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当てはめで点数を伸ばす31の方法
前提として、目的と手段を間違えない
最近この司法試験、予備試験業界では特に当てはめが重要という流れが大きいです。 それの一番の原因は、過去問の累積により試験が研究されていることで、予備校教材、一般の基本書のレベルが上がってきているため、求められている法律構成で答案を書けている人が多くなってきていることが考えられます。
これまでは法律構成自体で点数の差がついていましたが、法律構成自体で点数の差がつかないとなると、その中の当てはめで点数の差が出るようになるというのは、自然な結論だと思います。
もっとも、司法試験、予備試験は実務家登用試験であるため、法律知識を試すということよりも、法律をうまく使って事案を処理できる能力を試されている面が大きくなってきている気がします。 事案の処理能力を試すとなると、規範定立までよりも、当てはめ部分にその能力があらわれるため、そこに配点が多く割り当てられているであろうことも納得できます。
また、法律構成自体は記憶中心の勉強でカバーできるものが多いですが、当てはめ部分に配点を大きくすることで、その人の現場での思考力や適用力を測ろうという狙いがあると思われます。
しかし、当てはめで点数を伸ばすというのはあくまでも手段にすぎないので、結果として全科目の合計点で合格最低点を超えることができれば、当てはめにこだわる必要はないということは心にとどめておいた方が良いでしょう。
知識だけでなく、スキルにする
実際に当てはめをどうすれば、点数が上がるのかという情報は他にも多くあると思います。 しかし、ただ良い当てはめをしようと思っただけでは、試験の当日に思うような当てはめをすることは難しいです。
論証はどちらかというと知識に近く、知っていればそのまま答案に書くことができます。 しかし、当てはめは知識よりは、スキルに近くて、ただ知っているだけでは、当日に実力発揮が難しいものです。
水泳で例えると、どれだけ泳ぎ方の知識があっても、実際にプールに入って泳ぐことは難しいはずです。 実際にプールの中で試行錯誤して、体を動かしながら、泳ぎ方を覚えない限りは、その知識をスキルに変えるところまで練習しない限り、有効に使うことができません。
当てはめも、実際に問題に対して自分が思考錯誤しながら、当てはめをやることによって、うまくなりスキルになるものです。 ただ、やみくもに練習するよりは、効率的な練習をした方が、成果が出やすいので、この記事では、どんな練習をすれば、スキルに変わりやすいのかという視点での方法も多く取り入れています。
また、どんなにしっかり準備をしていたとしても、試験当日は全く予想もしない問題が出たり、過去問とは違う形式の問題が登場して、動揺して普段通りの実力が出しにくい人がほとんどだと思います。
このような状況の中では、当てはめを意識して書けるのではなく、無意識に書ける状態にまで高めて、自分のスキルになっているレベルにしておくことで、本番で少し動揺したとしても、普段と同じ答案を書ける可能性が高くなります。
この記事は方法を多数書かせていただいていますが、これを読んだだけ少しは点数が上がるかもしません。 しかし、何度も練習しなければ、思ったようには点数は伸ばせないと思うので、読んで満足せずに、普段から何度も何度も反復していただき、点数を伸ばして、合格をつかみとっていただきたいと思います。
では、以下当てはめ自体で点数を伸ばす方法を書いていきます。
書いている方法は、あくまでも私個人がこうすれば、点数が伸びるのではないかという予測に基づくものです。 採点基準が明確に公開されていないため、これをすれば確実に点数が伸びることを保証するものではないことはご了承ください。
方法1: 正解筋の法律構成を目指す
当てはめを重視するばかりに、法律構成への意識が薄くなり、出題趣旨とは違った法律構成をしてしまうことはよくあります。
司法試験では、誘導があったり、事実の量が多かったり、正解筋がわかりやすかったり、違う法律構成でも間違いではなかったりと、法律構成で勝負が決まらない部分が大きいです。
一方で予備試験では、法律構成から間違えてしまうと、規範も正しくないので、いくら当てはめで頑張ったとしても、低い評価にとどまってしまう可能性が高いです。
当てはめだけに力入れれば良いのではなく、正しい法律構成ができていることを前提に、当てはめは点数を伸ばすという意識をもった方が良さそうです。
法律を使って問題を解決するための能力が試されているため、そもそもの法律構成が違ってしまうと、いくら当てはめで頑張っても妥当な結論を得ることが難しいことも評価が低くなる原因となるでしょう。
民事系科目では、どの法律構成で書けば良いのか迷う問題が出題されやすいですが、刑事系科目では、法律構成はある程度わかり、当てはめで差がつきやすい科目です。 そのため、民事系科目では当てはめを頑張ったとしても思っているよりは点数が伸びない可能性があるため、刑事系科目についてまずは、当てはめの力を伸ばすことがお薦めです。
方法2: 書く量を多くすることを目指す
