ヒヤリハット4 猫井川ニャン、傾くクレーンにヒヤリ!

こんにちは。
私は労働安全コンサルタントという仕事をしております。
今日も無事にただいま というブログの中で、ヒヤリハットを題材とした、小話を書いております。
今回もブログで書いた内容に手を加えたものです。
テーマは、事故タイプでいうと「転倒」未遂です。

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猫井川ニャン、傾くクレーンにヒヤリ!

(株)HHCでは、数ヶ月請け負っていた工事が、ようやく完了しました。
そして今日は、現場の後片付けです。

現場近くの用地をコンテナの休憩所と資材や建設機械の仮置き場として借りていましたか、契約は今月いっぱい。今週中には全部引き上げ、元通りにしなければなりません。

今日のメンバーは、保楠田コン、猫井川ニャン、兎耳長ピョンです。現場のリーダーは、保楠田です。

「それでは、兎耳長さんは重機で、土を均していってください。
 俺と猫ちゃんは、休憩所内の荷物を運び出して、事務所の撤去をやっていきます。
 事務所を運びだしたら、ゴミとかを拾って、終わらせましょう。」

保楠田が仕事の指示を終えると、すぐに作業に取り掛かりました。

兎耳長は、ショベルカーに乗り込んでの場内整備です。
借地の地面は、型の重機やトラックなどが出入りしたので、かなり凸凹の状態で、所々水たまりができていました。これを平らにしていきます。最後には砕石(砂利)を敷き均しです。

保楠田と猫井川は、仮設事務所の片付けです。
仮設事務所の中には、テーブルや椅子だけでなく、ホワイトボードなどもあります。ある荷物を全て運び出してから、建物を運び出します。

「猫ちゃん、まず小物を運び出してから、テーブルとか出していこうか」

保楠田と猫井川は、事務用品を運び出し、トラックに積んでいきました。

事務用品が片付くと、重めの机や椅子を運び出しては、トラックに積み込みして、しばらくすると事務所中が空っぽになりました。

「これで、全部ですね。このトラックの荷物はどうしましょう?」
猫井川が保楠田に訪ねました。

「ここ引き上げるときに、ついでに持ち出せばいいよ。
 とりあえず、休憩しよか。
 兎耳長さんも呼んでくれる?」

そこで、猫井川は兎耳長に合図し、三人で休憩に入りました。

兎耳長の作業も順調そうで、均し作業はほぼ完了し、残りは砕石を敷き均しが残っている程度です。。

「兎耳長さんは、あとどれくらいで終わりそうですか?」

保楠田は尋ねます。

「う~ん、あと1、2時間くらいもあれば、終わると思うけども。
 う~ん、そうだな~、まあ~そんなとこかな。」

いつもの間延びした話し方で、兎耳長は答えました。

「こっちも後は休憩所を積み込むくらいだから、小一時間くらいかな。

 ところで、猫ちゃんは移動式クレーンの技能講習がこの前だったよね。
 ちゃんと受けた?」

「ええ。もちろん、行きましたよ。
 ばっちり資格持ちなので、クレーン使えますよ。」

「それじゃ、積込みやってみる?」

「はい、分かりました!」
猫井川は、元気に返事をしました。

猫井川は、先月に移動式クレーン運転技能講習を受講したばかりなのです。
今までは、玉掛けや周りでの作業しかできなかったのですが、これからはクレーンも使えるようになり、ちょっと得意げなのです。

休憩が終わり、作業を再開しました。

兎耳長は、またショベルカーに乗り、砕石敷きの仕事に戻りました。

「猫ちゃん、俺は兎耳長さんの砕石敷を手伝うから、事務所の積込みお願いね。」

「はい、任せておいて下さい!」
猫井川は返事し、乗ってきたクレーン付トラックに乗り込みました。

今回使用していた休憩所は、大きなものではありません。
そのためこのトラックの荷台に、なんとか載せることができるのです。

休憩所の前には少し段差があり、車をギリギリまで車を寄せられません。仕方がないので、少し離れた場所に配置しました。
アウトリガーを伸ばしていると、遠くから保楠田が大声で叫んでいます。

「猫ちゃん、なるべく車近づけないと、吊れないから気をつけてね。」

「はい、了解です!」

猫井川は、もう一度位置取りを見ましたが、今の位置でも大丈夫だろうと思い、そのまま作業を進めることにしました。

休憩所の屋根に登り、四隅にある吊上げ用のリングにワイヤーを通しました。
屋根の上からリモコンでクレーン操作の開始です。
クレーンのブームを動かし、クレーンのフックにワイヤーを掛けました。
少しだけ、クレーンのワイヤー巻き上げ、バランスを見ます。玉掛けしっかり確認しました。

