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盛夏火 ドラマCD Vol.1『転町生』脚本(通常盤)

盛夏火 ドラマCD Vol.1『転町生』の脚本(通常盤)です。

☆こちらは脚本と当日パンフレットのみの購入ページです。

☆脚本と共に解説音声などの特典が盛り沢山なDX盤(¥1,000)もございます
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本編は全編無料配信しており、販売している脚本も序盤のみ試し読みができます。


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【当日パンフレット】

転町生当日パンフ-1
転町生当日パンフ-2
転町生当日パンフ-3
転町生当日パンフ-4


【脚本】

   『転町生』

チェ樹(金宇崔樹)---金内健樹
深田---マーライオン
中目要---鳥居トリィ
リーボ先生(茶々・リーヴォック)---中村ボリ
ユキナ伊藤---内藤ゆき
ヤニ(膠那帆梳)---三葉虫マーチ
神々上嶺---カネタガク

銭湯のアナウンス---中村ナツ子
銭湯の従業員---チャブー
銭湯の女性1---イトウ
銭湯の女性2---キムライヅミ
ファミマの店長---市川賢太郎(肉汁サイドストーリー)
ナレーション---新山志保

【0.アバンタイトル:32才の夏休み/32 Yrs Old Summer Vacation】@砧総合運動場外縁

 蝉の声
 自転車を漕ぐ音
 チェ樹の自転車を漕ぐ激しい息

チェ樹 「ハァ、ハァ、ハァ・・・この、永遠に続くかのような夏の中で、僕は、とりあえず・・・とりあえず・・・ぁ、えぇ、ぇ・・・ぉ、おd、」

 ♪:バスドラムとギターが激しい音楽(distがかった笛が入っていると良い)

ナレーション 「盛夏火 ドラマCD Vol.1『転町生』。このドラマCDは賃金体系を不明瞭にしてスタッフを使うなどせず、全て出演者で賄っており、出演者には固定額の出演料を支払っています」

 ♪:F.O.


【1.風なき熱波/Ghibli with No Winds】@砧総合運動場プール前

 蝉の声

深田 「(看板を読む)『世田谷区立総合運動場正門』えっと・・・ここで合ってるよな?」
チェ樹 「(遠くから)深田ーーー!深田ァーーー!!」
深田 「あ!チェ樹くーん!こっちこっちー!!」

 自転車のブレーキの音

チェ樹 「ハァ、ハァ・・・おい、どうなってんだよ?どこの入口も封鎖されてて運動公園全体を一周しちまったぞ・・・ハァ、ハァ・・・あっちい・・・早くプール入ろうぜ。なぁ深田、おい」
深田 「いや、僕も今着いてわかったところなんだけどさ。・・・ほら、これ見て」
チェ樹 「ん?」
深田 「『東京オリンピック大会時のアメリカ選手団キャンプ実施に伴うプール及び全施設利用休止のお知らせ』・・・」
チェ樹 「ハァ!?」
深田 「プールどころか、運動公園自体にも入れないみたいだよ、これ」
チェ樹 「!?・・・ぁぁぁ・・・どぅ・・・どぅなっちゃって(ンだょ)・・・」

 蝉の声が鳴り響く

チェ樹 「深田・・・おい、ふかたよう・・・」
深田 「あっつ〜い・・・(手で扇ぐ)ん?何?」
チェ樹 「(目を細める)あっちの・・・あそこのローソンよりもっと向こうのコンクリートの道の上あたりがやたらユラユラしてるのが見えるんだけどさ。深田よう、あそこには水があるって事かい?それとも暑さのせいで俺が幻覚見てるって事なのかな?」
深田 「・・・チェ樹くん、”逃げ水”って知ってる?」
チェ樹 「・・・知らねえよ」
深田 「風がなく晴れた暑い日にアスファルトの道路などで遠くに水があるように見える現象の事だよ」

