ヒヤリハット10 兎耳長ハシゴから滑り落ちる
こんなヒヤリハットのお話しを、解説とともにご紹介します。
今回はハシゴを使っている時の、あわや「転落」のヒヤリハットです。
兎耳長ハシゴから滑り落ちる
今日も、いつものメンバーで水道管工事に来ています。
工事はどんどん進み、もう少しで完了というところまで進んできました。
今作業をしている場所は、他の埋設物があるので、通常よりも深く掘る必要がありました。
リーダーの犬尾沢ガウは、その点も含めて、段取りの確認を行いました。
「ここからは、少し深めに掘っていくので、土止め支保工をしながらの作業になります。一箇所あたりの作業時間は長くなるから、1つ1つの仕事はテキパキとやっていきましょう。
それと、かなり深くなるので、掘削床への昇降は必ずハシゴを使ってください。飛び降りたりすると、以前の猫井川みたいに足をひねってしまうから、注意してください。」
今回も、猫井川ニャンは、以前掘削した穴の底に飛び降りて、足をひねってしまったことを言われ、少しバツが悪くなりました。
「いやいや、あれがあってからは、ちゃんとハシゴを使うようにしてるじゃないですか。」
猫井川は、弱々しく答えます。
「ははは、そうだな。
保楠田さんも兎耳長さんも、気をつけてくださいね。
今日も俺がショベルカーに乗るので、床均しとか、配管は3人で進めていって下さい。
それでは、今日もご安全に!」
ミーティングは終わり、犬尾沢の号令のもと、作業スタートです。
猫井川は、保楠田コンと兎耳長ピョンとともに、道具を取りに向かいました。
「猫ちゃんは、あの穴で転んだ時は、捻挫したの?」
隣を歩いていた保楠田が、猫井川に尋ねます。
「いや、捻挫までにはならなかったです。
しばらく動けないし、石も落ちてきて、当たりそうになりましたけどね。
もし当たってたら、結構やばかったです。」
今となっては、いい思い出という訳ではありませんが、昔の失敗を懐かしく思います。
「まあ、あの時も犬尾沢さんに、めちゃくちゃ怒られたので、無茶はしないですよ。」
「犬尾沢は、怒ると怖いからな。
俺も気をつけるよ。」
この前2人して怒られたからか、保楠田も少し気を引き締めるのでした。
犬尾沢がショベルカーで掘削している間、3人は今回使用する土止め支保工用の矢板を準備します。
ある程度掘れてきたら、矢板を土壁に沿って置いていき、倒れないように打ち込んでいきました。
矢板による土止め支保工は、掘削穴の両サイドに設置していきます。
「ハシゴはここに置いておきます。」
猫井川が、ハシゴを準備し、穴の中に設置しました。
「いや、猫ちゃん。そこに置いちゃうと邪魔になるから、もうちょっと端に寄せない?」
保楠田が、猫井川に指示します。
「寄せるのは出来るのですが、端の方が、湧水で結構ぬかるんますけど。
それでも、いいですか?」
確かに保楠田が指示した場所は、地面も穴の底も、少し水がたまり、ぬかるんでいます。
「そうか。それは嬉しくないね。
それじゃ、なるべく端の方に寄せる感じで。」
猫井川はぬかるんでいない、ギリギリの場所にハシゴを設置しました。
ここならハシゴが沈み込まなさそうです。
3人は、ハシゴを使って穴の底に降り、床均し等の作業を開始しました。
穴の底で作業しては、地上に戻り、配管の準備をする。
とても慌ただしく作業を行いました。
「ちょっと小便してくる。」
作業を開始して、1時間くらい経った頃、兎耳長が作業の手を止め、2人に言いました。
「ここは日陰で寒いから、小便も近くなるねー」
そんなことを言いながら、兎耳長はハシゴを昇り、仮設トイレに向かいました。
「確かにここは寒いね。
もうしっかり防寒しないと、仕事にならなくなるね。」
保楠田もブルっと震えて、言います。
外で行う作業なので、天気や気温の影響はすぐに受けてしまいます。
冬は寒いし、夏は暑い。
これから冬に向かうと、仕事は忙しくなるともに、寒さとも戦う毎日になっていくのです。
「もうヒートテック着て、仕事ですね。」
猫井川は、保楠田に答えます。
「昔はヒートテックなんてなかったから、寒かったよー。
コンクリ打った後なんて、汗をかいてるから、寒くて。
よくブルブル震えてたよ。」
寒くなる季節を前に、いろいろな話をしていると、兎耳長が小用を済ませ、戻ってきました。
「兎耳長さん、寒いのは大丈夫ですか?」
戻ってきた兎耳長に、猫井川は尋ねます。
「いやー、寒いのはダメだー。
もう中に3枚着込んでるくらいだもん。」
「えー!もうそんなに着てるんですか?
