虹彩の交換 22世紀、人類は視覚を自由に交換する技術を手に入れた。 「アイ・バンク」と呼ばれる施設には、様々な色や能力を持つ眼球が保管されている。青い空を映す瞳、暗闇でも見える瞳、望遠レンズのように遠くのものを見通す瞳…。人々は、まるで服を選ぶように、自分の好みに合った眼球を購入し、外科手術で交換することができた。 主人公のレイは、生まれつき視力が弱く、厚い眼鏡が手放せなかった。彼は、アイ・バンクの広告に映る、鮮やかな世界に憧れていた。 「あの瞳があれば、世界が違って見えるんだろうな…」 レイは、貯金をはたいて、最新型の「イーグルアイ」を購入した。それは、鷹のように鋭い視力を持つ、琥珀色の瞳だった。 手術は成功し、レイは新しい視界を手に入れた。世界は、今まで見ていたものとは全く違っていた。木々の葉の一枚一枚、遠くの建物の窓枠まで、鮮明に見えた。彼は、まるで生まれ変わったような気分だった。 しかし、レイは次第に違和感を覚えるようになる。 以前は、ぼんやりとしか見えなかった人々の表情が、 now はありありと見えてしまう。些細な皺、隠しきれない疲労、偽りの笑顔…。世界は、鮮明になったと同時に、残酷さも増したように感じられた。 ある日、レイは、親友のユウキと街を歩いていた。ユウキは、レイの新しい瞳を羨ましそうに眺めながら言った。 「いいなぁ、イーグルアイ。俺もいつか手に入れたいよ。」 レイは、ユウキの瞳を見た。それは、平凡な茶色の瞳だったが、温かさと優しさに満ちていた。 「…そうだな。でも、今の君の瞳も素敵だよ。」 レイは、心の底からそう思った。 ユウキは少し照れくさそうに笑った。 「そうかな?でも、やっぱりイーグルアイは憧れるなぁ。」 レイは、複雑な気持ちになった。視覚を交換することで、彼は確かに新しい世界を手に入れた。しかし、同時に、大切な何かを失ってしまったような気がした。 彼は、アイ・バンクでもらったパンフレットを思い出した。そこには、小さな文字で注意書きが書かれていた。 「眼球の交換は、あなたの視覚を変えるだけでなく、心のあり方にも影響を与える可能性があります。」 レイは、その意味を、 now は理解することができた。 彼は、イーグルアイの視力を捨て、元の瞳に戻すことを決意した。世界は、再びぼんやりとしたものになった。しかし、レイは、心の奥底から安堵感を感じていた。 彼は、本当の豊かさは、視力ではなく、心のあり方にあることを知ったのだ。