 蝉の声が鳴り響く

深田 「あそこに見える柱時計では、時刻は午後2時・・・(スマホか腕時計を見る)実際の時刻からちょっとだけ遅れてるね。いずれにせよ今が丁度一番暑い時間帯だね」
チェ樹 「市民が・・・市民が市民プール使う権利さえ奪っていくのか、オリンピックは・・・」
深田 「世田谷だから区民プールだけどね(炭酸飲料を飲む音)」
チェ樹 「市民の健康的な生活はどうなるんだよ・・・魚が水の外に放置されたらどうなる?これじゃ、まるで・・・水槽の外の魚・・・まるで泳げない魚・・・」
深田 「とりあえず一旦そこのローソンに涼みに行く?」
チェ樹 「どうしてこうなった!どうしてこうなった!暑さでいよいよ気がおかしくなるぞ・・・このままだと俺は暑さのあまり『怒り』の時の森山未來みたいになっちまう・・・暑さでへたり込んだ道の丁度前にあった一軒家の中に入っていって・・・」
深田 「チェ樹くん、チェ樹くん。・・・最近このあたりでも通り魔事件があったからそのギャグは笑えない」
チェ樹 「あ、ああ・・・ごめん・・・どうかしてたよ。暑さと、まさに我が国の対米領土政策のせいで思考までもが『怒り』の森山未來みたいに・・・」
深田 「ん?・・・ぅわああぁおおお!!」
チェ樹 「なんだ!?どうした」
深田 「あれ!あれ見て!!」
チェ樹 「えっ?・・・うわっ!なんだあれ!?顔?」
深田 「めちゃくちゃでかいな・・・一瞬暑さで頭がおかしくなったのかと思ったよ・・・」
チェ樹 「気球・・・?アドバルーン?そういやアドバルーンって昭和にデパートが新装オープンする時にしか存在しないよね。深田見たことある?アドバルーン」
深田 「・・・いや、ない・・・かな・・・(空返事)」
チェ樹 「だよな!?思い出してみればお婆ちゃんの昔話でお目にかかった事があるくらいで、本物のアドバルーンって見た事ないような気がするよ!俺ギリ平成生まれだし!俺の記憶の中にあるアドバルーンは完全にイメージの中の昭和の景色にだけ存在しているもので、まさに、こう・・・ああやってゆらゆらと、それこそあのアドバルーンのように・・・」
深田 「にしてもでかいな・・・なんだあれ・・・顔ではあるよな?アドバルーンって大きさじゃないよ、あの顔?は。あっちの方角は、丁度・・・砧公園の上あたりかな?・・・チェ樹くん、ちょっと見に行こうよ」
チェ樹 「よし、深田!行くぞ!!」
深田 「おし、行こう」

 二台の自転車が走り出す音


【2.数値上昇/Rising Numbers】@砧公園外縁

 交差点の音
 自転車を減速する音

チェ樹 「近づいたら木で見えなくなっちゃったな。あれー?でも絶対に砧公園の中だよ。入ろうぜ」
深田 「いや・・・ダメだチェ樹くん。こっちの門は閉まってるよ。砧公園も立ち入り禁止って事なのかな?」
チェ樹 「とりあえず外周を回って入れるとこがないか探してみよう」

 自転車を動かす音

深田 「うーん。どこも空いてない」
チェ樹 「チャリどっか置いてフェンス乗り越えるか?」
深田 「待って、何か聞こえる・・・」
チェキ 「?」

 どこかのスピーカーから流れてくるようなエコーのかかった声が聞こえてくる

声 「・・・さっきまで北西側向いていました。今の向きは南南西。風向きは北東から、風速は0.3m。問題ありません。高度上げて大丈夫です・・・」
チェ樹 「なんだ?」
深田 「どこから流れてるんだろう?」

 自転車を動かす音

声 「現在、高度は19メートル、20,21,22・・・」
深田 「しかし、いやー流石に暑いなぁ・・・チェ樹くん、一回さあ涼しいコンビニに・・・チェ樹くん?」
声 「29,30,31,31,32,33,34,35,36・・・」
深田 「チェ樹くん!?チェ樹くーーん!?」

