神戸市営地下鉄がタッチ決済に対応したので試す
去る24年4月11日、神戸市営地下鉄を始めとした市内複数の交通機関で、一斉にクレジットカードのタッチ決済乗車(EMV乗車)が可能になりました。
元々関西圏には、主要10社共通の交通系ICカードと同じ規格で、料金あと払い方式の「PiTaPa」が存在します。今になって、同じあと払いの異なる乗車方法を取り入れたところで…という気持ちもしますが、これは24年夏に、地下鉄沿線の総合運動公園が会場となる「世界パラ陸上」に備え伴い、多数の外国人観光客が利用することに鑑みた方策なのだそうです。
元々こんな記事を書くつもりはなかった
地下鉄沿線に住まう者として、「乗車方法が増えます」という今回のEMV対応は、かなり大きなニュースに見えました。
いくら同じEMV対応業者を選定している他社が既にあったとしても、さすがに誰か試しているだろう、そしてレポートとしてネットの海に感想を撒いている人のひとりくらいはいるだろう…と思っていたら、調べる限りありませんでした。ので、私がその第一人者になってやろうと思います。
事前登録は不要だが任意
カードそのものが手元にあれば、事前登録の必要なく誰でも利用できます。
が、今回のこのEMVシステムは、カード本体に情報を書き込む従来方式ではなく、サーバーで情報を全て管理する方式となっています。したがって、カード単体では利用履歴を確認することができません。
利用履歴を確認するには、そのサイトにカード情報を登録する必要があります。
私は乗車に先立って登録しておきましたが、別に登録したところで利用履歴が参照できるだけなので、後でも構わないし、しなくてもいいです。
いよいよ乗車
さあ、市営地下鉄 西神・山手線 湊川公園駅へやってきました。
改札口や改札機には、特にタッチ決済対応とか宣伝している雰囲気は感じられません。本当にEMVに対応したのでしょうか?
…と、斜に構えながら観察していると、何やらゴツい機械が付いているゲートを発見。
これだ!これが噂の(?)EMVタッチ部です。全部の改札ではなく、幅の広い改札にのみ用意されています。
実はこのゴツい部分、元から改札機がこんな形だったのではなく、EMV対応のために後付された機器なのです。シールでタッチ部が隠されていましたが、今はこのように近未来的な雰囲気を放っています。
普段通り通れた
のですが、先述の通りサーバー管理型のためか、1秒ほど通信に時間を要し、その後「ピロロ〜ン♪」と鳴り通れるようになりました。ものすごく独特な音です。通常カードの「ピピッ」ではありません。
と、先程登録したポータルサイトを見てみると…
入場時点で、記録がしっかり乗っていました。
比較として、モバイルICOCAでは、乗車が完結しない(=乗る→降りるが対にならない)限り、利用履歴には情報が反映されません。
この点、今回のポータルサイトはいい仕事をしているというか、透明性が高いなと思います。
総合運動公園に到着。ここは幅広改札が2台あり、両方にEMV機器が備わっていますが、1台は入場専用となっています。
改札にタッチし、無事通過。履歴はこのように更新されていました。
サーバー管理型だからなのか、利用金額はすぐに分かるものの、課金はすぐにはされていません。
(デビットカードを使ったので、課金されればすぐわかります。2時間経つが未だに無い)
※4/15追記 次の日の朝7時前に引き落とされていました
通常のICカードのように、入場の取り消しもできます。取り消したという記録も上記のように反映され、ご丁寧に時刻表示までしてくれます。
すべての記録に時刻が載るというのは、通常のICカードでは中々ありません(直前の操作に対してのみ記録される)から、その点はEMV利用に軍配があがりそうです。
改札機の動作は、正常通過時の効果音だけは異なるものの、その他は特にEMV利用だからといって変わることなく、磁気投入口が閉まる「パチッ」という音も健在。エラーならエラーと表示され、ゲートはしっかり閉まります。 通常のICカード利用と同じと言えそうです。
マニアックな視点
そのほか、気になったのは係員さんの所作です。
通常のICカードを係員操作で処理するには、読取り→操作→書込み と、最低でも2度タッチが必要とされています。
しかし、EMV利用の場合は、係員さんは最初の読取りだけして「はーい大丈夫ですよ〜」と読み取り機を引っ込めてしまったのです。
よく見ていると、その後の操作が全て係員端末で完結していました。
具体的には、運動公園で用を済ませ、自宅近くの駅に帰ってきたところ、1台しかないEMV対応改札が、保守作業のために通れなかったのです。そのため、窓口で出場したいと申し出ました。
読み取り機が現れ、タッチしてくださいということで、タッチします。その後すぐに「大丈夫ですよ〜」と言われてしまったので、処理は??と思いながらその後の操作を見ていると……
「出場」らしきボタンを押し、「完了しました」画面が現れたのです。
これが通常カードなら、処理に対する書き込みが必要なので、もう一度タッチで書き込ませるところ、サーバー管理型なので、一度読み取ればその後の処理はサーバーとのやり取りになり、カードそのものは関係なくなる、という仕組みなのでしょう。
正直びっくりしました。サーバー管理型であるために、通常カードと作法が大きく違うのです。
利用者にも、従事者にも、サーバー管理型のメリットを大きく見せつけるタッチ決済乗車。
これまで全国的に課題があるとされてきたこの乗車方法、ようやく実導入にこぎつけ、他地方でも広まりを見せています。今後の交通決済の発展を願ってやみません。
【4/13追記】
同じカード番号でも媒体によって別物と判定される
後日、EMV利用を試した知人から感想を聞いていると、「モバイルで利用した」という発言がありました。
確かに、携帯電話にNFCが備わっていれば、クレジットカードとしてのサービスを利用することができ、当然このEMV改札も通過できることになります。
私の携帯には、板カード(前内容で試したもの)と同一番号のカードを登録しており、財布をかばんの奥底にしまってすぐに取り出せないときなどで使い分けています。 同じカード番号ですから、板カードでの利用も、モバイルでの利用も関係なく、同じ口座の履歴に反映されます。
では、同じカード番号ならば、媒体が違っても、同じEMV利用として、同じポータルサイトの履歴に反映されるのでしょうか。試してみました。
追記日(4/13)の名谷入場を、板カードでなくモバイルで記録しましたが、同じ履歴に反映されていました。
しかし、窓口で4/12の履歴が見れるか確認してもらったところ、「ありません」という返答が。
日付が変わっただけで履歴が見れなくなるというのは到底ありえませんから、駅窓口とポータルサイトで、カードの識別方法が異なるのかもしれません。
近距離通信カードには、「IDm」「UID」などという、固有の番号が振られています。
これは、交通系ICカードの裏面に記載されている「JW801…」などとは全く異なるもので、カード本体にそもそも表記されていない隠れ番号になります。
たとえ紛失しようが、違うカードに同じ番号は振られないため、技術的には通信対象となるカードを識別するために使用することが多いようです。改札機で2枚以上のカードをかざすと「枚数超過」エラーとなるのは、この識別番号が同時に2つ読み取れてしまい、通信対象が一意に絞れないためとされています。
板カードとモバイルでは、当然この識別番号が異なります。
サーバーではこの識別番号とカード番号を両方格納しており、窓口処理の段階ではその識別番号のみ読み取ってサーバーに照会、係員端末に履歴を表示しているようです。
さらに書込(入場、出場など)があると、識別番号まで送信しているかどうかは不明ですが、カード番号を送信、サーバーで紐づけてポータルサイトに統合された履歴を表示しているのかもしれません。新たな発見でした。