ヒヤリハット20 猫井川、荷物で手がギューッとされる
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回は倉庫で片付けをしている時に発生した、あわや「はさまれ」のヒヤリハットです。
猫井川、荷物で手がギューッとされる
現場の仕事を終えた猫井川は、1人倉庫で荷物の片付けを行っていました。
作業で使ったコンパネや仮設足場材、工具などを運び込み、所定の場所に置いていくとともに、明日使う材料の準備もしました。
「疲れてるし、早く終わらせよう。」
そんなことを思いながら、1人で黙々と車と倉庫の中を往復しました。
「俺も完璧にどこに何があるかが分かるようになったな。
今なら目をつぶっていても、歩けるかもしれない。」
毎日のように荷物の出し入れをしている倉庫のため、もうすっかり勝手知ったる主の気持でした。
しかし入社した頃は、どこに何があるのか、そもそも置かれているものが何かも分かりませんでした。
「昔は、言われたものが見つからなかったり、道具を落として怒らたこともあったな。」
他の人が軽々と持っているように見える材料も、入ったばかりの新人には難しいものです。
筋力もなく、持つ時のコツも知りません。そのため腰が引けたように不格好になります。そのような持ち方だと、すぐに腕が疲れてしまいます。
猫井川も、時々、荷物を落としてしまいました。
そして怒られもしたのでした。
猫井川が、この仕事を初めて2年が経ちました。
初めてだらけのことで、荷物1つを運ぶだけでも失敗してしまいました。
犬尾沢は、猫井川が入社した時から、面倒を見てくれた先輩でした。
一つ一つのことを丁寧に、我慢強く教えてくれました。
荷物を落とす程度では怒ったりしませんが、危険なことをしたりすると、大きな雷を落とすのでした。
「犬尾沢さんには、怒られはしたけど、たまには心配してくれたとこもあったな。」
昔のことを考えていたら、犬尾沢とのエピソードが思い出されたのでした。
それは、猫井川が入社して、数ヶ月経った頃のことでした。
猫井川は犬尾沢など数人と、倉庫内で荷物の整理をしていました。
犬尾沢たちは、荷物を軽々と持ち上げ、スイスイと運んで行きました。
一方、猫井川はヨタヨタと、見るからに危うそうな運び方でした。
「猫井川、大丈夫か?
気をつけて、運べよ。」
「は、はい。」
全然大丈夫ではない感じで、返事を返していました。
「ふう~」
ようやく一つの荷物を運び終えると、休むまもなく新たな荷物を取りに戻りました。
「さて、次はこれだな。よいしょっと。」
両取っ手のついたコンテナを持ち上げした。
「これは腰にくるな。」
しっかりと腰を入れて持ち上げ、よろよろと歩き始めました。
「ふう、ふう。」
一歩ずつゆっくり歩いていきます。
荷物を持つことに集中しているため、あまり前も見えていませんでした
視界に入るのは、ほんの数メートル先でした。
猫井川は通路を歩いていました。
しかし今日は通路脇の荷物は片付け途中でした。
そのため通路脇の荷物は、普段とは違い、グチャグチャに乱れ置かれていたのでした。
中には、材料棚そのものが、少し通路にはみ出している所もありました。
何度か荷物を持って往復している猫井川も、それには気付いていました。
そして無意識ながらに避けていました。
今まではですが。
しかし今は、重い荷物に集中していました。
「ふう、ふう。」
猫井川は一歩ずつ歩きます。
そして通路にはみ出す材料棚に近づいていきました。
猫井川が荷物を持つ左手がある位置の延長線上には、棚の角がありました。
左手と材料棚が徐々に接近していきます。
しかし猫井川の視界には、棚が入っていないのでした。
そして、ついに左手と材料棚は接触すると、ギューッと挟んでしまったのでした。
「痛てて」
予想しなかった障害物のため、強く挟んでしまい、左手には強い痛みが走りました。そして痛みのため、手を離してしまい、荷物を落としてしまいました。
「ああ、やべー」
荷物を落とした衝撃で、コンテナの中の荷物が散らばりました。
「おい、どうした?大丈夫か?」
落下した音に気づき、犬尾沢が声を掛けました。
「大丈夫です。落としただけです。いてて。」
「怪我はしてないか?」
「平気です。少しこの棚に、手を挟んでしまっただけです。」
「そうか、痛むようなら湿布しとけ。
その荷物棚はどかした方が良さそうだな。」
そう言うと、犬尾沢は荷物棚をずらしました。これで通路へのはみ出しはなくなりました。
「これで大丈夫だな。気をつけて運べよ。
もう少しだ。頑張れ!」
犬尾沢はそう言うと、また自分の仕事に戻りました。
「あ、ありがとうございます。」
痛む左手をさすりながら、猫井川は応えました。
「よし、運ぼう。」
犬尾沢の行動が少し嬉しく思いながら、散らばった荷物を拾い集めるのでした。
・・・昔はこんなこともあったなと思い出していると、倉庫の入り口から犬尾沢の声が掛かりました。
「猫井川、まだやっているのか?
早くしろよ。」
「はい。もう終わります。」
そう言いながら、ひょいと荷物を持ち上げ、明日の準備をするのでした。
ヒヤリハットの解説
今回は、猫井川が少し昔のことを思い出したお話でした。
入社した当時は、荷物1つ運ぶにしても、へっぴり腰です。
猫井川がそんな状態なので、犬尾沢もまだ気を使っていました。
仕事は続けることで、コツを学び、必要な力を身につけていきます。
職人さんが簡単そうにやっていることは、毎日の積み重ねが形作るものです。
さて、この話の舞台は倉庫の中です。
倉庫は荷物であふれていますが、整理整頓もされています。
床には通路を示す線が引かれています。
様々な材料や資材は、線からはみ出さないように保管されています。
通路と資材置き場の区別は、整理整頓の基本といえます。
整理整頓は、仕事を効率よくするためのものですが、同時に仕事を安全にもしてくれます。
猫井川が手を挟んでしまったのは、倉庫の整理整頓作業の途中でした。
そのため、大いに乱れた状態でした。
一部の荷物は、通路にはみ出たりしていました。
これが猫井川の手に当たってしまったのでした。
荷物と手を挟むというのは、あまり大事ではなさそうに思えます。ちょっと痛いだけじゃないのと感じる面もありますね。
しかし、このようにも考えられます。
もし、落とした荷物が足の上に落ちたら。
一見するとささいなことであっても、場合によっては、大きな事故などを誘発することもあります。
今回は、すぐに犬尾沢が棚を動かし、対処しました。
何か問題がありそうな場合は、すぐに対処するのが重要ですね。
猫井川も少しずつ成長していきます。
小さな失敗を繰り返して、学び、その対処法を身につけていっているのです。
まだまだ猫井川は、ヒヤリハットを繰り返すでしょうが、それを糧にこれからも一人前への道を進んでいきます。
今回のヒヤリハットのまとめ
ヒヤリハットの内容
倉庫内で荷物を運んでいたら、通路にはみ出していた荷物棚に接触し、手を挟んだ。
対策
1.荷物は通路にはみ出さないようにする。
2.荷物で張り出している所があれば、はみ出さないようにする。対処できない場合は、明示するなどの工夫をする。
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