 声はカウントアップを続ける


【3.タイムリープ喫茶/Timeleap Cafe】@リーボの店

深田 「・・・って感じでさあ(笑)一瞬焦ったよ。ずっと声のする方だけを取り憑かれたように見てるから」
中目 「・・・今の深田さんの話だけ聞いてても、夢の話聞かされてるみたいでイマイチわからないですけど・・・チェ樹さんは何にそんなに魅かれてたんですか?」
チェ樹 「何にって言われても・・・あ、ほら、セイレーンの神話ってあるじゃん?」
中目 「あぁ人魚のやつの」
チェ樹 「暑さで既に頭がおかしくなりかけているのに巨大な顔だろ?そこにどこからともなく歌声・・・?いや歌ではないんだけどさ、声が響いて来たらそっち見ちゃうだろ。たとえ絶海に浮かぶ船の上じゃなくても」
中目 「まぁ・・・。で結局・・・その巨大な顔みたいなやつは何だったんですか?」
深田 「さあ・・・近くだと木で見えないし、どこからも砧公園には入れなかったからさ、一旦元いた場所の近くのローソンに戻ったんだけど、その時にはもう上がってなかった」
中目 「へえ・・・。あ!今”砧公園 顔”で検索してみたんですけど、結構見てる人いますね・・・」
チェ樹 「えっ!?」
中目 「ほら、写真もありますよ。あ、やっぱりそういう現代アートみたいなやつっぽいですね」
深田 「あ、やっぱりそうだったんだ。でも美術館とかじゃなくて現実で見るとやっぱりすごいな」
中目 「僕も行けば良かったなー」
チェ樹 「そっか・・・。みんな結構見てたのか・・・そう聞くとなんか急に冷めてくるな」
中目 「なんでですか、いいじゃないですか。見れたの羨ましいですよ」
チェ樹 「でもさー、俺は見た人みんながビックリするアートを見て、みんなと同じようにまんまとビックリさせられたって事だろ?」
中目 「いや、それはいい事ですよ。アートに作用されたんですから。アートに効力があるって事ですよ。それに・・・(スマホを見る)その声について書いてる人はまだいないみたいなんで。今その声の事ネットに書けば・・・それは言うならば、”チェ樹さんだけのモナリザ”ってやつですよ(笑)」
チェ樹 「おっおっおっおぅー・・・なるほどな・・・」
深田 「中目さん、で、リーボ先生はどこ行っちゃったの?僕そろそろ何か飲み物頼みたいんだけど・・・」
中目 「さっき二人が来る丁度前に僕に店番任せてどっか行っちゃいましたね」
深田 「えぇ〜!?ちょっともう待てないよ・・・」

 店のドアノベルが鳴る音、リーボが帰って来る

リーボ 「ただーい・・・」
深田 「あ、リーボ先生〜!めっちゃ待ったよー!」
リーボ 「ぁぉう。おか、あ、ただいま、ご主人様」
チェ樹 「めちゃくちゃだな。おい」
リーボ 「あれ?・・・チェ樹くん、また来たの?」
チェ樹 「は?どういうこと?」
リーボ 「さっき来てたじゃん。深田くんも」
深田 「え?今日!?・・・いや、今日は・・・来てないけど・・・」
リーボ 「あれー?何か二人とも慌ててるみたいで、私に今日が何月何日かだけ確認してそのまま急いでお店出て行っちゃったけど・・・」
深田 「えっ!?」
チェ樹 「おま・・・それって・・・おい・・・」
リーボ 「・・・・・・なーんてね。期待させただけだよ!少しは元気出た?」(劇場版名探偵コナンのなんかの時の灰原哀参照)
深田 「・・・は?」
リーボ 「ほら、メイド喫茶だけだとコンセプト物足りないかなって思って。タイムリープ喫茶なんてどうかなって。あ、中目さん店番ありがとう。良かった、知り合いしか来てなくて」
深田 「なんだーびっくりしたー」
チェ樹 「くっそーーー!!まんまと騙されたーーー!!夏はタイムリープ起きやすい季節だからな〜〜〜!!一瞬ついに来たかとも思ったわーーー!!」
中目 「リーボ先生、予想以上にウケいいじゃないですか(笑)タイムリープ喫茶」
リーボ 「本当にやってみようかな、タイムリープ喫茶。曜日とか決めて。あ、二人は何飲む?」
深田 「烏龍茶で」
チェ樹 「サイダーで」

