入れ墨とイカ墨と 連濁の不思議 なぜ「いかずみ」と濁らないのか
こちらのジムに来ている人のかなりの人が入れ墨(Tatoo)をしています。
「入れ墨の人、お断り」としたら潰れるだろうな、こちらのジムは。
そんな入れ墨の人たちと一緒にジャクジー浸かりながら考えていたのは、
「いれずみ」は「zumi」と濁るのに、「いかすみ」は「sumi」と濁らないのはなぜだろうということでした。
いわゆる「連濁(れんだく)」の話です。
言葉が二つつながるときに、後ろの単語の語頭が濁音化するというものです。
入れ墨は濁る、イカ墨は濁らない。いや、イカ墨は真っ黒ですよ。どうして?
「イカ墨(イカの墨)」は「たぬき汁(タヌキの汁)」と同じ構造でしょうから、「イカ墨」が濁らないのに「たぬき汁(じる)」が濁るのは変な感じです。
Wikipediaによると『江戸の後期頃になると、罰としての「入墨(いれずみ)」(烙印)と「彫り物(ほりもの)」(芸術表現)とで呼称を分けて、そこでの意味を区別する風潮が生じていた』 ということで、「入れ墨、入れちゃったよーん(入れ済み)。 犯罪者の烙印おされちゃったよーん」 と言うことだったのかも知れません。
あるいは、「ずみ」と濁るのは「済み」が多いことから「イカズミ」と濁った場合に「異化済み」などと受け取られることを避けるために濁らなかったのでしょうか?
友だち何人からかコメントいただきました。
(コメント1)
入れ墨だとヤクザな感じがするのに、Tatooだとオシャレな気がする
>>文科省の指導で「ずみ」「づみ」は同じ発音とされていますので、「いれずみ」「いれづみ」「入れ罪」の連想が働くのかも知れません。
(コメント2)
「いれすみ」だと毒気が抜けます
>>その関連で、「うわずみ」より「うわすみ」の方が澄んでいるなと思いましたが、実際には、「うわずみ → 上澄み」「うわすみ → 上隅」「うわづみ → 上積み」のようです。
そうした中での一番のヒットのコメントは
(コメント3)
汁は濁る、墨は濁らない、という事なのでしょうか
>> たしかに既に真っ黒なので、濁りようが無いと… いや、違うでしょ!!
ということで、引き続き悩みます。
「いれずみ」は連濁が起きるのに、「いかすみ」は起きない。 なぜだろう。
AI (Copilot)に聞いてみたら、
連濁が起きるためには、前後両方の言葉が和語である必要がある。イカは漢語だから連濁が起きない。
え!? イカって和語では無いの?
ネット検索すると「イカ」の名前の由来もいろいろ出てきて収拾が付きません。。
これだと 「汁は濁るが、墨は濁らない」というのが正しそうな。
では、「墨」が連濁するケースがあるのか調べてみようと思ってAI(Copilot)に聞くと、相変わらずとんちんかんな答えが返ってきます。質問の仕方が悪いのかも知れません。
仕方ないので、オンライン国語辞典の後方一致検索を使います。
私はgoo のサービスを使っています。便利です。
「~で終わる」単語を調べます。
墨(ずみ)と濁る単語は存在しないのかなと思っていましたが、いっぱいありました。
墨の色にかかるものが多かったです。赤墨、藍墨とか。
そんななかで目に付いたのが、薄墨(うすずみ)。
おぉー、「薄墨桜(うすずみざくら)」ってあるじゃないかい。
しかも、これは「にせたぬきじる」問題を思い出させる。
「にせたぬきじる」と「にせだぬきじる」の問題。
このふたつの意味の違いを、日本人はすぐに分かるよという話。
連濁が起きる条件として、「うしろの単語に濁音が入っていないこと」というものがあります。
よって、
「にせたぬきじる」 = 「にせ+「たぬき+しる」」 たぬき汁のニセモノ
まず、「たぬきじる」ができあがり、その後に「にせ」を付けますが、「たぬきじる」の中に既に濁音があるので「た」が濁音化しません。
これに対して、
「にせだぬきじる」 = 「にせ+たぬき」 + しる」 「にせタヌキ」の汁(しる)
まず「にせだぬき」ができます。「た」が連濁で濁音化します。
その次に、「にせだぬき」と「しる」をつなげる際に、「しる」が濁音化して「にせだぬきじる」となります。
話を墨に戻すと、ひょっとしたら、連濁しにくい単語、しやすい単語があるのではないかと思ったのでした。
たとえば、「人殺し」の「殺し」は濁ります。(日本酒の「鬼ころし」が連濁しないのは謎ですが)
ここでは、「見殺し」「熊殺し」などの勢いで「アリゲーター殺しの犯人」となったときでも、「ごろし」と濁っていると思います。
「イカ墨」では前半が和語ではないからと理屈をつけていましたが、「殺し」については前の語に関係なく濁りそうな気がします。
と思いついたきっかけは、最近の私の「ストレス太り」
見るからに外来語の「ストレス」が頭についていますが、「ぶとり」と濁ります。
「ちゅうねんぶとり」も濁ります。中年は和語ではなさそうに見えます。
ということで、連濁はなんとなくのルールとたくさんの例外でできているのですが、連濁しやすい単語、しにくい単語があるというのは発見のような気がします。
連濁については、大津由紀雄「探検!ことばの世界」(ひつじ書房)に詳しいです。オススメです。
そもそもこの法則を日本人ではなくドイツ人のライマンさんが発見したというのも面白いです。「ライマンの法則」とも呼ばれているらしいです。