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エッセイ『読書と音楽とサイクリング』 サドル買いました。

ロードバイク乗りには、「サドル沼」という忌々しい言葉がある。ケツの座りが悪かったり、痛みが出るため、次から次へとサドルを買い替える抜き差しならない無駄遣い誘発の一大事だ。ロードバイクに馴染みのない人は「あんなに薄くて小さなサドルに乗ってりゃ、そりゃ痛くもなるでしょ。」と、アホにする。確かにそうだなあと一瞬ぐらつくが、造形美を追求しているロードバイクのフレームにママチャリの重量級サドルを装着するのは無理筋というものだ。専門的なことはわからないが、おそらく、あのふわふわのでっかいサドルで長距離を走ると、尻痛以外の多種多様な不具合を生じるのではないのか。あらぬところへ筋肉痛、タマ○ンの定位置不安定症候群、デリケートゾーンの炎症、股擦れ、脱肛。知らんけど。
サドル沼と十把一絡げにするのではなく、分類可能だと思うので、遊び心でやってみる。以後に出てくるブランド名もその感想も、あくまでも「個人の感想」なので悪しからず。だってみんなケツの形が違うんだもん。

1『どうにもならない、ケツにあわない』

乗り出して5分もしないうちに尻も内股も、どこもかしこも痛くなる場合がある。走りながら「やってもうた!」。と小声で呟くも、時すでに遅しなのだ。ぼくの場合はここ数年で2個ほどあった。ひとつはスペシャライズドのS-WORKS POWERだ。高額だったが仕方ない。ショートノズル黎明期の逸品として市場で高く評価されていたので、つい手を伸ばした。尻と内腿に残念な痛みを感じた。そして、もうひとつはPrologoのスクラッチM5。Prologo信者のぼくとしては不本意な逸品となった。こいつはあまりにも硬すぎた。

2『なんかしっくりこない』

「サドル沼」のほとんどがこれに属すと思う。悪かないけど、な〜んかしっくりこないなあ、というやつだ。ロードバイクに乗り始めて、かれこれ25年ほどになる。この間に、人にあげたり、メルカリで売ったり、物置の奥の方で埃を被っているものは全部で30個をくだらない。いやもっとかもしれない。BROOKS carved cambiumはその典型だった。最初の20kmくらいは絶好調、そのうち段々と違和感が出てきて、50kmを過ぎたくらいから、やおら痛みが出る。遂に手放した。

3『とにかく買いたい』

当たり前だが、サドルメーカー各社は儲けなきゃならない。だから、テクノロジーを駆使し、人間工学を掘り下げ、トッププロサイクリストの名を冠するマーケティング戦略を展開し、必死のパッチで販売に勤しむ。これにまんまと引っかかる。むしろ率先して引っかかりに行くのだ。先週買ったサドルがまさにそれだった。その名はPrologo NAGO R4 PAS 147mm。スロベニアが生んだ天才サイクリスト、タディ・ポガチャルが愛用するサドルだ。彼はツールドフランス総合優勝3回、ジロデイタリア総合優勝1回の雲の上の人。
彼とぼくの共通点は口から食物を摂取し、肛門から排泄することだけで、あとは全く別物だ。だから、このサドルを装着して、どうにかなるわけがない。わかっています、ああわかっていますとも。これを購買欲求というのです。

実は妻が、これら全ての論理展開を台無しにする、至極のひと言を放ったことがある。「尻に合うサドルを探さんと、サドルに自ら尻を合わせにいかなあかんわ。お金がなんぼあっても足りひんやろ。お願いします。」

あの、実はこれ、男女関係の話です。

合掌。チ〜ン。

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