 コップに飲み物を注ぐ音

中目 「というか、そもそもメイド喫茶もリーボ先生が勝手にやってるコンセプトでしょ。いいんじゃないですか?」
リーボ 「私が入ってるのが月・金だから、そのどっちかで・・・」
チェ樹 「あ、なら好都合じゃん」
深田 「何が好都合なの?」
チェ樹 「ほら、タイムリープ起きそうな曜日といったら月曜か金曜って感じしない?」
中目 「そうすかね?日曜から月曜に跨ぐ時とかの方がぽくないですか?1週間リセットされる感じがあるんで」
チェ樹 「そうか?日曜から月曜へのリセットはタイムリープが起きずとも、そもそもがリセット構造だからそう感じるだけじゃね?月曜か金曜だと、ほら、平日五日の中の始点と終点でこう、メビウス的リピート構造に・・・って今日は何曜日だっけ?」
リーボ 「今日は・・・金曜だけど」
チェ樹 「金曜・・・?あ、じゃーなくて・・・タイムリープ考慮しなかったら?」
リーボ 「月曜」
チェ樹 「だよな?月曜だよな?まずい、今日って銭湯早く閉まる日じゃなかったっけ?清掃で」
深田 「えっ、じゃあもう行かなきゃじゃん」
中目 「へえ銭湯。祖師温っすか?」
深田 「そう。中目さんも来ます?」
中目 「あ、じゃあ行こうかな」

 飲み物を一気に飲む

リーボ 「じゃあ3名様ご主人様お会計で」
チェ樹 「じゃあ、俺が3人分出しておくから、あとで俺の銭湯の分払って」
深田 「あ、はい」
チェ樹 「Paypayで」
リーボ 「はい」

 Paypayの決済音

チェ樹 「あ、あと、『金宇崔樹』(かねうちえき)で領収証切っといて」
中目 「あれですか、確定申告用ですか?チェ樹さん個人事業主なんですか?」
チェ樹 「いや、ほら、文化庁の芸術活動の助成金のやつで。これは打ち合わせ代って事で下ろす」
リーボ 「チェ樹くん何かそういう芸術活動してたっけ・・・?(領収書書く)」
チェ樹 「いや、別に。・・・ただ、ほら、今もなんだけど、こうやって・・・(収録マイクに近づき、声が大きくなる)この夏の間中ずっとスマホのボイスレコーダー回しっぱなしにしてあって、後でそれ適当に組み合わせたやつを音声コンテンツのアートだって言い張って作品って事にでっち上げるつもり」
リーボ 「なるほど。考えたな(タバコ吸いながら)」
中目 「ははは(笑)それは・・・(笑)ひどいですね」
チェ樹 「万が一内容を審査された時に引っかからないように、とにかく長大な長さの作品にして誰もまともに審査できないようにしたいから、できるだけ沢山の音声ファイルが必要なんだよ。だから、リーボ先生も、中目さんも、思い出したら適当にボイスメモ録っといて!1分1円で買い取るから!」
リーボ 「わかった。何か録っておく」
深田 「あ、さっき録ってあったやつ送るね」
中目 「あ、チェ樹さん、行くならもう急がないとかもですよ」
チェ樹 「やっべ」
リーボ 「いいな銭湯・・・。私も店閉めて間に合いそうだったら後から行くかも」
深田 「はーい」
チェ樹 「よし、行くぞ」

 チェ樹がスマホをしまう音


【4.温泉セイレーン/Onsen Siren】@そしがや温泉21男子プール

 水の音
 水をかく音

チェ樹 「フィ〜〜〜。祖師谷温泉に来ればプールに入れるって事、すっかり忘れてたぜ」
中目 「サウナ料金プラスでプールも付いてくるっていうのは、正直他の銭湯よりだいぶ優れてますよね」
深田 「(少し遠くから)チェ樹くーん。僕少しのぼせちゃったから先出とくねー」
チェ樹 「あ、わかった」
中目 「どうせもうすぐ閉まる時間だと思うんで、僕らももうちょっとしたら出ますね」
深田 「はーい」

