SF素人が『三体』に挑戦するよぉ⑥ ~黒暗森林(下)~
圧縮ロフトです。この記事は三体感想記「SF素人が『三体』に挑戦するよぉ⑤」の続きで、同じく二巻(下)の感想を記述していっています。
冷たい方程式
変わって艦隊全滅の報告を受けた章北海。三体艦隊を前に「逃亡主義」を行った北海は三体文明と地球の彼我の戦力差を最も冷静に分析し正しい選択を行ったとして
北海の艦を追うため「水滴」に破壊されなかったアジア艦隊≪藍色空間≫、≪深空≫、北米艦隊≪企業≫、欧州艦隊≪究極の法則≫に自艦≪自然選択≫を加えた五隻の宇宙艦隊総司令の地位を任されようとしていた。
滅亡が約束された地球から戦艦ではあるが唯一恒星間宇宙船に乗り込み脱出を果たした宇宙軍は自らを完結した生存圏「星艦地球」と名乗り地球に向け国家として独立を宣言、人類の種の生存のため移住できそうな惑星へ向けて深宇宙の旅を開始する。
だが宇宙新国家・星艦地球の人員は5,000人程度ではあるものの、目標とする人類移民の希望がありそうなはくちょう座方面の惑星へ向かうには圧倒的に資源が足りない。
すべて理論値通りに節約して向かったとしても6万年かかる。その間に機材も劣化するし最低限の宇宙船の管理者を起こしておいたりする人間の寿命も圧倒的に足りない。現状の資源量では不可能である。
そう五隻の生存圏が判断したのはほぼ同時だった。自分たち以外の四隻の艦をパーツ取りのため乗員すべてを殺害し燃料、装備、艦隊外装、あらゆる予備パーツ資源を奪い取るため暗黒の闘争を開始したのだった。同じ地球人類を、である。
≪自然選択≫で超低周波水爆の引き金を引こうとしたのは北海だったが、わずかな躊躇によりそれが遅れ≪究極の法則≫より飛来する12発の超低周波水爆を浴びることとなった。
ベ、北海~~~~~~~~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!!
しかしその≪究極の法則≫も≪藍色空間≫のガンマ線レーザーを浴び沈黙、企業、深空も全乗員が殺害され暗黒の生存競争を勝ち残ったのは≪藍色空間≫であった。
人以外のすべての資源を回収し船外まで資源を取り付け不格好なバックパッカーさながらとなった≪藍色空間≫は、すべてを受信していた地球からの罵倒と呪詛に一切応えることなく移住のための恒星へ向け宇宙の闇に消えた。
太陽封印
地球でこの惨劇のニュースを知った羅輯は星艦地球からの暗黒の新人類誕生をヒントに葉文潔から伝授された宇宙社会学の知識の真髄に到達する。
一方地球連合艦隊2011隻を全滅させた「水滴」はその後さらに加速、地球に到達するやいなや目下の仇、羅輯を攻撃するのかと思いきや、ラグランジュポイントに陣取り、強力な電磁波を太陽に向けて放射し250年前に葉文潔が行ったような太陽を増幅器として全宇宙にメッセージ電波を発する手段を封じるという手に出たのであった。
面壁者・羅輯(再時)
何よりも三体人は地球人の太陽増幅メッセージが怖い。そのことにより宇宙社会学の真髄のさらなる確信を得る羅輯だったがここで一巻のラストのほう(作中時間では2世紀前)でまさしく羅輯が太陽増幅メッセージで放ったとある「呪文」が効果を発揮していたことが分かる。
羅輯は200年前惑星防衛理事会および全世界に「とある星に実験的に呪いをかけ破壊する」としか説明をしておらず、相棒である史強に「(呪文を放った)当時の僕はパラノイア状態にあった」などとのたまい結果のなかなか出ない手法に不安になっていたが
さまざまなプレッシャーなど強烈な負荷により超越的な発想を産み出す科学者のようなゾーンにはいった羅輯が宇宙社会学の端緒を掴み開眼していたのである。そして編み出した「黒暗森林仮説」により地球より遥か離れた恒星187J3X1を面壁者として発動したそのただの呪文一つで破壊してのけたのであった。
安心して下さい、あなたが読んでいる記事はSF「三体」の感想ですよ。ハイファンタジーではありません。面壁者は基本、戦略意図を地球人類側にも隠さねばならないため羅輯がこう表現しているだけでちゃんとSF的な理由がありますし、マジで一回聞いただけではさっぱり意味が分かりません。
