使いますので、目に入りそうになったら適宜避けたりして下さいね。もちろん私も気をつけますので」
眼月 「懐かしい。昔これ学校に持ってくるやつとかいて問題になりましたよね」
学 「目にわざとビーーって当てるんですよね(笑)」
酉夕 「(続ける)昭和13年、西暦だと1938年ですね。青柳茂・サダに 長男・正一が生まれます(ポインタで正一の写真を指す)。初の子供、それも男の子だったという事で二人は大変喜んだそうです」
学 「まぁね。これは、昭和初期となると、どうしても後取りだったり家の存続の事を考えて、男の子が生まれた方が喜ばれたっていうのはありますよね・・・」
眼月 「hmmmn...」
酉夕 「続けて昭和14年、西暦1939年。長女の喜代子が生まれます。この方が現ときわ座オーナーである恵子さんのお母様になります」
眼月 「ここから・・・ここから始まったんですね・・・!(あえて感慨深く)」
学 「なんか・・・エモい感じになってきますねェ!ウィヒヒ!」
酉夕 「・・・ですが翌年、長男の正一さんが2才の若さで突然亡くなってしまいます」
眼月 「えっ」
学 「・・・・・・まぁ、昔は乳幼児の突然死っていうのも、今以上にあまり珍しくはなかったんでしょうね・・・」
眼月 「にしても・・・」
酉夕 「青柳ご夫妻はそれは大変悲しんだそうです。前年に生まれた長女の喜代子の存在だけが心の支えだったとか。そんな中、太平洋戦争が今まさに始まろうとしている昭和16年---西暦1941年---次男の秀信さんが生まれます」
学 「おぉ」
酉夕 「お二人は、秀信さんに前の年に亡くなった正一さんの面影を重ね、まさに二人分ほどに愛情を注いだそうです」
眼月 「なるほど・・・ん?じゃあ長女の喜代子さんは一人分だけの愛情だったんすかね(笑)かわいそうに」
学 「ちょっと!いくらなんでもそんな言い方は無いでしょう・・・!」
眼月 「(舌を出す)」
酉夕 「もちろん、喜代子さんも秀信さんと同じくらい可愛がられて育ったそうです。戦時中にも関わらず、綺麗な洋服を着た喜代子さんの写真が沢山残されていました。・・・さて、戦争が終わり幾年か経ち、1950年代に入ると青柳家は新潟から東京・高田馬場に出てきて客商売を初めます」
酉夕、入り口を見て
酉夕 「あ、いらっしゃいませーー!」
眼月・学 「?」
酉夕、入り口の方へ小走りで行く
酉夕、ドアを開けて見回すが誰もいない
酉夕 「(学や客に)今誰か来てましたよね?」
学 「いやァー・・・?来てなかったと思うけど・・・」
酉夕、入り口で手を腰のあたりで上下する
酉夕 「??あれ・・・?今の人、なんか・・・やたら小さくありませんでした?」
学 「さぁ・・・見てないから」
酉夕、縁側に戻ってきながら振り返りつつ
酉夕 「おかしいな」
眼月 「盆だからね・・・!”誰か”が訪ねてきたのかもね(笑)」
学 「ちょっとー(笑)」
※この一連は、本当に劇外で予想外に起きたようなリアルさとぎこちなさで
酉夕 「どこまで話したかな、えっと・・・(資料を見る)あ。・・・戦争が終わり幾年か経ち、1950年代に入ると青柳家は新潟から東京・高田馬場に出てきて客商売を初めます」
眼月 「お、ついに・・・!この場所で・・・!」
酉夕 「いえ、まずは早稲田の方にあったマーケットで魚屋を始めます」
眼月 「魚屋!?意外!」
酉夕 「魚屋の後は駅の方で甘味処を営んだそうです。ラーメンとかも出してたみたいで」
学 「いやぁ、「歴史あり」ですね」
酉夕 「そして・・・昭和35年、西暦1960年。今のこの土地を買って、1階部分を店舗とした家を建て、「ときわ鮨」という寿司屋を開業します」
酉夕、ときわ鮨の写真にポインタ
眼月 「最初寿司屋だったんだ・・・!?めちゃくちゃ斜め上だわ!!ほら、表にまだ生花店の看板があるから、元花屋だってのはなんとなく知ってましたけど」
学 「僕も最初は寿司屋だって聞いた時はビックリしましたよ。今でも結構面影あるんですよ?ほら、床が排水できるようになってたりとか(土間の排水溝を指す)」