 スライドドアを開ける音、深田去る

チェ樹 「こんなすぐ出なきゃいけないんならサウナ券買ったの勿体無かったかな?」
中目 「いや、でもサウナ券買うとバスタオルもおまけで付いてくるじゃないですか。突発的に手ブラ来た僕的にはかなりお得ですよ。それに一回の銭湯でそんな何回もサウナって入れなくないですか?」
チェ樹 「まあな。結局こうしてずっとプールに居るわけだし。昼間に入れなかった分も含めて」
中目 「どうします?もっかいサウナ行って水風呂入ってから出ます?」
チェ樹 「う〜ん・・・」

 チェ樹、水をザブザブやる

チェ樹 「水中で限界まで息止めるやつやって、それから出ない?あ、そんで負けた方が出た後に自販機の飲み物おごるの」
中目 「あぁ〜あぁ〜・・・まあ、いいですよ。じゃあ時間も測っときます?」

 中目、スマートウォッチをピッピといじる

チェ樹 「あ、すげえ、それでストップウォッチできるんだ」
中目 「まあ、普通にスマートウォッチなんで。LINEとかも来た時にこれに通知来ますし、僕の脈拍とか血中酸素濃度も24時間測ってくれてます」
チェ樹 「じゃあ息止めなんてしたら一気に血中酸素濃度下がって死んだと思われるかもね(笑)」
中目 「かもですね(笑)あ、あとさっきチェ樹さんが言ってたあれ・・・ボイスメモ録っとくってやつもさっきからずっとこれで録ってます(笑)」
チェ樹 「え!?それで!?音のドライブレコーダーじゃん、まるで」
中目 「なんで、のちほど1分1円で買い取って下さい(笑)」
チェ樹 「あ、あぁ。わかった。夏の最後にまとめて決算させてくれ」
中目 「はい。・・・じゃあ、いいですか?いきますよ・・・」
チェ樹 「せーの、」

 二人、潜る
 マイクが水中に入る音

チェ樹 「ゴボゴボゴボ(やばい!全然息続かない!)」
中目 「ゴボゴボゴボゴボ・・・」

 ♪:水中で、地の底から響くような鳴き声のような音が聞こえてくる

チェ樹 「(苦しむ)・・・?・・・!?」

 チェ樹が水上に上がる音

中目 「ゴボゴボゴボゴボ・・・ップハァ!」

 中目も水上に上がりマイクも水中から出る

中目 「ハァ、ハァ・・・若干僕勝ちましたね・・・!」
チェ樹 「いや、待てよ!違うんだよ!なんか今ヤバそうな変な音しなかったか!?」
中目 「え!?水中でですか?」

 と、遠くに何か声が聞こえてくる

声 「85,86,87,88・・・」
チェ樹 「・・・ん?あれ・・・?」
中目 「・・・どうしました?」
チェ樹 「セイレーン・・・」
中目 「?あぁ、人魚のやつの・・・(耳をすます)え、もしかしてこの向こうから聞こえる声ですか?チェ樹さんが昼間聞いたっていう・・・」
声 「95,96,97,98,99,ひゃーく!」

 間

中目 「・・・止まりましたね」

 館内アナウンスが流れる

アナウンス 「(♪:チャイム音)清掃のため本日は閉館となります。服に着替え、ご退館のご準備をお願いします」
チェ樹 「あ」
中目 「女湯・・・っていうか女・プールの方でしたよね」
チェ樹 「急いで着替えるぞ!」
中目 「えっ!?はい」

 水から出る音


【5.この中に誰かいる?/She May be in Here】@そしがや温泉ロビー

 コーヒー牛乳を飲む音
 マッサージチェアーが揺れる音

リーボ 「(振動しながら)うわ、懐かしい。でもその巻は私読んでないやつかも。私がよく読んでたのは多分『あついぜ!ラーメンたいけつ』だったかな。実家にあった」
深田 「あー逆に僕それは読んでなかったかも・・・」