それこそが「黒暗森林仮説」なのですが、たった一人の人間が惑星破壊を行えたことが観測で明るみになった結果により国連面壁計画委員会、要するに全人類一致で羅輯はただ一人の面壁者として指名され、この2世紀であらゆる資源と希望を失った地球を救うため再び最前線に立ち三体文明との戦いに身を投じることとなる。
フェルミのパラドックス
三体2下の終幕で地球・羅輯と三体文明の戦いには決着がつくがこの黒暗森林仮説は三体作者である劉慈欣が当作で披露した理論のようで、
あとがきによると三体の世界的な人気により北京の街角でそこらじゅうの若者に「フェルミのパラドックスに対する最も合理的な解釈は~~~?」と質問すると
ハリウッド映画のCMに出てくる陽キャのノリで「黒暗森林仮説~~~~~!!!」という答えが返ってくるそうです。本当かよ。
日本語では「暗黒森林理論」と訳され呼ばれる事があり、三体の注目によりにわかに注目を浴びた仮説で現在表記ゆれが激しく、「黒暗森林理論」、「黒暗森林仮説」、「暗黒森林仮説」など呼び方が存在している。
ややこしいのでこの記事では羅輯に倣って「黒暗森林仮説」で統一して呼称する事にしよう。
この理論もちろん私も当作で初めて聞いたのですが、羅輯の説明が難しすぎてさっぱり分からず同じところを3周くらいしてようやくおおまかな話を理解した。ちょっと関連記事が多すぎて探しきれなかったのだが、もしこの理論が前々からあるもので、充分知っている人が本を読んだとしたらさらりと理解できるのかもしれないが、間違いなく三体の中で最高難易度の読書ポイントでしょう。
前提としてこの項目のタイトルとしている「フェルミのパラドックス」を知っている必要がある。
SFではよくテーマに挙げられるようなのでこの記事を読もうとするような人に改めて書き連ねるのは非常に申し訳ないが、
「宇宙ができてからの時間を考えれば地球人以外の宇宙人がいてもマジおかしくないのにウチらがその痕跡すら見つけられないのって変じゃね?」という1975年頃にエンリコ・フェルミが提唱したものだ。
黒暗森林仮説はこれに対する様々存在する考察の一つで、
全く違う発生を果たして全く違う過程を経て宇宙進出まで果たした知的生命体がいたとして、コミュニケーションを取ろうにもお互いの善意と悪意の尺度を全く理解することができず信頼関係を築くことは不可能であるという推論だ。
たとえば我々人類は魚から進化した炭素系生命体だが、岩塊から知的生命体まで進化したケイ素人間が宇宙に存在したとしたら相手の正義を分かりっこないだろう。
挨拶の方法も全く違うかもしれず片手をあげてにこやかに「こんにちは」と発声したら相手にとっては最大級の侮辱にあたるかもしれない。
このような理解しあえない相手とはいつ戦争に発展するか分からずまた相手の科学力によっては一撃で絶滅、はては恒星ごと消滅させられるかもしれない。このように宇宙に出られるほどの技術、思考力を持った生命体がいたなら
よく分からない宇宙人を見つけた場合自分達の生存のために相手を即消滅させてしまう、また逆に遥か格上の文明の存在の可能性を考え絶対に攻撃対象とならないよう
「私達××星人はここにいるよ!」というようなメッセージは出さず沈黙、自身の科学力を用いて全力で惑星座標を秘匿するであろう、ゆえに地球は宇宙人を見つけられないのだというのが黒暗森林仮説なのである。
憚りなく自分の感想を言ってしまうとこの黒暗森林仮説、いかにも中国人的だな、という思いを抱きました。これは性悪説の理論であり、言ってることは分かるのですが
インターネット怪談の八尺様やクトゥルフ神話の暗黒神も萌えカライズしてそれを受け入れてしまう日本人の感覚からだと「ほんとにそうか?」って感じです。
「たくさん類人猿がいたのにぼく達ホモサピエンスしか生き残っていないのはなぜなの?」という問題の有力仮説とした方が合っている気がします。
おわりに
さてこのように「三体Ⅱ 下 黒暗森林」はこの宇宙人の存在痕跡に対する矛盾へのアンサー「黒暗森林仮説」で決着がつくのですが、
フェルミのパラドックスで羅輯はどうやって187J3X1星を破壊してのけたのか?この理論だけで一体どうやって智子を作れてしまうような科学力で地球のはるか上を行く三体文明と戦うのか?
それはぜひ君自身の目で確かめてみてくれ!!!
…………「三体Ⅲ 死神永生」感想記でまたお会いしましょう。