酉夕 「魚屋を営んでいた経験から、仕入れやネタ選びはできたのですが、握れる人がいなかったので、寿司職人さんを雇ってここの2階に住み込みにさせて、青柳ご夫妻と当時19才だった次男の秀信さんとで店を動かしていたそうです」
眼月 「なるほど」
学 「ここからですよね。屋号に「ときわ」を使うようになったのは」
酉夕 「そうですね。「常盤」には「永久に変わらない」という意味があって縁起がいいとされていて、戦後当時は「ときわ」という名前がよく付けられていたみたいですね」
眼月 「ふーん・・・。ときわ・・・何だ・・・ときわ---」
学 「---荘、とか、」
眼月 「あぁ〜!・・・あとは・・・ときわ・・・ときわ・・・ときわ!(軒先の道に見つける)ななのかーーー!!(手を振る)」
学・酉夕 「!?」
常盤七々ノ花がときわ座前の道に到着している
七々ノ花は建物2Fの方を見ている
眼月 「あ、俺が呼んだ、常盤七々ノ花(ときわななのか)です」
学 「・・・あー!よく一緒に演劇やっていらっしゃるっていう」
眼月 「そうです。まぁ演劇自体は最近は全然やってませんけど・・・。ななのか〜入ってきてくれ」
七々ノ花は1F眼月たちの方に反応しながらも2Fの方も気にしている
七々ノ花、中に入ってくる
七々ノ花はドンキホーテなどの袋を持っている
眼月 「(学らに)ほら、偶然にもときわ座と同じ名前なんですよ。ときわ座にも俺より遥かに何度も来てるし」
七々ノ花 「(学らに)あ、どうもー・・・これ。買ってきたやつ」
七々ノ花、袋を眼月に渡す
眼月 「お、Ni-Ce」
七々ノ花 「あっつ〜い・・・。すいません、ちょっと水道だけ借りますね」
七々ノ花、縁側に上がり奥の台所で手洗いうがいなど
学 「これは・・・なんすか?」
眼月 「ほら、偲ぶ会って言うからさ。それにお盆でしょ?だから、色々と買ってきてもらって。お清めのお酒とか。みんなで偲ぶためにさ」
学 「まぁ、偲ぶ会ではありますけど・・・静かでおごそかな会のつもりなんですよ。一応」
酉夕 「あ!花火だ!」
酉夕、袋の中から花火を見つける
眼月 「そう!夏だし」
学 「まあ夏ですけど・・・」
七々ノ花 「(台所から)あ、眼月ーー、あれ、ナスとキュウリのやつ。サイズわかんなかったからもう八百屋さんでいいサイズで作ってもらってきたから」
眼月、袋から茄子と胡瓜に足を付けた盆の精霊馬を取り出す
眼月 「お!いいじゃーん!」
眼月、精霊馬を縁側か土間横の台あたり(要検討)に飾る
眼月 「さぁ、出迎えよう、迎え火で!」
眼月、酉夕の持つ花火セットを受け取ろうとする
学、それを遮る
学 「こらこらこらぁ!まだ歴史の途中でしょうが!・・・それに室内で花火はだめでしょ。全部ね、終わったらね、あっちにある公園とかでやりましょうね」
眼月と酉夕、舌を出さないタイプのテヘペロ顔
七々ノ花、台所から縁側の方へ
学 「ぁ・・・本日のイベントを企画しましたステージマチルダの拓海学です。今日はよろしくお願いします」
酉夕 「同じく、音楽マチルダとコミックマチルダの想葉酉夕です。よろしくお願いします」
七々ノ花 「常盤七々ノ花です・・・。よろしくお願いします」
眼月 「ときわ座と同じ名前なんすよ。遠縁の親戚だったりして」
学 「ここの家族は「青柳さん」ですから」
眼月 「あ、そうだった」
七々ノ花 「(学らの名札(あれば)を見る)・・・えっと、マチルダっていうのは---」
眼月 「カルチャー系のWEBメディア、でいいんだよね?」
学 「はい。カルチャー総合系のWEBメディア・・・まぁCINRA・・・だとか、Spiceみたいなものを想像して頂けると」
七々ノ花 「え、凄いじゃん。良かったね。そんな凄いところからオファー来て(眼月に)」
眼月 「それが全然凄いところでも無かったんだよなァ・・・」
学 「(遮って)まぁまぁまぁまぁ・・・。これからのメディアですからね!アマチュア劇作家とアマチュアメディア同士って事で!今回は一緒に面白い事やりましょうよって事で!ね!さ、年表に戻りましょう」
七々ノ花、壁に貼ってあるときわ座の写真や年表を見る
七々ノ花 「あ、凄い・・・昔の写真だ。(色々見ながら)あ、へー。これ(を)今やってたんですか?」
