ヒヤリハット9 猫井川、泥にダイブする。

こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。

今回は「転倒」のヒヤリハットです。

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猫井川、泥にダイブする。

今回の猫井川たち、いつもの4人は、水道管工事に来ています。
昨日は雨のため作業は中止でした。そのため今日は遅れを取り戻さなければなりません。

全員が現場に到着すると、犬尾沢は全員を集めて、打ち合わせを始めました。

「今日は、昨日の遅れを取り戻していくから、役割を替えます。
ショベルカーは俺、兎耳長さんは配管の準備、保楠田さんと猫井川は、配管をやってください。
 猫井川は、今日はカメラと黒板持って、撮影すること。」

てきぱきと各人の作業を割り振りました。

「昨日降った雨で地面がぬかるんでるから、足元には注意して下さい。
 それと猫井川は最初に、現場に置きっ放しにしていた材料とか工具を、チェックしてくれ。
 
 作業中とか休憩の時には、工具とか材料は、なるべく一箇所に集めて。
 整理整頓をするようにしてください。使ったものを、放置しないように。

 それじゃ、今日も1日ご安全に!!」

犬尾沢の号令のもと、作業を開始します。

猫井川は、犬尾沢に指示されたように、材料置き場に向かい、材料や工具が壊れたり、ひどく汚れたりしていないかをチェックすることにしました。

「うわ、ビショビショ」

材料や工具はブルーシートに覆われていましたが、その表面には水滴がたまり、一部水たまりにもなっています。

なるべく濡れないように、ブルーシートをまくり上げていきますが、残念ながら無被害では済みませんでした。

「お、猫ちゃんのとこだけ、雨が降ったの?」

道具を取りに来た保楠田が、変色した作業着を着た猫井川を見て、言いました。

「いやー、思った以上に濡れてしまいました。
 1人でブルーシート取るのは、きびしいですね。」

そして、一通り点検を終えると、

「全部、問題なさそうです。
 バタ角(角材)は今日使いますか?」

猫井川は、本日使用するスコップなどの道具を集めながら、保楠田に聞きました。

「配管を置く時に使うかもしれないから、一応持って行こうか。」

保楠田も道具を持ち、バタ角も数本抱えました。

「仕事する前に、服がドロドロに汚れちゃうね。」

「本当ですね。」

2人とも作業を開始して、まだ10分も経っていないのに、作業服はすでに泥で汚れていたのでした。

犬尾沢は、ショベルカーでどんどん穴を掘っていきます。
雨でぬかるんでいるせいか、土はどんどん掘れていきます。

穴の底に溜まった雨水を、ポンプで吸い上げつつ、配管を設置していく作業を進めていきました。

掘削、配管、埋め戻しのサイクルを繰り返しながら、どんどんと作業は進んでいきます。

「ちょっと、休憩しましょう。」

犬尾沢は、ショベルカーのエンジンを切ると、3人に伝えました。

汗と泥にまみれた3人は、休憩の声で少しホッとしました。

「猫井川、あまりあちこちにスコップとかバタ角を置いておくなよ。
 つまづくぞ。」

穴の周りにバタ角や材料を置いていた猫井川に、犬尾沢はちくりといいます。

「はい、後で片付けておきます。」

視界にちらっと半分泥に埋まったバタ角が見えましたが、猫井川もみんなともに休憩に入りました。

だんだん季節は進み、山は色づいています。
自動販売機では、飲み物もホットを選ぶようになり、プルタブを開く前に、しばらく両手を温めてしまいます。

「すっかり、寒くなってきたね」

保楠田がつぶやくと、犬尾沢が答えます。

「本当ですね。これから忙しくなりますよ。」

例年では、年度末をピークに忙しくなっていきます。
こうした休憩時間が、一時ほっと息つく時間なのです。

「あ、そうだ、猫井川。
 カメラは持ってきてる?
 ちょっと見たいところがあるんだけど。」

犬尾沢が、猫井川に聞きました。

「カメラは、ショベルカーの所に置いてますね。
 持ってきましょうか?」

「うん、頼む。」

猫井川は、立ち上がると、カメラのある場所まで、小走りに駆けて行きました。

カメラはショベルカーの近くに、黒板と一緒に置かれていました。

カメラを取り上げると、振り返り、走りだしました。

その時です。

猫井川が一歩を踏み出した先には、バタ角が1本、半分を泥に埋もれさせて横たわっていたのでした。

休憩に入る時、猫井川が後で片付けると言ったものです。

猫井川のつま先が、バタ角の端にかかると同時に猫井川の視界が傾きました。

「あっ」

という間もなく、目の前に茶色の固まりが近づいてきます。

バシャッ!