方法1で書いたように法律構成の方向性を間違えていないことを前提にすると、当てはめ部分の答案に書く分量を多くすることが基本的な目指す方向性です。
この記事で紹介する方法も、基本的には書く量を多くするための視点から挙げているものが多いです。
刑事訴訟で、「疑わしきは被告人の利益に」という言葉がありますが、司法試験や予備試験の採点においては、「疑わしきは受験生の不利益に」解釈されると思って答案を作成した方が良いでしょう。
論文式試験は、口述試験ほど本当に理解ができているかを深掘りして聞くことができないため、答案に書いてあることでしか評価がされないです。いくら頭の中で理解していても、それが答案に書かれていなければ点数が加算されることはないと思います。 そのため、できるだけ多くのことを書いておくことで、点数が加算される可能性を高めておくことができます。
おそらくこの試験は点数は加算方式であると考えられていますが、間違ったことを書いてしまうと、減点される可能性がゼロではないので、多く書くことを目指しても、明らかに間違ったことは書かない方が良いでしょう。その点については、理論面のところでは間違ったことを書いてしまうリスクは高いですが、当てはめ部分は、理論面と比較して、間違ったことを書きにくいので、書く量を多くすることのリスクは低いです。
では、次の方法から、より具体的な当てはめで点数を伸ばす具体的な方法について書いていきます。
方法3: 全要件を検討する
多くの人がイメージする当てはめは、要件や、規範の検討の中で事実を評価する部分をいう認識だと思います。
意識されていないこととして、要件を検討しているかという問題があり、これも含めて当てはめにあたります。
要件が5つあった場合に、3つしか検討していない場合、その3つでいくらよい当てはめをしていたとしても、全く点数が入らない可能性があります。それは、法律が、要件を全部充足しないと効果が発生しないので、検討していない要件があるということは、法律家としての資質を疑われることになってしまうからです。
要件の当てはめが漏れる理由としては、条文の全要件を検討するという意識よりも、どうしても論点に目がいってしまっており、その論点に関係する要件しか検討していない場合が多いのではないかと思います。当たり前に認められる要件でも、論点となる要件であっても、1つでも要件を充足しないと効果が発生しないので、どちらも重要なので、必ず全要件を検討しましょう。
他に要件が漏れる原因としては、民法や会社法では、ただし書きなどの要件事実だと抗弁にまわる例外の要件についても検討が必要になるので、そのような要件の検討を漏らすことが考えられます。 これに対しては、実体法では抗弁になる要件も合わせて、全要件を検討する癖をつけることが大切です。
具体例: 論点以外の要件検討が漏れてしまう場合
会社法423条1項による役員等への損害賠償請求をする場合に以下のような答案が論点以外の要件検討が漏れている答案です。
1 A社からBに対して、423条1項による損害賠償請求をすることが考えられる。 その際に「任務を怠った」といえるかが問題となる。
(1) 「任務を怠った」とは、取締役と会社の関係が委任契約であることから、善管注意義務(330条、民法644条)もしくは忠実義務(355条)に違反した場合をいう。
(2) 本件では、Bは、直接取引(356条1項2号)をしたにもかかわらず、取締役会の承認を受けていないので、356条1項に反するという法令違反があるので、忠実義務違反があったといえる。
(3) したがって、「任務を怠った」といえ、A社からBに対して損害賠償請求が認められる。
この答案では、論点となっている「任務を怠った」という要件しか検討ができていないです。 本来であれば、以下のように全ての要件を検討することが必要です。
1 A社からBに対して、423条1項による損害賠償請求をすることが考えられるため、要件を満たすか検討する。
(1) Bは代表取締役なので、「取締役」にあたる。
(2) 「任務を怠った」とは、取締役と会社の関係が委任契約であることから、善管注意義務(330条、民法644条)もしくは忠実義務(355条)に違反した場合をいう。
本件では、Bは、直接取引(356条1項2号)をしたにもかかわらず、取締役会の承認を受けていないので、356条1項に反するという法令違反があるので、忠実義務違反があったといえる。
したがって、「任務を怠った」といえ、A社からBに対して損害賠償請求が認められる。
(3) この任務を怠ったことに「よって」、「株式会社」であるA社は、100万円という「損害」が「生じた」といえる。
(4) Bが任務を怠ったことについて、帰責性が認められる(428条1項反対解釈)
(5) したがって、423条1項による損害賠償請求が認められる。
「任務を怠った」以外の要件にも配点がある可能性が高いので、要件検討が漏れている答案では大幅に点数を落すことになってしまいます。
具体例: 抗弁事項の要件検討が漏れてしまう場合
民法423条の債権者代位権による請求をする場合の要件事実としては、1項本文の①「自己の債権を」(被保全債権の存在)、②「保全するため必要があるとき」(保全の必要性)、③「債務者に属する権利」(訴訟物の権利の発生原因事実)の3つだけを主張するば良いです。