酉夕 「はい。今が・・・ちょうどこの辺り。1960年、この場所で「ときわ鮨」を開業したところですね」
酉夕、ポインタで年表を指す
眼月 「元々寿司屋だったんだってさ、ここ」
七々ノ花 「へぇ〜」
酉夕 「魚屋の経験から仕入れを行い、住み込みで雇った寿司職人さんが握りをやっていた---というのは先程お伝えした通りですね。(歴史の説明に戻る)・・・当時の高田馬場には、神田川の向こうに大正製薬の会社があったり、曙橋の方には当時のフジテレビがあったりで、そのお客さんで連日繁盛したそうです」
酉夕、寿司屋が繁盛している写真を指す
眼月ら、それを見る
七々ノ花は座敷の方に座ってくつろぎながら聞いている
(自分用に買ったお菓子など食いながら、扇風機とか当たってるとなお良い)
酉夕 「ですが」
眼月 「ですが・・・?」
酉夕 「ときわ鮨開業から5年後の、昭和40年---1965年---当時住み込みで働いていて板前長をやっていた寿司職人が、客の女に惚れ込み、突然姿を消します」
眼月 「・・・駆け落ちみたいな感じ?」
酉夕 「はい。色々と不審な点はあったみたいなんですけど」
眼月 「ん?うん・・・?」
酉夕 「板前長の不在で寿司屋としての営業が難しくなり、翌年には雀荘「ときわ荘」に店を改めたそうですが、それも一年も続かず、1967年には表の看板にもある「ときわ生花店」に再度店を改めて、1989年に閉店・・・」
眼月 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってくれよ!不審な点があったって・・・え、その寿司職人が失踪した話は!?」
酉夕 「ここはメインの歴史からは少し外れちゃう部分なんですけど・・・話します・・・?」
眼月 「そこが一番聞きたい部分だよな!?なあ!?みんな!?」
眼月、客に同意を促す
♪:と、どこか遠くから、叫ぶ鳴き声のようなものがうっすらと聞こえてくる
学や酉夕、気づく
眼月、客の同意などなくとも
眼月 「ぜひ、聞かせてください!!」
学 「ちょっと・・・!静かにしてください」
眼月 「ありゃりゃ(大山版ドラえもんの言い方で)」
眼月ずっこける
眼月 「何何!?なんなのよ!意地悪?」
七々ノ花 「眼月!・・・静かに」
眼月 「・・・!?」
酉夕 「七々ノ花さんも聞こえました・・・?」
七々ノ花、ゆっくりうなずく
学 「言ってた通りだ・・・本当にこんな事あるんだ」
眼月 「何が!?(耳を澄ませる)何も聞こえないよ?」
学 「・・・いやね、ときわ座を使う人の間でも結構噂になってて、失礼を承知で今のオーナーにも伺ったんですけど・・・」
酉夕 「ここ最近、変な事がやたら多いと。今みたいに変な声が聞こえたりとか」
眼月 「まぁ・・・お盆だからね(苦笑)色々と帰ってきたりしてる・・・とか?」
学 「いや、お盆の時期とか関係なく、前からずっとで、特に今年に入ってからは異常なくらい増えてるみたいで」
酉夕 「なんか・・・猿?(笑)みたいな鳴き声がするとか」
眼月 「猿ぅーー!?(『さよなら人類』っぽく)」
学 「現オーナーなんかは、ここで寝ると必ず猿が出てくる悪夢を見るから、寝泊まりはしないようになったって言ってましたよ」
七々ノ花 「えっ、じゃあ・・・」
みんな振り返り七々ノ花を見る
七々ノ花 「・・・あ、すいません。自分の家みたくくつろいじゃってて。前にオーナーのご夫婦とここで酒盛りさせてもらった事があって・・・(笑)」
眼月 「え、いいなー。なんで俺を呼んでくれないんだよ」
七々ノ花 「その時に聞いた話なんだけど・・・ここで演劇公演やってた時って言ってたかな?始まる前にお客さんがそこのトイレ入ったんだって。そしたら、ドアを閉めたと思ったら、すぐ驚いて飛び出して来て」
酉夕 「あ、その話って・・・」
七々ノ花 「あ、知ってます?・・・なんか、トイレの小窓から何かが覗いてて、それと目が合った、って・・・」
眼月 「えっ!」
七々ノ花 「急いでその場にいる人何人かで確かめたけど、誰もいないし、そもそも人が通れるような隙間じゃなかったんだって」