逆に暑すぎません?」
兎耳長は、そんな話をしながら、ハシゴを使って降りてきました。
1段、2段と足をかけ、3段目に来た時です。
ツルッ!
ぬかるみを歩いていたため、靴底は泥で濡れていました。
これが滑り、兎耳長はバランスを崩してしまったのです。
滑り落ちる兎耳長。
穴底までの距離は約2メートル。
下にいる2人が支えることはできません。
やばい!
と、猫井川と保楠田が思った、その時でした。
滑り落ちた足が、地面にたたきつけられる瞬間、兎耳長はすばやく身を丸めながら、見事な受け身を取ったのです。
体全体で衝撃を分散するとともに、しっかり首を曲げて頭に衝撃がないようにしていたのです。
ほんの一瞬の出来事でしたが、それは素人目にも美しいと思えるほどの、受け身でした。
作業服についた土を払い落としながら、何事もなかったように兎耳長が立ち上がります。
「う、兎耳長さん、大丈夫ですか?」
「 というより、今の受け身何ですか?」
猫井川と保楠田は、今見た光景に圧倒されながらも、矢継早に質問します。
そんな2人に、兎耳長は、
「いや、昔、柔術をやっててね。」
と一言だけ答えました。
「え、でも前はボクシングやっていたと言ってませんでしたか?
それに柔道じゃなくて、柔術??」
猫井川は、以前のことを思い出しながら、聞きます。
「うん。まあ、色々とね。」
謎の多い兎耳長。
普段の緩慢な動かからは想像がつかない、底知れなさを持っています。
猫井川は、兎耳長のさらなる謎に、頭がいっぱいになりつつも、今日の作業を続けていくのでした。
ヒヤリハットの解説
兎耳長は、以前のヒヤリハットのお話で、ボクシングの動きで、吊り荷の激突を避けたことがありました。
その時も猫井川は、ひどく驚いたのですが、今回も驚きがあったようです。
兎耳長さんの過去は、どんなことがあったのか。
今のところ謎です。
さて、今回のヒヤリハットは、ハシゴから落ちるです。
移動式のハシゴは、ありとあらゆる場所で使います。
今回のように掘削穴の出入りにも使いますし、階段のない場所で上下する場合にも使います。
移動式ハシゴも使う場合には、強度の確保や、頭の部分は60センチ以上突き出すなどの注意が必要です。
そして何より、今回のヒヤリハットのように昇り降りする時に滑ってしまうと、落下してする危険があります。
ハシゴや脚立を使用するのは、地面や床からせいぜい数メートルの高さまでです。10メートル以上の高さで作業を行う足場作業と比較すると、低い場所ともいえます。
しかし、高所は高所です。
(※法令上は、地面や床などから2メートル以上が高所です。)
以前、墜落・転落の事故で、1.5メートルの高さから転落して、脳挫傷になったという事例を見たことがあります。
転落では、それが例え2メートル未満の場所からであっても、被害が大きくくなる可能性があります。決して油断することはできません。
兎耳長のように受け身が取れる人は、いないでしょう。
ほとんどの場合は、なすべなく術なく、地面への激突を避けられません。
ヒヤリハット9の猫井川のように、自分の意志で飛び降りた場合は、衝撃への心構えもあり、備えられます。
ところが、全く不意の転落は、気持ちも体も準備できません。
衝撃によるダメージを丸ごと受けてしまい、場合によっては大怪我にもなりかねません。
今回、兎耳長が転落した原因は、泥です。
泥で踏さん(足を掛ける横棒)が滑ってしまいました。
掘削作業などでは、どうしても昇り降りで、踏さんも泥まみれになります。作業中、ハシゴを使用する度に、清掃するわけにはいかないでしょう。
濡れることを防ぐためには、ハシゴを置くなどの工夫も必要ですね。
後は踏さんへの足の掛け方に注意を払うだけでも、滑りにくくなります。
今回のヒヤリハットのまとめ
ヒヤリハットの内容
ハシゴ踏さんが泥で濡れており、滑って転落した。
対策
1.ハシゴは乾いた場所に設置し、足掛けが濡れないようにする。
2.踏さんにすべり止めがついているハシゴを使用する。
3.昇り降りにの際、踏さんはつま先ではなく、足の中心(土踏まず付近)で踏むようにする。
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