しかし、民法の問題として検討する場合は、抗弁にまわる④債務者が権利行使をしていないこと(書かれざる要件)、⑤「一身に専属する権利」でないこと(1項ただし書)、⑥「差押えを禁じられた権利」ではないこと(1項ただし書)、⑦「期限が到来」していること(2項)、⑧「強制執行により実現することのできないもの」でないこと(3項)までを検討しなければならないです。
要件事実の勉強が進んだ人が意外と抗弁の方の要件を落したりすることがあるので、そこは注意が必要になります。
方法4: どの規範への当てはめをしているかを明確にする
当てはめをする上で意識しなければならないのは、どの規範に対する当てはめをしているのかを見失わないことです。
規範を立てずにいきなり当てはめをしてしまうことがあるかもしれませんが、それの多くは普段からどの規範に対する当てはめをしているのかを意識していない可能性があります。
常に今自分が規範のどの要件のあてはめを意識するようにすれば、当てはめが規範に一致していると受け取られる可能性も高いですし、三段論法が崩れていきなり当てはめに入るということも防ぐことができます。
規範への当てはめを意識できていない場合として、自分の立てた規範に対する当てはめができていない場合だけではないです。 条文の要件を検討しているときにも、どの要件の検討をしているのかが不明瞭な場合もあります。
具体例: 自分の立てたどの規範への当てはめかが意識できていない場合
1 AのB社への1000万円の出資の履行が仮装振り込みにあたらないか。
(1) 仮装振り込みにあたるかは、①出資から借入金を返済するまでの期間、②払込金が運用された実績、③借入金を返済することの会社運営への影響を総合的に考慮して判断する。
(2) 本件では、AはC銀行から1000万円への借入をしてB社へ出資をして、B社はAに対して1000万円を貸し付け、AはC銀行に1000万円を返済している。
(3) したがって、仮装振り込みにあたる。
上の場合は、当てはめの中で、どの規範に当てはめているのが良く分からず、事実を書いただけになってしまっています。
1 AのB社への1000万円の出資の履行が仮装振り込みにあたらないか。
(1) 仮装振り込みにあたるかは、①出資から借入金を返済するまでの期間、②払込金が運用された実績、③借入金を返済することの会社運営への影響を総合的に考慮して判断する。
(2) 本件では、AはC銀行から1000万円への借入をしてB社へ出資をして、B社は、出資直後にAに対して1000万円を貸し付け、AはC銀行に1000万円を返済している(①)。 出資直後に貸し付けを行っているため、出資された1000万円が運用された実績はない(②)。 B社はAが出資した1000万円のみが資本金であるため、1000万円をAに貸し付けてしまうと、実質会社の運転資金がなくなり会社運営への影響が大きい(③)。 これからを総合的に考慮すると、Aの出資の履行は、仮装振り込みにあたる。
上記のどの規範の当てはめかが意識できている答案では、自分の立てた規範のどの部分への当てはめかが明確に意識できているため、的外れの当てはめをすることがなくなります。
具体例: 条文のどの要件への当てはめかが意識できていない場合
1 Aは、BのCに対する売買契約に基づく代金支払請求を、Bに代位して行うことが考えられるが、認められるか。
2 本件では、AはBに対しては、100万円の貸し付けをしているため、Bに対して債権を有するから、他に資産のないBのCに対する売買契約に基づく代金支払請求を、Bに代位して行うことが認められる。
1 Aは、BのCに対する売買契約に基づく代金支払請求を、Bに代位して行うことが考えられるが、認められるか。 423条の要件を検討する。
(1) 本件では、AはBに対しては、100万円の貸し付けをしているため、Bに対して「自己の債権」(同条1項本文)を有する。
(2) Bは他に資産を有していないので「保全するため必要があるとき」(同条1項本文)にあたる。
(3) BはCに対する売買契約に基づく代金支払請求を有しているから、これは「債務者」であるB「に属する権利」といえ、「債権者」であるAは、まだBがこの権利を行使していないため、この権利を「行使することができる」(同条1項本文)。
(4) この代金支払請求権は、「一身に専属する権利」でなく「差押えを禁じられた権利」でもない(同条1項ただし書)。
(5) また、「強制執行により実現することのできないもの」でもない(同条2項)。
(6) したがって、423条の要件を満たし、 AはBに代位して請求することができる。
このように、どの事実が条文のどの要件への当てはめなのかを明確にすると、自分の当てはめを適切に行えるだけでなく、採点者にも読みやすい答案となります。
以下有料記事となります。
目次でほぼ方法はご紹介しているので、それを実践していただくだけでも十分に効果があるかと思います。
有料記事部分では、方法の具体例を紹介、解説しているので、必要な方は有料記事のご購入をしていただければと思います。
方法5: 規範、具体的事実、事実評価、法的評価を区別する
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