酉夕 「それで、用心のために小窓にカーテンをつけるようになったんですよね」
七々ノ花 「そう」
眼月、トイレを開けて確認する
眼月 「ほんとだ、カーテン付いてる・・・」
七々ノ花 「その、覗いてた何かっていうのが、目が合ったのは一瞬だけだったらしいけど、毛むくじゃらな何かだった、とか」
眼月 「・・・が、猿?だったと?」
学 「・・・これは盆がどうこうの話じゃないですよね、やっぱり」
酉夕 「幽霊とかならまだわかりますけど・・・猿っていうのがなんか気持ち悪いですよね」
眼月、顎に手を当てて考えている
眼月 「(酉夕に)・・・あれ、この家が建ったのって何年でしたっけ?」
酉夕 「えーと、1960年ですね(年表を指す)」
眼月 「てことは、高度経済成長期真っ只中だったってわけだ?」
酉夕 「そうなりますね」
眼月 「・・・・・・わかった!!」
学 「何が?」
眼月 「このときわ座に現れる、奇妙な猿の怪異の真相だよ!・・・ほら、1年くらい前の水曜日のダウンタウンで、「Z世代に嘘の昭和のムチャクチャな当たり前を言ってもギリ信じ込ませられる説」ってあったろ?」
学 「ああ、ありましたね」
眼月 「あれで、「昭和初期には建物を建てる時にはまだ人柱を埋めていた」みたいな嘘の映像が流れたじゃん」
学 「あれめっちゃ面白かったですよね(笑)」
眼月 「そう。その時に伊集院光が機転を効かせたアドリブで、(伊集院のマネで)「まぁさすがに高度経済成長期くらいになるとね、人柱はやめて猿とかで代用してたみたいなんだけどね。でも、あれって、今考えると本当に猿だったのかなぁ、なんて言われてるけどね」って言ってたんだよ。それが本当だった、って事は考えられないか!?」
学 「つまり・・・」
眼月 「伊集院の説は、「人柱のしきたりが終わった後も、まだ人を使ってる事を猿と濁していた」っていう、バラエティの嘘にさらに嘘を重ねためちゃくちゃ高度な嘘なんだけど、その「猿を人柱にしていた」っていう部分・・・これが当たっちゃってたんだよ!だから、この家も壁とかを壊してみると中から猿の骨が出てくるんじゃないか!?」
学 「そんな事ありますかね!?」
酉夕 「でも、現オーナーがその鳴き声?を録音したのを専門家に効かせてみたらしいんですけど、少なくとも日本に生息するような猿の声とは違う可能性が高いって回答が得られたそうなんですよ」
眼月 「なんだそれ!?そもそもそんな国別にお猿さんの違いなんてあるのか?」
酉夕 「さあ・・・」
学 「でもまさか・・・今日イベント中に実際に変な事起こるなんて・・・。(客に)あ、皆さん。皆さんも今日もし何か変な事に気づいたりしたらすぐに教えてくださいね!」
学、間
学 「というか、皆さん暑さとか大丈夫ですか?」
酉夕 「ちゃんと冷えてますかね?」
酉夕、クーラーの様子を見にいく
ときわ座入り口にはクーラーが設置されている(※現在小型のもの2台確保済み)
☆学と酉夕は客の反応を伺って、適宜温度などを調整する
学 「ここね、天井が吹き抜けになってるからどうしても冷気が上の階に逃げちゃうんですよね」
酉夕 「・・・でも、ほら、あの方。失河(うせかわ)さんがいるから少しは上も涼しくなった方が良くないですか?」
学 「いや、でもほら、ずっと閉め切った部屋に篭りっきりで、準備があるから開けないでくれって・・・」
酉夕 「え〜・・・熱中症になっちゃいません?」
学 「だってそう言われたからさ・・・」
眼月 「ん?上の部屋に誰かいるの・・・?」
酉夕 「はい」
眼月 「何?・・・閉じこめた猿?」
学 「違いますよ。眼月さんと同じでゲスト枠みたいな」
七々ノ花 「あ・・・じゃあさっきいた人かな?」
眼月 「ん?」
七々ノ花 「さっき私がここ着いた時、2階の窓のところに人がいて」
酉夕 「あ、ならちゃんと涼みに出てるんですかね。良かった」
眼月 「俺がさっき2階いった時には少なくとも誰も見なかったけどな・・・。ちょっと・・・(動く)」
眼月、履物を履くと、一旦玄関から出て2Fの方を見て戻って来る
眼月 「やっぱり誰も居ないよ」
