スマホのための腕 薄汚れたスラム街の片隅で、少年リオは古びたホログラム広告を見つめていた。最新型スマホ「ギャラクシーZ」の広告だ。指紋認証どころか、網膜認証すら時代遅れにしたという、思考を読み取るAIを搭載した夢の端末。リオは、そのスマホを手に入れることを渇望していた。 リオは17歳。孤児としてスラムで育ち、廃品回収で生計を立てていた。彼にとって、外界との唯一の繋がりは、ボロボロの中古タブレット端末。だが、そのタブレットもバッテリーが膨張し、画面にはヒビが入り、もはや限界だった。 「あのスマホさえあれば…」 リオは、ギャラクシーZを手に入れれば、スラムから抜け出し、違う人生を歩める気がしていた。しかし、彼には当然、そんな高価なものを買う金はない。 そんな時、リオは街角で奇妙な噂を耳にする。「ブラックマーケットで、体の一部を高値で買い取ってくれるらしい」。リオは藁にもすがる思いで、その闇市を訪れる。 そこは、薄暗く、生臭い匂いが漂う場所だった。リオは、奥まった部屋に通され、白衣を着た男と対面する。男は、リオをじろじろと眺め、冷淡な声で言った。 「君の腕は、なかなか良い標本になりそうだ。最新義手の開発に役立つだろう」 リオは、一瞬言葉を失った。腕を売る?そんなことが本当にできるのか?しかし、男が提示した金額は、リオの想像をはるかに超えていた。ギャラクシーZはもちろん、スラムを出てまともな暮らしができるほどの額だった。 リオは迷った。腕を失うことは、廃品回収の仕事ができなくなることを意味する。だが、スマホを手に入れれば、きっと別の道が開けるはずだ。 リオは、覚悟を決めて契約書にサインした。手術は、想像以上に痛かった。麻酔が切れた後も、腕があったはずの場所がズキズキと痛んだ。しかし、リオは後悔していなかった。彼は、新品のギャラクシーZを手に、スラムを後にした。 街に出たリオは、初めて見る光景に目を奪われた。高層ビル群、空飛ぶ車、ホログラム広告……。そして、人々は皆、最新のデバイスを身につけ、忙しそうに歩き回っていた。 リオは、ギャラクシーZを操作し、情報収集を始めた。仕事探し、住居探し、そして、義手の購入……。しかし、現実は甘くなかった。まともな仕事は見つからず、安いアパートは劣悪な環境だった。義手は高価で、リオの手が届く代物ではなかった。 リオは、次第に孤独を感じ始めた。スラムでは、貧しくても仲間がいた。だが、この街では、誰も彼に関心を示さない。リオは、自分が透明人間になったような気がした。 ある日、リオは公園で、ストリートミュージシャンが演奏しているのを見かけた。楽しそうに歌い、ギターを弾くその姿を見て、リオはハッとした。彼は、スマホにばかり気を取られ、本当に大切なものを見失っていたのだ。 リオは、残った腕でギターを練習し始めた。不器用ながらも、彼は心を込めて弦を弾いた。そして、路上で演奏する勇気を振り絞った。 最初は、誰も足を止めてくれなかった。しかし、リオは諦めなかった。彼は、心を込めて歌い、ギターを弾き続けた。 すると、少しずつ、人々が足を止め始めた。リオの歌に耳を傾け、彼の演奏に拍手を送る人も現れた。リオは、初めて、この街で自分の居場所を見つけた気がした。 リオは、腕を売ってスマホを手に入れた。しかし、本当に大切なものは、スマホでもお金でもなかった。それは、自分の力で何かを生み出し、人と繋がる喜びだった。リオは、これからもギターを弾き続け、自分の音楽で人々に感動を届けたいと願っていた。 そして、いつか、自分の腕で作った音楽で、最高のスマホを手に入れることを夢見て。