お風呂で変態を見る
変態の意味をネット辞書で検索してみますと、いくつかありますが、こういう意味があります。
大辞林 第三版の解説
( 名 ) スル
①形や状態が変わること。また、その変わった形や状態。 「主権より民主政治に-するに於て/民約論 徳」
②「変態性欲」の略。また、その傾向のある人。
③動物が成体とは形態・生理・生態の全く異なる幼生(幼虫)の時期を経る場合に、幼生から成体へ変わること。また、その過程。
④植物の根・茎・葉などの器官が本来のものと異なる形態に変わり、その状態で種として固定すること。捕虫葉・葉針・気根・巻きひげなど。
⑤ 〘物・化〙 同じ化学組成をもちながら、異なった物理的性質を示す状態または物質。特に、単体の場合は同素体、結晶の場合は多形ともいう。また、有機化合物が化学組成を変えずに原子・原子団の位置の変化で別の状態・物質に変わること。転位。
はい、今日は③の話です。
なので別になんか②的な面白い話では一切なくて、セミの話ですので、タイトルで1ミリでもワクワクした人は申し訳ないような、いやなんというか、そういうの期待したほうが変態なんじゃないかというか。それはさておき。
サウナにいっておりまして、福知山市のロイヤルヒル福知山というホテルの日帰り温泉がサウナがついておりまして、外に水風呂がついていてこれがまたなかなか素晴らしいのでございますけれども。
今日はお月さまも明るくてとてもいい夜だなあ、気持ちがいいなあと水風呂に浸かっており、いつものとおり休憩を取るべく頭から水をかぶろうかなと思ったとき、ふと見上げると、外にある水風呂のお風呂の柱にセミがくっついています。
「こんなところに抜け殻かぁ、なんか面白いところで脱皮したもんだ。。。あれ、中身出てる。。。っておおおお、いままさに変態途中かよ!!!」
まさにこんな気持ちで。おやまあ。。。また珍しいものを、珍しい場所で、珍しい時間に見せてもらえたものだなあと思ってしばらく眺めていました。
すでに頭は出ていて、身体の3分の1くらいが茶色い皮膚から抜け出て、今からセミの脱皮らしい反り返る脱皮シーンに移ろうとしていました。
小刻みに身体を震わせて、樹液を吸って生きるだけの8年間のうちでここまで真剣に力を出したことがあるだろうかと思うほど頑張って、自分の身体を古い殻から抜け出すように取り組んでいました。
「8年ちょいのセミの一生におけるクライマックスは、ここ、もしくは交尾を求めての鳴き喚くとき、または交尾そのもの、はたまた出産か・・・。」
生存本能とはすごいもので、彼らは生まれたときから運命的に樹液を得られるすぐそばに産み落とされて、意味など知らず、考えることもなく、樹液をすぐ吸い始めて命を育てていきます。そしてどんどん深い根っこのほうで、安心して樹液を吸って身体を大きく育ててから、天敵にみつかりづらい夜間のうちに土から這い出て、木の上で脱皮をして、交尾の相手を求め、子孫を残して死んでいくことをただひたすら続けていく。その役割を果たす。
誰も頼んでないし、教えてないのに、セミの生態に刻まれた生存本能そのままに生きて、ただ死んでいくなかでの当たり前の営み。
生存本能を感じるのは、虫にも、動物にも、植物にも、もちろん人間にも。
身体を擬態したり、音や匂いに敏感で臆病だったり、触れると萎れたり、寂しくなったり、承認を求めて一生懸命に努力しようとしたり、すべての営みが生存本能に基づいて自然に行動して、いろいろな特徴ある生を全うして、次の世代に命を引き継いでいく。
遺伝子を通じて、特徴を同じ種に引き継ぐだけでなく、多様な生き物の栄養やら原子の一部、細胞の一部となって、僕らは死んでいなくなったように見えて、どこかの一部の中に溶けて生き続けていく。
そもそも、僕らもまた、どこかで死んできた人間・植物・動物・昆虫やその他の存在する素材そのものが形を変え、「人」という現象に参加し、「人」を形成するという大きめのお祭りに参加しているようなもの。
その素材そのものに遺伝子の種が芽吹き、本能を呼び覚まし、欲求して行動を起こし始める原点となる。つくづく不思議なことだなと思います。
今日もなんだかぼんやり過ごす余裕の時間があったことを心から味わうことを離れ、すこし楽しみ切れなかったところがあった自分に気付きました。
すぐれた存在となり、生き残るために、自己否定し、いま不足していることに目を向けて、すこしでも価値を高められるように生きていくことに苛まれるのでは、生存本能に仕掛けられた生きるために苦しむ仕掛けから離れることができません。自分で自分の首を絞めるプレイが終わりません。
終わったと思っても、ちょいちょいクセが顔を出したりね。
楽しみ、味わい、感謝し、死ぬまでの時間に見れる景色を楽しむ。お風呂で見た変態のようすが、またひとつ生きることの気づきをくれました。