七々ノ花 「だからさっきは居たんだって。顔は隠れてよく見えなかったけど、窓辺にいい感じに佇んで。あのーほら、あれ読んでた。『ナウシカ』」
眼月 「ナウシカって・・・」
学 「風の?」
眼月 「谷の?」
七々ノ花 「そう。ナウシカ」
酉夕 「漫画版のナウシカって事ですかね?」
七々ノ花 「そうそう。あの大きいサイズの」
眼月 「漫画版ナウシカ読んでる人を見たって〜〜〜!?ますます嘘っぽいな。見間違いじゃないの?」
七々ノ花 「ハァ?なんで?」
眼月 「じゃあ逆にみんなに問いたいんだけど、漫画版ナウシカと・・・あと漫画版のAKIRA。あれってめちゃくちゃ本棚に置いてあるじゃん?全巻セットで」
学 「まぁ、はい。そりゃーねー。めちゃくちゃ見る光景ですよ」
眼月 「そう。でもさ・・・じゃあ実際にそのナウシカやAKIRAのコミックが読まれている状態をあんた達は見た事があるか!?」
全員、間
学 「あ・・・ま・・・確かに、なかなか見ない、というか実質あれってインテリアですもんね!?ビレバンでまとめて買って本棚を彩るためだけの・・・」
七々ノ花 「そんなわけないでしょ。あれだけ売れてるんだから・・・まあ買っても読まずに置いておく人は多いだろうけど、さすがに何割かの人は読んでるよ!」
眼月 「そういう事ではないんだ!かくいう俺も、昔なんかのタイミングで間違いなく読んだし内容も何となく覚えている。漫画版ナウシカも、AKIRAも。・・・あ、AKIRAは途中までだったか?あれ?どうだったっけ・・・?ま、いいや。ともかくだよ、自分が読んだ経験があるかどうかはともかく、インテリアとしてでなくページが開かれた状態のナウシカやAKIRAを見た事なんて人生通じてゼロに等しい!・・・昔のBS漫画夜話をYouTubeで見てたときに、岡田斗司夫とか夏目房之介が説明してるのを辛うじて目にしたか、してないか?くらいだ!・・・つまり、観測不可能なんだ!!この世に漫画版ナウシカと漫画版AKIRAが読まれている瞬間というのは存在しないんだよ!!」
学・七々ノ花 「・・・・・・」
酉夕 「・・・でも、とても鋭いご指摘ですね。私の担当してるコミックマチルダでも、「サブカルの本棚におけるAKIRAインテリア問題」については特集しようと思っていまして・・・」
酉夕、居間に置いてあった荷物から薄いアクリスタンドを取り出す
酉夕 「この「AKIRA全6巻背表紙アクリルスタンド」なんですけど。---これは試作品なんですが---これがあれば、AKIRAの本体を買わなくても壁や本棚に省スペースでAKIRA全巻が飾れるんですよ。講談社と大友克洋の許可が取れたらコミックマチルダのストアで販売しようかなって思ってて」
眼月 「・・・素晴らしい。是非AKIRAの次はナウシカも販売してください。そしていずれはジョジョ全巻のアクリルスタンドも」
酉夕 「あーでもジョジョは結構みんなちゃんと本棚から取って読みますからね〜・・・」
眼月 「あーそっかー」」
学 「(AKIRA背表紙アクリルスタンドを見て)やっぱかっこいいなァ〜。色が派手で」
七々ノ花 「(話を戻す)・・・まぁでも私はさっき絶対に見たけどね。漫画版ナウシカ読んでる人」
酉夕 「ちなみに、背表紙はどんな色だったかって覚えてますか?」
七々ノ花 「背表紙・・・どうだったかな・・・」
酉夕 「じゃあ---表紙に王蟲は写ってました?」
七々ノ花 「多分・・・写ってなかったと思う。人沢山いる表紙だったような・・・」
酉夕 「・・・なら多分最終巻の7巻ですね」
眼月 「・・・7巻か。漫画版ナウシカって最終巻だけはやたらと引用されがちだから、あながち他の巻に比べれば読んでる人が存在する可能性も少しは存在するかなぁ・・・?」
学 「・・・もう〜〜〜!じゃあ見にいけばいいじゃん!ナウシカあるか!2階に!ウダウダ言ってないでさぁ!」
眼月 「ティヒ」
学 「行きましょ行きましょ」
学を先頭に眼月も階段を上がる
眼月 「(2Fから)うわ!あっつ!上やっぱめっちゃ暑いな!!熱病にでもかかったような暑さだ!!」
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