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10.田舎町ブラでの暮らし

3月31日の退職日は、私にとって文字どおり「長い1日」となりました。
成田からパリまで12時間、乗り継ぎに2時間、パリからトリノまで1時間半、そして、トリノのホテルまでの移動に30分。

日本からイタリアへの移動にそれだけの時間を費やしているのに時差があるので、ホテルの部屋に落ち着いてもまだ3月31日でした。


トリノからブラへ

荷物をほどくこともなく、すぐに大きなバスタブにたっぷりお湯をはってゆったりリラックスしたせいか、ものすごく良質な睡眠をとることができました。
翌朝、カプチーノに甘いペストリー、チーズ、サラミや生ハムといったイタリアのホテルっぽい朝食を取り、チェックアウト。

スーツケースは重いけれど節約のため、ブラへは電車で移動するつもりでした。
そのためホテルもローカル線の出発するトリノ・ポルタ・ヌォーヴァ駅前に取っていたのです。

Jolly Hotel Ligure。
あれから20年、今も存在しているのかは不明

駅に行って片道きっぷを購入。
3ユーロ10セント也。
11時45分発のブラ行き列車は、悪名高きイタリア国鉄なのに定刻どおりに発車し、ちょうど1時間後、ブラに着きました。

懐かしい景色との再会、とはならず

ブラでの宿泊は当然、出張で利用したB&Bです。
あの景色に再会したいがために会社を辞めてここまで来たようなものですから。
イタリア行きが確定したと同時に連絡して、4月1日から3ヵ月間部屋を抑えておいたのです。

ブラ駅からB&Bへ移動し、建物に着いたのは13時過ぎ。
通りに面した木戸のような門を開け中庭に入り、そこから建物の階段を上がって2階にあるレセプションへ行きました。
でもすでにお昼休みに入っていたらしく、呼び鈴を鳴らしても誰も出てきません。
携帯電話も持っていませんし、あきらめてメモを残し、荷物を階段脇の目立たない場所へ置き、ブラの町を散策しました。

そして15時に戻り再びレセプションへ。
今度は扉も開いていて、無事にチェックイン完了。
いよいよ1年4ヵ月ぶりに懐かしいあの部屋に案内されるのかと思いきや。

手違いで通された別の部屋からの眺め

ツインルームのあの部屋は別の二人客に占領されていました。
私はひとりなのでシングルルームということで別の部屋が用意されていたのです。
仕方ない。
残念ですけど、それでもイタリア生活のスタートに変わりはありません。

最初に買ったもの

スーツケースを開けることもせず、まずはその日の夕ごはんの買い出しのため、ブラに1つしかないスーパーマーケットへ行きました。

ところで、なぜ20年も昔のことをこんなふうに細かく覚えているのかというと、今はもう公式には閉じてしまったけれど、当時書いていたブログが残っているからです。
お世話になった上司に強く勧められて始めました。
ブログを通してイタリアから情報発信しろというアドバイスだったのです。

このブログによると4月1日にブラのスーパーマーケットで私が買ったものは、
オリーブオイル
黒こしょう
レモン果汁
トマト
アスパラガス
ニンニク
グレープフルーツ
でした。

肉屋のおばちゃんとの再会

その後、肉屋さんへ行き、ブラ名物の生サルシッチャも購入したのですけど、こちらへは出張へ来たときも立ち寄っていました。

生サルシッチャ(Salsiccia di Braサルシッチャ・ディ・ブラ)とは、生食できるサルシッチャのことで、豚肉ではなく牛肉を挽いてスパイスと塩で調味したものを腸詰にしてあります。
生食することがほとんど。
ちょっと古くなったのを火を通して食べてももちろん美味しい。

11世紀ごろ、周辺に住んでいたユダヤ人のため、宗教的に豚肉が食べられない彼らのために牛肉を詰めたサルシッチャを用意したのが始まりだとか。
そしてこの生サルシッチャ、他の地域のイタリア人に言っても信じてもらえないほど、なかなかにレアな名産品なのです。

出張で立ち寄ったのも生サルシッチャをお土産に買って帰りたいと思ったから。
そのときの私はイタリア語が分かりません。
肉屋のおばちゃんはイタリア語しか分かりません。
それなのになぜか会話が成立したという不思議な体験をしたのです。
生サルシッチャは持っていけないと言われた(と理解した)ので、代わりに勧められた(と理解した)サラミを買って帰りましたっけ。

肉屋のおばちゃんは健在でした。
このおばちゃんとの不思議な会話体験も、イタリア語を学ぼうと思ったきっかけのひとつ。
私の人生のキーパーソンのひとりと言えるでしょう。

ブログのサムネしか残ってなくて解像度がザンネンですけど。
生サルシッチャに添えてあるのが何なのか今ではさっぱり思い出せず

私のイタリア生活、記念すべき最初の夕ごはんはこうして準備されました。
10ユーロの激安バローロと共に。

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