 脱衣所から中目が出てくる

中目 「あれ、リーボ先生、今来たんですか?もうお風呂終わっちゃいましたよ」
リーボ 「(振動しながら)ちゃんとお風呂入ってさっき出て来たんだよ」
中目 「ヴェハヒwめちゃくちゃ早くないですか?(笑)」
リーボ 「(振動しながら)サウナ無しで。ほぼカラスの行水だったよ(笑)」」
深田 「あれ、チェ樹くんは?」
中目 「もう出てくると思います。あ、深田さん『かいけつゾロリ』読んでたんですね(笑)」
深田 「そうー。『チョコレートじょう』の巻。そこに置いてあってさ。あと『ちびまる子ちゃん』と」
中目 「あーめっちゃ面白いですよね。リーボ先生は何読んでたんですか?」
リーボ 「(振動しながら)月刊『Will』」

 脱衣所からチェ樹が出てくる音

チェ樹 「ハァハァ・・・。あそこの本棚の死角に置いてある右翼雑誌、銭湯に来るジジイ以外で読んでるやつ居たんだな(笑)あ、リーボ先生マッサージチェアー終わったら次俺に乗らせて・・・」
深田 「でももう閉まるから出なくちゃいけないと思うけど・・・」
チェ樹 「あ、そうだ!深田ァ!さっきから今までの間で誰か女湯から出てこなかったか!?」
深田 「えっ!?はっ?」
中目 「なんかチェ樹さんが昼間に聞いた声の人が女湯側のプールに入ってたっぽいんですよ」
深田 「え、そうなの!?僕ら10分くらい前からずっとここのロビーにいるけど・・・」
リーボ 「(振動しながら)どんな人なの?」
中目 「チェ樹さん、どんな人なんすか?」
チェ樹 「どんな人って言われても・・・。声だけだし、老若男女のどれかすらよくわからない・・・けど・・・あ、でも女湯に居たから女ではある、のか・・・?」
中目 「なら老・若・女のいずれかですね」
深田 「でも結構色んな人が、幼稚園児からお年寄りまで出て来てたからなぁ・・・」
中目 「一人ずつ声聞いて確かめてくしかないですかね」
チェ樹 「だよな・・・深田、ちょっと今ロビーにいる女の人たちの声確認して来てよ。深田も声わかるでしょ?」
深田 「え!?なんで僕が!?チェ樹くん行きなよ」
チェ樹 「銭湯のロビーでいきなり男が声かけてくるなんて異常者だと思われるだろ!」
深田 「僕だって嫌だよ!・・・あ、そうだ、リーボ先生やってよ!」
リーボ 「(振動しながら)もうちょっと待って。もうすぐ終わるはずだから」
チェ樹 「あ!深田!外の自販機のとこでアイス食ってる女の人二人連れ、帰っちゃいそう!早く!」
深田 「えぇ〜・・・なんて声かければいいの?」
チェ樹 「なんか適当に!偶然を装って!」
深田 「あっ、」

 深田、動くとスマホを落とす

中目 「深田さん、スマホ落としましたよ」
深田 「ちょっと持ってて・・・」

 深田、銭湯出入り口の方へ行く

深田 「あ・・・あ!すいませーん!!・・・もしかしたらかもなんですけど、靴、僕のやつと間違えてないですかね?・・・あ、サンダルですか・・・あ、僕もサンダルなんですけど、あ、大丈夫ですか間違えてないですね。あ、僕自分の靴箱の鍵持ってました!間違えようないですね(笑)失礼しました!すいません」

 深田、戻ってくる

深田 「めっちゃ変な感じになったよ・・・」
中目 「結局違う人だったんですか?」
深田 「よくわかんないけど・・・多分・・・違う声だったと思う・・・」
チェ樹 「そうか。あとは・・・ロビーにいる女性は見た感じ本棚の前に一人と、靴箱の所に一人・・・」
深田 「もうさすがに次からはチェ樹くんが行ってよ・・・僕もう靴間違えた以外にネタ無いから」
チェ樹 「なにもあんな、間違いを装った失敗パターンのナンパ方法みたいなやり方じゃなくたって他にできるはずだろ?」
深田 「なら自分でやれよ!」
チェ樹 「・・・わかったよ。まあ、見てろ」

