大腸がんと診断されました
”今止まったな”
「まな板の上の鯉」は一体どんな気持ちなのだろうか…
通常の男性用のトランクスを後ろ前に履いたような紙製の検査用下着を履いた状態で、冷たく堅い検査用ベッド横になりぼんやりとHD画像の大型ディスプレイを見ていた自分はふと我に返った。
大腸の内視鏡検査は肛門から出発して往路は大腸の入り口(きっと盲腸あたり)のところまでカメラを押し込む。その際胃カメラのように喉を通過するのが大変とか、際限なく嘔吐感に襲われることはないが、”R”のキツイ曲線では上からギュウギュウお腹を押し込まれたりする。慣れるということはなさそうだと思いながら、画面を見ていると目に飛び込んだのはそれまで見たことのない嫌悪感さえ感じる「異形の肉塊」だった。
それは一瞬のことだったが、検査医もプロらしく何事もなかったように作業を進めた。但しあきらかにモニターだけではなく、自分の患者の視線がその進行が止まったカメラの先に映っている”モノ”を見ていたことを確認していたように見えた。
カメラは何事もなかったように先ほどとは打って変わって意外にも綺麗な内臓の内側を進んでいく。やがてカメラは終着点までうねりながら進み、そこから折り返同じ道のりを細かく検査しながら帰路につくことになる。
どうやら小さいポリープが2つあるようだ。切除に関する意思確認をされる。すこし白濁している突起物はカメラに仕込まれた熱線のようなもので簡単に切除されるとともにすぐ止血される。どうやら内視鏡的粘膜切除術(EMR)というようだ。検査結果用紙のメモをみてあとからググってみた。便利な世の中になったものだ。
”いまの医療技術はやはりすごいな”と思っていると、検査医からはEMR施術を行ったことにより、最低1日の短期入院になることを告げられる。
あとから考えると、この告知は あきらかに”伏線” である。
大腸検査といっても実際には肛門から直腸を抜けS字結腸を経由した後、紆余曲折して中間折り返し地点の盲腸まで進むことになる。そういえばあの”異形の肉塊”を見たのはずいぶん最初の工程であったと思っていると、今度は確実に検査医の手は止まった。
「先ほどみていましたよね…この塊は内視鏡では切除できません。精密に検査するために検体を収集します」
何かどこかドラマのワンシーンで聞き覚えが有るような話しだがどうも実感がない。
生体を採るために異形の肉塊に何らかの操作により薬が吹き付けられるとこれまで以上にその塊の異様さは増し、少し抗うように動いた気がした。
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アレルギー体質で皮膚が弱く季節によって少しトイレットペーパーに血が付く程度のことはあった。前回の大腸内視鏡検査も結果なにも異常はなかった。
ふと青天の霹靂という言葉が浮かんだ。
そして次には妻にどのように伝えようかを考え始めていた。
1日入院の後、1週間程度で採取された自分自身の生体は悪性の腫瘍で有ると告げられた。