屋根から降りると、いよいよ本格的な吊上げ作業です。
ややブームが長く伸びているのを見て、車の位置に少し不安に感じました。

しかし今さら、フックを外して、車の位置を直すのも面倒だと思い、
これくらいなら許容範囲だろうと作業を続行しました。

リモコンで操作し、横に寝ているブームを起こしていくと、ウイーンと大きなモーター音がします。

遠くでは、保楠田が作業の手を止め、その様子を見ています。

モーター音は大きくなっているものの、事務所はガタン、ガタンと少し浮き上がっては、落ちるを繰り返しています。
うまく吊上げられません。

「あれ、重いかな?」

休憩所のコンテナ重量は1tもありません。
計算上では十分に吊上げられる重さです。

少しワイヤーを巻上げて、またアームを上に立てていきます。

「猫ちゃーん、大丈夫?」

「大丈夫でーす。」

猫井川は、保楠田に返事をして、再度吊上げました。

その時です。

事務所と反対側のアウトリガーが、ふわっと浮き上がりました。
吊り荷に引っ張られ、車体が斜めになっています。
今は片方のアウトリガーだけで、車体を支えている状態です。

「あ、やばい!」

猫井川は急いで、リモコンを操作し、アームを下におろしました。

ガフンと大きな音がして、車体は水平に戻ります。

あのまま続けていたら、クレーンは転倒していました。
そう考えると、猫井川の背中に冷たいものが流れていきます。

「危なかった。。。」

小声でつぶやくと、

「うん、ちょっとドキッとしたね」

と、背後から声が聞こえました。

いつの間にか、保楠田が側に来ていました。

「いったんワイヤー外して、もっと車を近づけた方がいいね。」

保楠田の声には、怒気もなく、いたって普通です。

「・・・はい。」

猫井川は、素直に従うことにしました。

その後は保楠田の指示の下、猫井川は車体の位置を改め、次はうまく吊り上げることができました。

「まあ、最初は分からないことが多いから、これから経験積めばいいよ」

猫井川のクレーン作業デビューの感想は、保楠田の背中の大きさを感じたのでした。

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ヒヤリハットの解説

猫井川のクレーン操作のデビューは、少しドキッとしたものだったようです。

普段、このような作業もベテランがやっているのを見ると、とても簡単で、自分でもできそうと思ってしまいます。
しかし、いざ自分でやろうとすると、難しかったりするものです。

料理番組を見ていると、料理人が野菜をトントンと小気味よく切っているのを見ますが、これも自分がやってみると、全然うまく行きません。調子に乗って真似をすると、ケガをするのに似ています。

クレーンに限らず、どのような作業も見ているだけでは、カンやコツ、注意するポイントは、分からないものです。

今回の猫井川の場合は、クレーンの配置位置がそれに当たります。

クレーンは、ブームの長さやアームの傾斜角、荷物との車体の距離とで、吊ることができる重さが変わります。この吊り荷重を最大定格荷重といいます。

最大定格荷重は、条件によって変化するのです。
例えば、最大5tまで吊れる能力があるクレーンは、車体の直ぐ側なら最大能力を発揮できます。しかし遠く離れた物であれば、0.5tまでしか吊れません。クレーンの配置は、吊る物との距離も考えなければなりません。

今回吊上げた仮設休憩所のコンテナは、4t車の車台いっぱいのサイズでした。それなりに大きいものです。
ブームの長さは問題なくとも、物の形や大きさによっては、吊り上がった時にバランスが崩れ、負荷がかかってしまうこともあります。

猫井川は、まだこの感覚が未熟だったのですね。

重いものが片側に掛かってしまうと、アウトリガーがどんなに踏ん張っても、踏ん張りきれません。もし、あのまま作業を続けていたら、クレーンは転倒していたかもしれません。

そうなると、大きな事故になります。

今回はとっさに荷物を下ろしたので、転倒には至らなかったですが、目の前でアウトリガーが浮き上がるのを見たら、そうとうドキッとしたはずです。

実は今回のヒヤリハットは、私が目の当たりにしたものです。
現場の仮設事務所を吊り上げた時、このアウトリガーが浮き上がっていました。この時クレーンを操作していた業者の方は、そんな状態でも作業を続行させていましたけども。よくあることなのかな。

危険と思われることに、ヒヤリもハットもしないのは、危険に対しての不感症かもしれません。そんな慣れは、あまりよろしくないですね。

今回のヒヤリハットのまとめ

ヒヤリハットの内容
移動式クレーンで、仮設の休憩所を吊り上げていたら、車体が傾いた。

対策
1.吊り荷と車体の位置を確認し、最適な車体配置とする。
2.定格荷重を検討し、十分な能力がある機械を選定する

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