 チェ樹、女性1に近づいて行く

チェ樹 「あれ!?あれ?あーすいません!」
女性1 「はい・・・?」
チェ樹 「はい、これ。使ったタオルです!」
女性1 「えっ?」
チェ樹 「あれ、使い終わったタオルって、これって直接渡しちゃう感じで大丈夫ですかね?」
女性1 「いや・・・ちょっとわからないですけど・・・」
チェ樹 「あれ!?店員さんじゃなかったですか!?すいません!」
女性1 「はい・・・違います・・・」

 チェ樹、戻ってくる

チェ樹 「な?こうやって自然にさ」
中目 「よりひどかったですよ」(あるいは「大差なかったですよ」)
深田 「・・・あ!靴箱のとこの人、もう行っちゃいそうだよ」
チェ樹 「もうわかった。普通に正直に聞けばいいんだよ。変に取り繕わずに。まあ見てろ」
中目 「はい」

 チェ樹、女性2に近づいて行く

チェ樹 「すいませーん」
女性2 「はい?」
チェ樹 「あの、もしかしてなんですけど、さっき女湯・・・っていうか女プールの方で何かお話されてたりした方ではないですよね?」
女性2 「えっ・・・。違うと思いますけど・・・」
チェ樹 「あ!そうですか!もしかしたら、その、数字的なやつ何か数えてたかなって・・・思ったりもして(笑)。あ、でもお声聞くとちょっと違う方かなって感じですので、勘違いかもです!失礼しました!」
女性2 「はい・・・」

 チェ樹、戻ってくる

チェ樹 「違うってさ!」
中目 「今のでよくそんな元気に戻って来れましたね」

 リーボのマッサージチェアーが停止する

リーボ 「さて」
従業員 「掃除になりますのでご退館お願いしますー」
中目 「あ、もう出なきゃいけないっぽいですね」

 リーボが本を棚に戻し、空き瓶を捨てる音

チェ樹 「結局見つからずじまいか・・・」

 靴箱で靴を履き替える音

中目 「そうだ、チェ樹さん」
チェ樹 「何?」
中目 「僕さっき息止めで勝ちましたよね?もう銭湯の中の自販機ではアレですけど、どっかコンビニとかで飲み物買ってもらっていいですか?」
チェ樹 「あぁ・・・えぇ〜」
リーボ 「私も行く」

 銭湯入口の水場の音


【6.ドント・バックバイト/Don't Backbite】@ローソン祖師谷2丁目店

 歩く音

深田 「ごめん、僕今日自分のラジオの更新しなきゃいけない日だから先帰るね」
中目 「ああ、お疲れ様です」
リーボ 「おやすみー」

 歩く音

中目 「さて」

 ローソンの入店音

チェ樹 「え?ローソンで買うの?」
中目 「の、つもりですけど」
チェ樹 「もうちょっと行けばビッグ・エーあるからそっちのが安く買えるよ」
中目 「ははは・・・いいじゃないですかローソンで(笑)」
リーボ 「私もタバコ買おう」
チェ樹 「えぇ〜・・・」