猫井川は、泥の中に前半分を埋めてしまったのでした。

「いって~、うわ最悪・・・」

立ち上がりながら、猫井川はつぶやきます。

「口の中がシャリシャリする。」

顔も服もドロドロになってしまいました。

「あははは~、猫井川大丈夫か~?」

遠くから、犬尾沢たちの笑い声が聞こえます。

「大丈夫ですけど、最悪です。」

顔の泥を拭いながら、猫井川はみんなの所に近づいてきました。

「あっちで水道使えるから、洗って来い。
 いや~、見事にコケたな~。あははは。
 だから、バタ角を片付けろと言ったろう。」

カメラは防水だから大丈夫なものの、大丈夫じゃないのが猫井川。
水道水で顔と服の汚れを洗う猫井川。

ヘックシと、くしゃみが出る寒空の下でした。

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ヒヤリハットの解説

雨でぬかるんだ土の地面に、転けてしまうのは、なかなか悲惨です。

夏ならともかく、秋から冬にかけて肌寒い季節に、水で汚れを落とすの、きついものがあります。

今回は、転倒ですね。
猫井川は怪我なく、ドロドロに汚れてしまったくらいですみました。
しかし世の中では、転倒で大怪我になることは、決して少なくありません。

転倒災害では、場合によっては死亡することもあります。
2019年の労災統計データでは、転倒災害での死亡者数は22人となっています。これは転倒時に頭を強く打ったなどが原因だと考えられます。

休日4日以上の死傷者数で見ると、転倒は最も多い災害です。
全体の約23%を占めています。1年間の労災の内、おおよそ5人に1人は転倒で怪我をしているということです。

労働災害の統計データはこちら(厚生労働省 職場の安全サイト)

猫井川が所属している建設業では、墜落・転落という災害が最も多く、転倒は2番目に多い災害です。
製造業や第三次産業(小売や飲食、介護福祉施設などのサービス業)では、転倒災害が最も多くなっています。

転倒とは何か。
簡単に言うと、つまづいたり、滑ったり、または足を踏み外して、転んでしまうことです。

足元の不注意と言ってしまえば、それまでです。
しかし、職場や作業場にも原因を見つけることもできます。

例えば、通路に段差がある、床が濡れてツルツルしているなどは、転倒する原因になりますね。
ほんの数ミリの段差でも、つまづく原因になったりするんですよ。
これらは、転倒の原因が職場環境に潜んでいるといえるでしょう。

また今回のヒヤリハットのように、材料や工具の放置が原因になることもあります。
職場で移動する時、大なり小なり常に転倒のリスクはあるのです。

しかし段差を見つけ解消するなどすることで、転倒の可能性を小さくすることも可能なはずです。
このような職場の改善は、「足元に注意してね」と声掛けするより、遥かに効果的なはずです。

注意を払うのであれば、通路になっている所に物は置かないこと。
これだけでも、自分自身を含めた誰かが転倒するリスクを減らせるです。
整理整頓は、未来を怪我を減らす思いやりとも言えそうですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
ぬかるんだ場所を走っていたら、バタ角につまづいて、転んだ。

対策
1.作業上でも、物をあちこち置かない。一箇所にまとめておくなどする。
2.「整理」、「整頓」、「清掃」、「清潔」、「しつけ」の5Sを徹底する。

私は労働安全コンサルタントとして、職場での労災防止についてのブログを書いております。
ぜひ、こちらも訪問してください。

最後にCMです。
清文社さんより、安全に関しての小冊子を出しております。

社内の安全教育、安全大会での配布などでお使い頂ければと思います。
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