決意表明
四月五日に始めた小説講座を続けている。この間、三度目の月謝を振り込んだ。自動的に私の口座から引き落とし、とはならないらしく、毎度ATMから振り込んでいる。
しかも、払込用紙に記入しなくてはならない。記入するのは先生の名前や口座番号、金額、私の名前、連作先など。毎回書き、ATMに挿入し、パネル操作をし、金額を投入する。この作業が毎月発生する。
小説は、数枚書いたら送っている。30字×40字の規定で数枚。これをメールに添付し送信すると、大抵その日のうちに返事が返ってくる。
今でこそほぼ白いままで返って来るが、初めたばかりの頃に送り出していた我が子はどれも、可哀想なほど真っ赤に腫れた顔で戻ってきた。
書き、送り、直され、直し、書き進める。数枚を書き、推敲して提出するには、私の場合、最低二日はかかる。残業や家族都合の事態などにより、もっとかかる時もある。半ページや一ページ程度で宙ぶらりんになっている物語に後ろめたさを感じながら、毎日を回していく。
たまにぼんやりしてしまう時もある。執筆途中、推敲途中に、ついつい自分の時間を挟んでしまう時もある。
六月五日、早朝だった。起き抜けにメールをチェックすると、先生の名前が太文字で表示されていた。開くと、数か所に朱が入っていた。指摘を読み、納得する。修正しなくては。
スクロールして一番下まで降りる。最後に朱色の塊があった。私の目は塊の上に貼り付いたまま止まった。
「数枚書かないと提出してはいけないと勘違いしていませんか?下限は定めておりません。一ページでも半ページでも良いのです。『毎日書き続けること』が上達への道」
私はしばらくそのままの格好で停止していた。
毎日書く。どんなに短くても毎日書く。書き続ける。止めない。見捨てない。書く。とにかく書く。
私は毎日書き続けるために、生活を見直した。家事、仕事、就寝などの時間を差っ引いて、起き抜けの時間、昼休みの時間、子供達が寝た後の時間を炙り出した。一塊の時間は数十分間と短いが、ハギレのように縫い合わせれば悪くはないだろう。そうして毎日毎日文章を書いたら、自分の脳は確実に変形していきそうな気がした。
文章に飽きて、ヘナシャンプーやらマッシュルーム料理やらブレスレットやらを検索している場合ではない。線引が必要だ。濃く、太い線引が。
先生の言葉で目が覚めたあと、月謝の払込票は私にとって別の意味を持ち始めた。
先生の名前を書く。私の名前を書く。金額を書く。それは、これから一ヶ月、絶え間なく挑戦するという決意表明書となった。
夜明けに向けて踏み出すように、私は毎月、ATMに決意表明書を挿し込むのだ。
ヘナシャンプー:買わない
マッシュルーム料理:作った
ブレスレット:買う
(あと、漫画に課金はなるべくしない!)
ぇえ…! 最後まで読んでくれたんですか! あれまぁ! ありがとうございます!