 店内を歩く音

チェ樹 「・・・で、何買うんだよ?」
中目 「ピルクルですかね」
チェ樹 「あ、またHIKAKINとコラボやってんだ、ピルクル」
中目 「ほんとだ。どのパッケージにしようかな」
チェ樹 「このコラボ案件でいくら貰えるんだろうな・・・。こないだも1億円分くらい時計買ってたし・・・」
中目 「まあその足しになるくらいは最低でも貰えるでしょ」
チェ樹 「自分の顔が印刷されたパッケージが全国に並んでその上金も貰えるなんて・・・それはもう全てじゃないか。この世の」
中目 「でも、あらゆる場所に自分の顔ここまで並んでたら、それ見た時ちょっと頭おかしなりません?」
チェ樹 「多少はおかしくなりてーよ。俺は多分このまま一生誰にも知られずに、誰からも愛されずに、きっと子供も作れずに、歳をとってただ死んでいくんだぞ?あーあ・・・ヒカキンと同い年なんだよ、俺・・・なんだよこの差は」
中目 「いや、でもヒカキンもチェ樹さんと同じで2021年夏現在未婚で子供いないんでそこはまだトントンっすよ」
チェ樹 「・・・ん、まぁ、そこはな。でもヒカキンってさ、ちょっと前時代的な男性主権じみたとこあるよな。だから結婚したとこで嫁さんをを飯炊き女か掃除婦くらいの感じで扱いそう」
リーボ 「ちょっと!ヒカキン先生の悪口はやめて!」
チェ樹 「いや、違うんだ、俺はヒカキンの大ファンで動画は欠かさず見ているんだよ!だからこそ、あいつの思想の根幹に根付いた旧来的な価値観がわかるんだよ!あらゆる動画の言葉の節々から!それに動画内でバカ高いもん買ったり、高い猫無駄に二匹買ったりもどうせ税金対策・・・」
リーボ 「ヒカキン先生の悪口はやめて!」
チェ樹 「これは成功できなかった場合のヒカキンのifルートである同世代の低所得者ならではの愛を持った視点なんだよ!俺のようなファンがそういうとこ含めてヒカキンに投げかけていかなくちゃいけないんだ!」
中目 「ははは(笑)なら今チェ樹さんと全く同じ事考えてる同年代の低所得者、きっと50万人くらいいますよ(笑)今この瞬間だけでも」
チェ樹 「えぇ!?」
リーボ 「そう。それにチェ樹くんだって、結局女にママを求めてるみたいなとこあるじゃん。尊敬するふりして。結局のところ超マザコンなんだよ。ゾロリ先生と一緒で」
チェ樹 「ぃゃ・・・そんな事は・・・」
リーボ 「こないだうちのお店で実家に電話してた時もさ・・・ほら、保険証の手続きかなんかで。最終的に全部お母さんにやってもらってたよね?7才の子供みたいにゴネて。私は(「あたしゃ」みたいな言い方で)見逃さないよ」
チェ樹 「え!?あぁやめろ!ああいう行政の手続きはそもそも向き不向きがあるんだよ・・・。あぁ、もう!レジ行くぞ!」
中目 「あ、待ってください。ピスタチオのアイス新しく出たっぽいですね」
チェ樹 「いいから!もうそれも買ってやるからさっさとレジ行くぞ!」
リーボ 「桃アイスもいい?」
チェ樹 「あ”あ”!!」
中目 「じゃ僕ら先外出ときますね〜」
リーボ 「(少し遠くから)あとハイライトメンソール!」


【7.商店街で山びこ/Shopping Street Yamabiko】@ローソン祖師谷2丁目店

 ローソンの入店音
 袋からガサガサ出す音

チェ樹 「はい。買ってやったぞ」
中目 「ピスタチオ入ってるもんは見かけたら必ず買っちゃいますね。まぁピスタチオだけじゃなくてピルクルもですけど」
チェ樹 「ピラルクだかポルチオだかボルシチだか知らねーけど、いいからさっさと食え。俺は早くビッグ・エーの惣菜をdigりに行きてーんだ」

 ストローでピルクルを飲む音(中目)
 タバコに火を付ける音(リーボ)

リーボ 「ふぅーーー・・・」

 リーボ、耳をすます
 遠くでかすかに何か声が聞こえる
 間

リーボ 「・・・ヤッホー!」
チェ樹 「ぅわ!」
中目 「どうしました?」
リーボ 「・・・」
声 「・・・ヤッホー!」
チェ樹 「!?」
リーボ 「ヤッホー!」
声 「ヤッホー!」
中目 「あれ、チェ樹さん、この声って・・・」
リーボ 「ヤッホー!」
声 「ヤッホー!」
チェ樹 「・・・あっちの方からだ!」

 三人、走り出す

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